ニュンフェの男

みん

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7話

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「俺に?今までそんなこと言う人なんていなかったから嬉しいが・・・どういうことなんだ。」酒飲みはだんだんとサリーの話が現実のものなのか作られたものなのか判断がつかなくなってきていた。目の前で話すサリーは冗談を言っているような顔ではないが、とても信じられるような内容ではなかったからだ。妖精が自分に会いに?そんなことがあるのだろうか、と。

「先ほども言ったように、私だけが妖精なのではなく、あなたも妖精界の住人なのです。そしてあなたは単なる住人ではなく、妖精界の王の子。つまり・・・。」

「王子ってことか?」と言って酒飲みは噴き出してしまう。「王子」という言葉が自分にあまりにも不釣り合いすぎて思わず笑ってしまったのだ。とても現実感がない。

「ええ。きっと笑ってしまうお話だろうとは思います。ですが、これは真実です。」そう言うサリーは酒飲みが噴き出すほどに笑っていることに少し腹を立てているようだった。だが酒飲みにはサリーが腹を立てている意味がいまいち理解できない。

「すまん、失礼した。だが俺が王子だなんて、きっと人違いさ。」と酒飲みが言う。

「人違いではありません。おかしいとは思いませんでした?なぜあなたは他の人間に比べて格段に身体が小さいのか。なぜあなたに両親も兄弟も親戚もいなくて、天涯孤独の身なのか。1度も、考えたことはありませんか?」

「おれの両親はおれが幼稚園に預けられているときに、交通事故で死んだんだ。親戚がいないのは、きっとあの人たちが親戚付き合いを好んでするタイプじゃなかったからだろう。」

「お通夜は?お葬式は?人間は死者を弔うための儀式を好みますよね。それらをした記憶が、あなたにはありますか?」

「分からねえ、俺は子供だったんだぞ。その頃の記憶なんて、曖昧なものだろう。身体が小さいのだって、世界中さがせばそういう人間もいるはずさ。そういう人たちは、みんな妖精だって言いたいのかい。」

「いいえ。だけどあなたの記憶が操作されていることは、知っています。そして妖精から人間へと姿を変えられ、この世界に連れて来られたことも。死者を弔うという習慣は、妖精界にはありません。だから、幼い頃の記憶を捏造することができても、人間界独特の文化を再現することは出来なかったのです。」

サリーの言葉に、酒飲みはだんだんと混乱してくる。自分の記憶が誰かに操作されていたなんて、とても信じられる話ではない。記憶に残っている両親との数少ない思い出も、今まで人として生きてきた時間も、全部嘘っぱちだとサリーは言っているのだろうか、酒飲みはそう思った。

「私はあなたのことをずっと、探していました。この時間、この場所に来てもらえれば証明ができる。そう思って連れてきました。」サリーがそう言うと同時に、空から雪が降ってくる。

「雪だ。」酒飲みが呟く。この街で雪が降るのは真冬でもとても珍しいことである。珍しいこともあるものだ、と酒飲みが思っていると、空から落ちてくる白い結晶がどんどんとその数を増やしていく。

ものの数秒で視界を埋め尽くすほどの雪が酒飲みとサリーの周囲を覆い、グルグルと彼らの周りを回転し始める。あっと酒飲みが叫ぶと夕陽が先ほどまでの輝きをさらに増して白い雪をオレンジに染めていく。酒飲みは突然現れた不思議な空間に驚きながらも、オレンジ色の雪なんて初めて見たなあなどと、見当違いなことを考えていた。
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