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4話 龍の祠
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半額になったアイスを買って「ラッキー!」と軽快に笑う彼女の笑顔が浮かぶ。
男の子に意地悪をされて泣く私の前に立ち、
「みのりを泣かせるやつは許さない!」
と言って掴みかかっていく夏美ちゃんの美しい背中が浮かんでくる。
・・・嫌だ。
夏美ちゃんがいなくなるなんて、そんなの嫌だ。
気づけば走り出していた。
警察でも軍隊でも、原子爆弾でも隕石でもなんでもいい。
誰か大猿を倒してよ。夏美ちゃんを助けてよ!
心の中で叫びながら走る。
一の山の麓に到着する。遠足でこの場所までは来たことがある。
それ以上先に進むことは子供には危険だからと、止められていた。
山の奥の方から、黒くてザラザラした何かが流れて来ている。
邪悪な“何か”。
正直言って怖い。
だけど、夏美ちゃんが死んでしまう方が、もっと怖い。
もう一歩、踏み出す。
山の中をとにかく走った。走れば走るほど、奥へ奥へと誘い込まれて行くように感じる。
深い闇が私を覆い、浸食して、乗っ取ろうとしているかのようだ。
大猿に捕まっていることなんて関係ない。夏美ちゃんを早く見つけ出したい。
気持ちが急くばかりで、先ほどから同じような場所をぐるぐると回っているような気がする。
景色が変わらない。
それにもかかわらず、闇は山に入った時からどんどん深くなり、身体の自由を奪おうとする。
「わっ!」
樹木が地面から飛び出している場所につま先が引っ掛かり、転んだ。
膝から血が出ている。
涙が出そうになるが、こらえる。
そういえば今は何時なのだろう。
朝ご飯を食べてこなかったので、痛みと共にお腹も空いてくる。
走り回った疲れもあって、意識が朦朧としてくる。
太陽の光が木々の隙間から差し込んでくるのが見える。
夏美ちゃんは今どんな気持ちだろうか。
いつもは明るいけど、お化けやジェットコースターなどの怖いものはあまり得意じゃないはず。
一緒に行った時は、いつもぎゅっと目を瞑って耐えていた。
きっと大猿に捕まっている恐怖はそんなものとは比べものにならないのだろう。
早く立ち上がろう。
立ち上がって、夏美ちゃんを迎えに行こう。
足に力をいれようとしたが、うまく力が入らない。
目が霞む。
だめだ、と思った瞬間、目の前が真っ暗になった。
唄が聴こえる。
聴く者の魂を鼓舞し、山に涼風を届ける。
風が舞う。
音は空気中を伝わり、闇に光の存在を知らせる。
光が差し込む。
山の動物たちが動きを止め、一つの方角を見る。
そして神様が、静かに降り立つ。
フカフカのベッドの上で、目を覚ます。
頭がくらくらする。
私、何をしていたのだっけ。
今日は何曜日だろう。休日だったらいいな、学校に行く気分じゃない。
思考が数秒の間にトントンっと頭の中を巡る。
体を起こすと、ベッド以外は別世界だった。
薄暗くて良く見えないが、天井から岩のようなものが飛び出している。
だけどごつごつはしていない。
届くものを触ってみると、滑らかな感触がした。これは、鍾乳洞のようなものだろうか。
社会の北村先生が最近教えてくれた。辺りを見回すと分かる。とびっきり大きな洞窟だった。
「わぁーーーー。」
口元に手を当てて、声を出してみると、わぁーーー。わぁーー。わぁー。と音が響いていく。
うん、なんだかすごいや。
私たちの住む町に、こんな場所があったなんて。
だけど、どこが出口なのだろう。
あまりこの景色に感動している時間はない。暗くて周りがよく見えないが、手探りで辺りを探ってみる。
滑らかな岩だなあと感心しながら進んでいると、何かフサフサしたものに手が触れる。
「なんだこれ。」
目を凝らしてみると、フサフサしたものが先端についていて、長いロープのようなものが奥の方へと続いている。
ロープをたどりながら、少しずつ前へ進んでいく。ゆっくりと辿っていくと、少しずつ辺りが明るくなる。
そして、ロープのようなものは“何かの尻尾”だと言うことが分かる。
恐る恐る先へ進むと、その正体が姿を現した。
鋼の鱗。
大きな翼。
地上の全ての鉱物を噛み砕く頑丈な牙。
二本の立派な角。
小さい頃に絵本で見たことがあった。
龍だ。
それもとても大きな。
目を瞑り、眠っている。
洞窟の天井に1か所だけ穴が空いている場所があり、そこから、光が差し込んでいる。
その光の下で、圧倒的な存在感を放って眠る龍は、美しく神々しい姿を見せていた。その姿はまさしく、
「神様?」
声に出し、思わず見惚れてしまう。実際にその姿を見ると、その美しさは人智を超えたものにも感じた。
それと同時に、穏やかで懐かしい気持ちも押し寄せた。
夏美ちゃんが感動したと褒めてくれた龍の絵を描いた時のことは、実は記憶にない。
もちろん描いたのは私だ。
だけど、なぜその絵を描こうと思ったのか、どうやって描いたのかは覚えていないのだ。
その答えがこの場所にある気がした。
私が描いた龍の絵は、この生き物の姿とそっくりなのだ。
そっか、ここが「龍の祠」なんだ。
男の子に意地悪をされて泣く私の前に立ち、
「みのりを泣かせるやつは許さない!」
と言って掴みかかっていく夏美ちゃんの美しい背中が浮かんでくる。
・・・嫌だ。
夏美ちゃんがいなくなるなんて、そんなの嫌だ。
気づけば走り出していた。
警察でも軍隊でも、原子爆弾でも隕石でもなんでもいい。
誰か大猿を倒してよ。夏美ちゃんを助けてよ!
心の中で叫びながら走る。
一の山の麓に到着する。遠足でこの場所までは来たことがある。
それ以上先に進むことは子供には危険だからと、止められていた。
山の奥の方から、黒くてザラザラした何かが流れて来ている。
邪悪な“何か”。
正直言って怖い。
だけど、夏美ちゃんが死んでしまう方が、もっと怖い。
もう一歩、踏み出す。
山の中をとにかく走った。走れば走るほど、奥へ奥へと誘い込まれて行くように感じる。
深い闇が私を覆い、浸食して、乗っ取ろうとしているかのようだ。
大猿に捕まっていることなんて関係ない。夏美ちゃんを早く見つけ出したい。
気持ちが急くばかりで、先ほどから同じような場所をぐるぐると回っているような気がする。
景色が変わらない。
それにもかかわらず、闇は山に入った時からどんどん深くなり、身体の自由を奪おうとする。
「わっ!」
樹木が地面から飛び出している場所につま先が引っ掛かり、転んだ。
膝から血が出ている。
涙が出そうになるが、こらえる。
そういえば今は何時なのだろう。
朝ご飯を食べてこなかったので、痛みと共にお腹も空いてくる。
走り回った疲れもあって、意識が朦朧としてくる。
太陽の光が木々の隙間から差し込んでくるのが見える。
夏美ちゃんは今どんな気持ちだろうか。
いつもは明るいけど、お化けやジェットコースターなどの怖いものはあまり得意じゃないはず。
一緒に行った時は、いつもぎゅっと目を瞑って耐えていた。
きっと大猿に捕まっている恐怖はそんなものとは比べものにならないのだろう。
早く立ち上がろう。
立ち上がって、夏美ちゃんを迎えに行こう。
足に力をいれようとしたが、うまく力が入らない。
目が霞む。
だめだ、と思った瞬間、目の前が真っ暗になった。
唄が聴こえる。
聴く者の魂を鼓舞し、山に涼風を届ける。
風が舞う。
音は空気中を伝わり、闇に光の存在を知らせる。
光が差し込む。
山の動物たちが動きを止め、一つの方角を見る。
そして神様が、静かに降り立つ。
フカフカのベッドの上で、目を覚ます。
頭がくらくらする。
私、何をしていたのだっけ。
今日は何曜日だろう。休日だったらいいな、学校に行く気分じゃない。
思考が数秒の間にトントンっと頭の中を巡る。
体を起こすと、ベッド以外は別世界だった。
薄暗くて良く見えないが、天井から岩のようなものが飛び出している。
だけどごつごつはしていない。
届くものを触ってみると、滑らかな感触がした。これは、鍾乳洞のようなものだろうか。
社会の北村先生が最近教えてくれた。辺りを見回すと分かる。とびっきり大きな洞窟だった。
「わぁーーーー。」
口元に手を当てて、声を出してみると、わぁーーー。わぁーー。わぁー。と音が響いていく。
うん、なんだかすごいや。
私たちの住む町に、こんな場所があったなんて。
だけど、どこが出口なのだろう。
あまりこの景色に感動している時間はない。暗くて周りがよく見えないが、手探りで辺りを探ってみる。
滑らかな岩だなあと感心しながら進んでいると、何かフサフサしたものに手が触れる。
「なんだこれ。」
目を凝らしてみると、フサフサしたものが先端についていて、長いロープのようなものが奥の方へと続いている。
ロープをたどりながら、少しずつ前へ進んでいく。ゆっくりと辿っていくと、少しずつ辺りが明るくなる。
そして、ロープのようなものは“何かの尻尾”だと言うことが分かる。
恐る恐る先へ進むと、その正体が姿を現した。
鋼の鱗。
大きな翼。
地上の全ての鉱物を噛み砕く頑丈な牙。
二本の立派な角。
小さい頃に絵本で見たことがあった。
龍だ。
それもとても大きな。
目を瞑り、眠っている。
洞窟の天井に1か所だけ穴が空いている場所があり、そこから、光が差し込んでいる。
その光の下で、圧倒的な存在感を放って眠る龍は、美しく神々しい姿を見せていた。その姿はまさしく、
「神様?」
声に出し、思わず見惚れてしまう。実際にその姿を見ると、その美しさは人智を超えたものにも感じた。
それと同時に、穏やかで懐かしい気持ちも押し寄せた。
夏美ちゃんが感動したと褒めてくれた龍の絵を描いた時のことは、実は記憶にない。
もちろん描いたのは私だ。
だけど、なぜその絵を描こうと思ったのか、どうやって描いたのかは覚えていないのだ。
その答えがこの場所にある気がした。
私が描いた龍の絵は、この生き物の姿とそっくりなのだ。
そっか、ここが「龍の祠」なんだ。
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