犀川のクジラ

１章 春

１０話

　僕は小さいころからときどき、何も考えずに行動してしまうことがあった。

　花火大会で迷子を見つけて、親を探して結局僕も一緒になって迷子になってしまったり、苛められている子を助けようとして殴られたり。

　父は僕が話すいろいろな出来事や失敗談を聞いた後にいつもこう言った。

「結果がどうであれ、人のために行動できたのは素晴らしいことだ」
　
　父は小学校の先生で小説家志望だったので、たくさんの本を読んでいた。

　だからそう言った後にはいつも、物語の世界の住人たちの話を聞かせてくれた。彼らはいつも多くの困難に出くわしてしまうが、勇気と知恵と仲間たちの力で困難を乗り越えていく。

　僕は自分がした失敗も忘れて、父の話に聞き入った。
　
　僕に物語の住人たちの話をする父の目がとても生き生きとしていたことを、よく覚えている。