都会でひとり暮らしを始めたらダークエルフのメイドさんが付いてきたけどなにか質問あります?

黒巻雷鳴

文字の大きさ
10 / 12

第10話 チェンジング・マイ・ライフ

しおりを挟む
 彼女と友好的な関係を築きたいと常日頃から強く願うあたしは、帰宅途中に駅の近くにある大型量販店〈モンキ・コウテイ〉でパーティーコスプレ用のメイド服を衝動的な思いつきで購入した。
 そして、いまのあたしは、彼女に匹敵するほどのドスケベメイド衣装に身を包んでいる。これって、しゃがんだり前屈みになったら、絶対にパンツが見えるヤツでしょ!?

「……御主人サマ? 溜まってらっしゃるのなら、小一時間ほどお風呂掃除をいたしますが……」

 真顔の彼女が問いかける。

「いや、うん、あたしは全然大丈夫だし溜まってないから。そんなことより、どうかな? 似合ってる?」

 照れ笑いと脂汗が止まらない。やっばり着るんじゃなかったと激しく後悔。

「似合ってはいますが……」
「が?」
「胸のサイズが、かなり足りていないかと」
「くっ! そ、そうだよね、だってフリーサイズだもん!」

 照れ笑いから一瞬で涙目に変わったあたしに、彼女はなぜか突然の拍手をくれた。

「……えっ、なんの拍手なの? あたしなにかしたっけ?」
「ブラボー」
「棒読みのブラボーもよくわからないんだけど? 怖いよ? 突然の拍手とブラボーは結構怖いよ?」
「いえ、一応は誉め称えてみました」
「う、うん。お気遣いありがとう……やっぱりよくわからないけど」 

 とりあえず人生初のメイド服を着た記念に、彼女とふたりで自撮りしてみる。

 ──カシャ。

 メイド服を着たキモい笑顔の日本人と無表情なダークエルフのツーショット写真。なんかシュールな一枚が撮れた。
 おっと、いけない。コスプレ目的でメイド服を着たんじゃなかった。彼女との心の距離を縮めるために、五千円も支払って購入したんだった。

「ねえ、せっかくだし、あたしにもメイドの仕事をさせてよ。いまだけちょっと立場を入れ替えてみない? お掃除とか身のまわりの世話をさせてよ」
「……御主人サマがお望みであれば」

 そういって彼女は、台所から今夜の夕飯のシャバカレーを一人前だけ持ってきた。いったいなんのつもりだろう?

「そこで寝転べ、この雌豚メスブタ!」
「ちょっと待ってください。その熱々のシャバカレーをあたしにかけるんだよね? 絶対に大火傷するパターンだよね?」
「いいから主人あるじのいうことをきけ!」
「こわっ……“いうことをきけ”の時の顔、こわっ……」

 致し方なく床の上に仰向けで寝転がる。そのときに彼女の口角がちょっとだけ上がったのが見えて、めっちゃ怖くなってきた。

「いまから夕飯の時間だ。とくと味わうがいい!」
「やっぱりやめよう、怖いよ! 数秒後の未来がめっちゃ怖くてチビりそうだよ! それに、主従関係の解釈が大幅に間違ってるし!」
「……御主人サマがお望みであれば」
「はぁはぁ……あ、ありがとうございます」

 脂汗が止まらないまま四つん這いの姿勢になったあたしのお尻を、突然彼女がいやらしい手つきで撫でまわす。

「えっ、今度はなによ?」
「メイド仕事といえば、セクハラはつきもの。我慢して耐えてくださりやがれ」
「いや、それ偏見! なにかの偏りまくった偏見まみれの知識じゃない! あたしした!? あなたにセクハラを……って、してたねガッツリと」

 過去の自分が犯した罪が、きょうになって跳ね返ってくるとは。冷静になってよくよく考えてみると、とんでもないことをあたしは彼女にしてきていた。
 変態だ。
 ひとり暮らしを始めてからのあたしは、すっかりと変態になってしまっていた。
 こんな変態女主人のいうことなんて、誰もききたくはないだろう。そのことを気づけただけでも、五千円を支払ってメイド服を買った甲斐があった。

「いままでごめんなさい、いっぱいスケベして」
「……謝らないでくださりやがれ。許容範囲内のことです」
「そんな、どうして……どうしてそこまで頑張れるの? いったいなにがあってこんな仕事を?」

 そういってから、しまったって気づいたけど遅かった。
 余計なことをまたきいてしまった。これで彼女との心の距離が、さらに遠くなったに違いない。部屋のなかの空気が、一気に重苦しいものに感じられた。

「……借金が」
「えっ? 借金? 借金があるの?」

 きき取れるかきき取れないかの小さな声で、彼女は答えた。
 なんの借金なのか、金額がいくらなのかが気になる。
 もしかして、数億円とか?
 彼女は本当は名家の生まれで、没落したから借金に苦しめられて異世界まで出稼ぎに?

「あの……さ、いい難いだろうけど、ちなみに幾らくらいの金額なの?」
「……この国の通貨に換算すれば、百五十万円ほどだ」

 微妙な金額だった。
 頑張ってアルバイト掛け持ちすれば返せそうな、そんな金額だった。

「でもさ、わざわざ異世界から働きにくるほどの大金ではなさそうなんだけど……あっ、ごめん。あなた達の世界の物価とか全然知らないのに」
「いや、物価はさほど変わらない。この仕事をしているのは借金の返済だけではないからな」
「それって……」

 彼女の深いため息が、あたしの言葉のつづきを遮る。さすがにこれ以上は教えてくれなさそうだ。

「賭けだ。賭けに負けたのだ。ただ百五十万を支払うだけでなく、異世界で人間相手にメイド仕事をして返済をする──そんなバカげてくだらない賭けに、わたしは負けた。ただ、それだけのことだ」
「そうだったんだ……」

 それからお互いになにを喋るわけでもなく、夕飯の温くなってしまったシャバカレーを食べてからお風呂に入り、きょうという日が終わりを告げた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

春に狂(くる)う

転生新語
恋愛
 先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。  小説家になろう、カクヨムに投稿しています。  小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/  カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761

身体だけの関係です‐原田巴について‐

みのりすい
恋愛
原田巴は高校一年生。(ボクっ子) 彼女には昔から尊敬している10歳年上の従姉がいた。 ある日巴は酒に酔ったお姉ちゃんに身体を奪われる。 その日から、仲の良かった二人の秒針は狂っていく。 毎日19時ごろ更新予定 「身体だけの関係です 三崎早月について」と同一世界観です。また、1~2話はそちらにも投稿しています。今回分けることにしましたため重複しています。ご迷惑をおかけします。 良ければそちらもお読みください。 身体だけの関係です‐三崎早月について‐ https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/500699060

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

メイドが世界を救った話

Masa&G
ファンタジー
世界を救った英雄ブラン=ハーメル。 今では王都で、すっかりぐーたらな生活を送っている。 そんな彼の世話役になったのは、 19歳のメイド、モニカ=ハブレット。 かつて英雄に憧れた少女と、 かつて英雄だった男―― 文句を言いながら洗濯をして、 ため息をつきながらも、今日も世話は続いていく。 ――やがて再び、ドラゴンの影が現れる。 これは、メイドと元英雄の少し不器用で、少しあたたかい物語。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

処理中です...