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1章 春
6話
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金沢片町には労働を終えたサラリーマンや学生が集まり、ガヤガヤと賑やかだった。
僕は十文字書店の配達作業や大学での講義に追われる日々を過ごしていたが、桜が散る頃にはすこし落ち着きを見せはじめていた。
今日は友人たちとの集まりに顔をだすため、金沢片町にある居酒屋「楽太郎」へと向かっている。渋谷のスクランブル交差点をミニマムにまとめたような交差点をわたり、少し歩いたところにその居酒屋はあった。
「六藤、おそいぞ」
中に入り、テーブルに着くと永井勇人が声をかけてくる。
十文字書店のアルバイト書店員である永井は、僕とおなじ国立大学に通う三年生だ。彼の実家は不動産会社を経営しており、いつも品の良いシャツを着ている。体格はひょろっと細長く、髪の毛には無造作にパーマがかけられている。
「時間ぴったりだろ、君らが早いんだよ」
「ごめんね。最近三人で集まってなかったから、楽しみで早くついちゃった」
柔らかくそう言うのは、同じく大学で同級生の園宮由紀である。
バイト終わりなのだろう、栗色の髪を後ろで縛りポニーテールにしている。うすく茶色がかった丸い瞳はおだやかで、ふっくらとした唇がやわらかく微笑む。彼女のところだけは、いつも暖かな光が差しているように見える。
二人は対面で座り、その間にはテーブルと、小さな将棋盤が置かれていた。
「ひさびさに“犀川の会”だな」
僕、永井、由紀の三人はおなじ犀川沿いに暮らしている。
永井と由紀は犀川大橋の西側、僕は東側である。永井と由紀は小・中学校が被っていたらしいが、僕は大学にきて初めて彼らと出会った。しかし、犀川沿いに住んでいるからと言って僕たちは自然と引き合い、仲良くなったわけではない。
“犀川の会”が作られるきっかけとなったのは、将棋だった。
大学に入学してすぐの頃、文学部の講堂の階段に、将棋盤と将棋の駒が捨てられていたことがあった。大学内を管理している学生自治会が回収し、持ち主を捜したが名乗り出る人がおらず、将棋盤と駒は自治会が所有することになった。
僕の大学には将棋部があったので、自治会から将棋部に寄贈されるのが通常なのだが、自治会長がそれでは面白くないと思ったのか、将棋盤と駒をかけて学内将棋大会を開催した。三人チームの団体勝ち抜き戦で、参加費は一人五百円。優勝したチームに、将棋盤と駒、そして景品が贈られる。
自治会側は準備が面倒だったのか、文字と簡単なイラストを描いた小さなポスターを学内に何枚か貼り、その二日後に大会をおこなった。父が将棋好きで、僕も少しは将棋を指すことが出来たが、大会に積極的に参加しようと思っていたわけではなかった。
永井と由紀に誘われたのだ。
将棋大会当日、講義が終わり、帰ろうと支度をしていると、
「君、将棋できる?」と永井に声をかけられた。永井は当時からひょろっとしたパーマ男で、軽薄な雰囲気があった。
「それを言うなら、将棋指せる?じゃないかな」と僕が言うと、
「由紀、三人目見つけたぞ!」と講義室に大きな声を響かせた。
初対面の永井はけして好印象ではなく、無視して帰ってしまおうと思ったが、由紀と名前を呼ばれた女の子を見て僕の鉄のように固い意志が揺らいだ。
至極単純な話である。
柔らかな光をまとって笑顔を見せる由紀に、僕は一目で惹かれてしまったのだ。
講義棟の廊下にはいくつかのソファが対面で並んでいて、その一角で将棋大会はおこなわれた。自治会長が思いつきで発案しただけの大会だったため、参加チームはたったの四チームだった。
「チーム名と代表者名を記入してくれ」
学生自治会長は濱田と名乗り、永井に参加表を渡した。医学部に在籍し、学生自治会長を務める濱田は話すだけで
相手を威圧するような雰囲気があった。
永井は参加表を受け取ると、チーム名を決めるのに頭を悩ませた。
「共通点が欲しいなあ。名前は・・・六藤だっけ、血液型とか、嫌いな食べ物とか、住んでいる地域とか教えてや」
「A型、わさび、犀川の近く」
「わさび嫌いなのかよ、人生損してるぜ」
話し合いの結果、チーム名は全員の共通項である“犀川”に決まった。
濱田はトーナメント戦を開くつもりだったのだが、チーム数が少ないため、総当たり戦となった。だらだらと指されても退屈なので、持ち時間はお互い十分と定められた。スピード将棋である。
先鋒は僕、次鋒に由紀、大将は永井となった。
一試合目がはじまると、僕は父と指していた頃の手順を思い出しながら、慎重に指していった。飛車を四筋におき、玉を右へ動かし、銀と金で玉の辺りを囲った。戦型は四間飛車美濃囲いである。相手の男の子も久しぶりなのか、えーと、と言いながら矢倉を組もうとしていた。本当は攻撃に対するカウンターで勝負するつもりだったが、矢倉作りにあたふたしているので、ガンガン攻めていくことにした。
「残り五分だ」
濱田が時間を読み上げる。
残り五分。順調に詰めていってはいるが、時間が足りない。中途半端だが相手の矢倉が機能していて、詰め切れない。
「残り三分」
息を吐く。
まだ肌寒い季節だというのに、脇のあたりに嫌な汗が流れるのを感じる。
今の持ち駒は香車と金。竜となった飛車が効いているので、王手を連続でかけていくことはできる。だけど果たして詰め切れるのだろうか。
「残り、一分」
相手の持ち時間もほとんど無いため、もしかすると引き分けに持ち込まれるかもしれない。それは嫌だと思い、覚悟を決め、香車を打ちこむ。王が逃げる。ノータイムで金を打つ。王が逃げる。竜を寄せる。王が逃げる。
王手が止む。
残り時間が秒読みされる。
そこで相手は自陣の飛車を僕の陣地へと移動させ、竜とした。引き分けに持ち込まず、勝ちをとりにきたのだ。
「あっ」ふと相手が声をだす。
横で見ていた由紀からも、声が漏れた。
飛車が竜となったのは、僕の角の通り道だった。
僕は角で竜をたたき、ゲットした飛車でふたたび王手をかけた。
「・・・負けました」
やったー!と隣で見ていた永井と由紀が歓声を上げた。結局相手のミスで勝利したが、勝ったことには間違いなく、純粋に嬉しかった。相手の男の子はミスったー、と頭を抱え、仲間に慰められていた。
一戦目から思った以上に白熱したこともあり、将棋大会は夜まで盛り上がった。チーム“犀川”は僕と由紀が二試合とも白星だったので、負けなしで最終試合をむかえた。
「園宮さん、強いですね」と僕が言うと、
「いやいや・・・家族が好きなんです」と由紀が恥ずかしげに笑った。
由紀はオールラウンダーというのか、相手の陣形に合わせて自陣を組み、相手が少しでも隙を見せると一瞬でその隙をつき、陣地を崩壊させていった。優しそうな顔で鬼のように強い由紀に、当たった相手が可哀そうなくらいだった。
「おい、大将に出番を回せよ」
永井はよほど自信があるのか、腕を組んでそう言った。
最終戦、負けなしでやってきた相手は、この大学の「将棋部」だった。
「おいおい、部なんてありか?」
「もちろん、ありだ。将棋の強い者がこの将棋盤と駒を得ることができる」
永井の言葉に、濱田は真顔で答えた。
たかだか階段に捨てられていたものなのに、まるで古くからある神聖なものについて語るような口ぶりだった。
簡潔に試合結果を言うと、僕は善戦したものの敗北し、由紀は勝利を収めた。
「なぜだ。僕はアマ二段を持っているんだぞ・・・」
「たしか由紀はアマ六段じゃなかったか?」
「永井くん、言わないで」
と恥ずかしがる由紀に、敗北した将棋部の人は青ざめていた。
アマ六段の女の子と親しげに話すこの男も強いのだろう、と将棋部のメンバーは警戒し始めた。すでに負けが決まっているチームの人たちも由紀の将棋に感心したのか、チーム“犀川”を応援しはじめた。
「がんばれ!」
「将棋部なんか倒しちまえ!」
永井は僕たちに背を向けたまま、声援に応えるように右手を高く掲げた。
自信を身体中に漲らせた永井は、とても頼もしく見えた。
「おれに任せとけ」
試合は五分で決着した。
棒銀で無計画に攻めていった永井が、コテンパンにやられた。棒銀を角、銀、金に軽くいなされ、なすすべもなくやられたのだ。
後に話を聞くと、永井は当日初めて将棋大会の開催を知り、午前中に由紀に将棋を教えてもらい、夕方の大会に臨んだということらしかった。
「あの雰囲気だと永井くんが初心者やって、とても言えなくて」
試合後、由紀は居酒屋「楽太郎」でそう言って笑った。その陽だまりのような笑顔に、僕はなにも言えなかった。
僕は十文字書店の配達作業や大学での講義に追われる日々を過ごしていたが、桜が散る頃にはすこし落ち着きを見せはじめていた。
今日は友人たちとの集まりに顔をだすため、金沢片町にある居酒屋「楽太郎」へと向かっている。渋谷のスクランブル交差点をミニマムにまとめたような交差点をわたり、少し歩いたところにその居酒屋はあった。
「六藤、おそいぞ」
中に入り、テーブルに着くと永井勇人が声をかけてくる。
十文字書店のアルバイト書店員である永井は、僕とおなじ国立大学に通う三年生だ。彼の実家は不動産会社を経営しており、いつも品の良いシャツを着ている。体格はひょろっと細長く、髪の毛には無造作にパーマがかけられている。
「時間ぴったりだろ、君らが早いんだよ」
「ごめんね。最近三人で集まってなかったから、楽しみで早くついちゃった」
柔らかくそう言うのは、同じく大学で同級生の園宮由紀である。
バイト終わりなのだろう、栗色の髪を後ろで縛りポニーテールにしている。うすく茶色がかった丸い瞳はおだやかで、ふっくらとした唇がやわらかく微笑む。彼女のところだけは、いつも暖かな光が差しているように見える。
二人は対面で座り、その間にはテーブルと、小さな将棋盤が置かれていた。
「ひさびさに“犀川の会”だな」
僕、永井、由紀の三人はおなじ犀川沿いに暮らしている。
永井と由紀は犀川大橋の西側、僕は東側である。永井と由紀は小・中学校が被っていたらしいが、僕は大学にきて初めて彼らと出会った。しかし、犀川沿いに住んでいるからと言って僕たちは自然と引き合い、仲良くなったわけではない。
“犀川の会”が作られるきっかけとなったのは、将棋だった。
大学に入学してすぐの頃、文学部の講堂の階段に、将棋盤と将棋の駒が捨てられていたことがあった。大学内を管理している学生自治会が回収し、持ち主を捜したが名乗り出る人がおらず、将棋盤と駒は自治会が所有することになった。
僕の大学には将棋部があったので、自治会から将棋部に寄贈されるのが通常なのだが、自治会長がそれでは面白くないと思ったのか、将棋盤と駒をかけて学内将棋大会を開催した。三人チームの団体勝ち抜き戦で、参加費は一人五百円。優勝したチームに、将棋盤と駒、そして景品が贈られる。
自治会側は準備が面倒だったのか、文字と簡単なイラストを描いた小さなポスターを学内に何枚か貼り、その二日後に大会をおこなった。父が将棋好きで、僕も少しは将棋を指すことが出来たが、大会に積極的に参加しようと思っていたわけではなかった。
永井と由紀に誘われたのだ。
将棋大会当日、講義が終わり、帰ろうと支度をしていると、
「君、将棋できる?」と永井に声をかけられた。永井は当時からひょろっとしたパーマ男で、軽薄な雰囲気があった。
「それを言うなら、将棋指せる?じゃないかな」と僕が言うと、
「由紀、三人目見つけたぞ!」と講義室に大きな声を響かせた。
初対面の永井はけして好印象ではなく、無視して帰ってしまおうと思ったが、由紀と名前を呼ばれた女の子を見て僕の鉄のように固い意志が揺らいだ。
至極単純な話である。
柔らかな光をまとって笑顔を見せる由紀に、僕は一目で惹かれてしまったのだ。
講義棟の廊下にはいくつかのソファが対面で並んでいて、その一角で将棋大会はおこなわれた。自治会長が思いつきで発案しただけの大会だったため、参加チームはたったの四チームだった。
「チーム名と代表者名を記入してくれ」
学生自治会長は濱田と名乗り、永井に参加表を渡した。医学部に在籍し、学生自治会長を務める濱田は話すだけで
相手を威圧するような雰囲気があった。
永井は参加表を受け取ると、チーム名を決めるのに頭を悩ませた。
「共通点が欲しいなあ。名前は・・・六藤だっけ、血液型とか、嫌いな食べ物とか、住んでいる地域とか教えてや」
「A型、わさび、犀川の近く」
「わさび嫌いなのかよ、人生損してるぜ」
話し合いの結果、チーム名は全員の共通項である“犀川”に決まった。
濱田はトーナメント戦を開くつもりだったのだが、チーム数が少ないため、総当たり戦となった。だらだらと指されても退屈なので、持ち時間はお互い十分と定められた。スピード将棋である。
先鋒は僕、次鋒に由紀、大将は永井となった。
一試合目がはじまると、僕は父と指していた頃の手順を思い出しながら、慎重に指していった。飛車を四筋におき、玉を右へ動かし、銀と金で玉の辺りを囲った。戦型は四間飛車美濃囲いである。相手の男の子も久しぶりなのか、えーと、と言いながら矢倉を組もうとしていた。本当は攻撃に対するカウンターで勝負するつもりだったが、矢倉作りにあたふたしているので、ガンガン攻めていくことにした。
「残り五分だ」
濱田が時間を読み上げる。
残り五分。順調に詰めていってはいるが、時間が足りない。中途半端だが相手の矢倉が機能していて、詰め切れない。
「残り三分」
息を吐く。
まだ肌寒い季節だというのに、脇のあたりに嫌な汗が流れるのを感じる。
今の持ち駒は香車と金。竜となった飛車が効いているので、王手を連続でかけていくことはできる。だけど果たして詰め切れるのだろうか。
「残り、一分」
相手の持ち時間もほとんど無いため、もしかすると引き分けに持ち込まれるかもしれない。それは嫌だと思い、覚悟を決め、香車を打ちこむ。王が逃げる。ノータイムで金を打つ。王が逃げる。竜を寄せる。王が逃げる。
王手が止む。
残り時間が秒読みされる。
そこで相手は自陣の飛車を僕の陣地へと移動させ、竜とした。引き分けに持ち込まず、勝ちをとりにきたのだ。
「あっ」ふと相手が声をだす。
横で見ていた由紀からも、声が漏れた。
飛車が竜となったのは、僕の角の通り道だった。
僕は角で竜をたたき、ゲットした飛車でふたたび王手をかけた。
「・・・負けました」
やったー!と隣で見ていた永井と由紀が歓声を上げた。結局相手のミスで勝利したが、勝ったことには間違いなく、純粋に嬉しかった。相手の男の子はミスったー、と頭を抱え、仲間に慰められていた。
一戦目から思った以上に白熱したこともあり、将棋大会は夜まで盛り上がった。チーム“犀川”は僕と由紀が二試合とも白星だったので、負けなしで最終試合をむかえた。
「園宮さん、強いですね」と僕が言うと、
「いやいや・・・家族が好きなんです」と由紀が恥ずかしげに笑った。
由紀はオールラウンダーというのか、相手の陣形に合わせて自陣を組み、相手が少しでも隙を見せると一瞬でその隙をつき、陣地を崩壊させていった。優しそうな顔で鬼のように強い由紀に、当たった相手が可哀そうなくらいだった。
「おい、大将に出番を回せよ」
永井はよほど自信があるのか、腕を組んでそう言った。
最終戦、負けなしでやってきた相手は、この大学の「将棋部」だった。
「おいおい、部なんてありか?」
「もちろん、ありだ。将棋の強い者がこの将棋盤と駒を得ることができる」
永井の言葉に、濱田は真顔で答えた。
たかだか階段に捨てられていたものなのに、まるで古くからある神聖なものについて語るような口ぶりだった。
簡潔に試合結果を言うと、僕は善戦したものの敗北し、由紀は勝利を収めた。
「なぜだ。僕はアマ二段を持っているんだぞ・・・」
「たしか由紀はアマ六段じゃなかったか?」
「永井くん、言わないで」
と恥ずかしがる由紀に、敗北した将棋部の人は青ざめていた。
アマ六段の女の子と親しげに話すこの男も強いのだろう、と将棋部のメンバーは警戒し始めた。すでに負けが決まっているチームの人たちも由紀の将棋に感心したのか、チーム“犀川”を応援しはじめた。
「がんばれ!」
「将棋部なんか倒しちまえ!」
永井は僕たちに背を向けたまま、声援に応えるように右手を高く掲げた。
自信を身体中に漲らせた永井は、とても頼もしく見えた。
「おれに任せとけ」
試合は五分で決着した。
棒銀で無計画に攻めていった永井が、コテンパンにやられた。棒銀を角、銀、金に軽くいなされ、なすすべもなくやられたのだ。
後に話を聞くと、永井は当日初めて将棋大会の開催を知り、午前中に由紀に将棋を教えてもらい、夕方の大会に臨んだということらしかった。
「あの雰囲気だと永井くんが初心者やって、とても言えなくて」
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