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2話 一次試験
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「わぁー、すごい人だね」ロンが感心したように声をあげる。
“探検家”の試験は王の城で行われる。この国一番の建築家ライネルの設計が作り出す木造りの城の大広間には多くの受験者が訪れている。
ロンとセイムは「1134」「1135」と書かれたバッジを受付でもらって、席についた。受験番号が四桁を超えているということは、少なくとも1000人を超える受験者がこの会場にいるということであろう。
「まずは一次試験だからな。ロン、ちゃんと勉強してきたんだろな」
「うん、出来る限りは・・」と自信なさげなロン。
「おいおい、頼むぜまったく」とセイムが言う。
一次試験で半分、二次試験で半分、最終試験でさらに半分程度落とされる。つまり合格者は一割と少しということになる。三年に一度開催されるこの試験のために、彼らは努力を重ねてきた。
全ては“探検家”となってこの世界を見て回ることを夢にみて。
“探検家”に許される大きな権利は「国外探放」と「採掘権限」の二つであった。「国外探放」とは国の外へ出て、様々な場所に訪れることができる権利のことを言う。
そして「採掘権限」とは、その旅で見つけた様々な“古代道具”を次の旅、さらに次の旅で使用することができる権利である。この権利を保有することのできる“探検家”の称号を持たないものは、商人でもない限り国の外へ出ることはできない。
彼らが住むこの国の外側には多くの謎が残されている。ある探検家による探放レポートには、はるか昔、人類にはこの時代よりずっと繁栄していた時代があったのではないかという記載がある。
今では想像もできないほどの高度な文明が栄え、美しい建造物が建ち並び、人類は鉄の塊を空に浮かべたのだという。その探検家は国中のどの探検家よりも遠くの世界に行き、遥かな可能性を発見した後に、行方が分からなくなった。
「この世界には、ぽっかりと空いた空白の歴史がある」小さな声で自分に言い聞かせるように、ロンが呟く。
「ん、何か言ったか?」
「ううん何でもない。セイム、二人で絶対受かろうね」
「・・ああ」
親がなく、孤児であったセイムにとってロンは唯一無二の友人であった。ロンは幼いころから、国民が近寄ろうとしないスラム(貧民街)に平然と顔をだし、子供たちに食べ物を分けていた。スラムは壁から最も遠い中山間地にあるため、太陽の光があまり届かず、常に暗く、よどんだ空気が流れている。身寄りもお金もない子供たちの多くはちょっとした切り傷や病気から身体を壊し、命を失っていく。
大王はそんなスラムの住人のことなど全く気にかけず、国民も見て見ぬふりをするこの国の静かな闇であった。しかしロンはスラムの空気や治安の悪さに全く動じずに顔を出した。ロンの両親が一流の探検家であり、その気質を受け継いでいたからなのかもしれない。そんなロンにスラムの人々、そしてセイムが親愛の情を抱くのは当然のことであったのだろう。
セイム自身は孤児であるものの、商人から盗んだ(借りただけだ、いずれ返すと彼は言う)書物や薬、古代道具を独学で学び、多くの知識を身につけていた。探検家は国家資格であり、取得することができればスラムから抜け出すことができる。それだけスラムでの生活はみじめで苦しいものであった。スラムから抜け出すことだけをすっと考えているセイムにとっては、ロンの夢はとても眩しく美しいものに見えた。
「それでは試験を始めます。城の鐘が九つ鳴れば終了となります。はじめ!」試験官の声が大広間に響く。ロンとセイムは羊皮紙をジッと睨み、試験に向かっていく。
“探検家”の試験は王の城で行われる。この国一番の建築家ライネルの設計が作り出す木造りの城の大広間には多くの受験者が訪れている。
ロンとセイムは「1134」「1135」と書かれたバッジを受付でもらって、席についた。受験番号が四桁を超えているということは、少なくとも1000人を超える受験者がこの会場にいるということであろう。
「まずは一次試験だからな。ロン、ちゃんと勉強してきたんだろな」
「うん、出来る限りは・・」と自信なさげなロン。
「おいおい、頼むぜまったく」とセイムが言う。
一次試験で半分、二次試験で半分、最終試験でさらに半分程度落とされる。つまり合格者は一割と少しということになる。三年に一度開催されるこの試験のために、彼らは努力を重ねてきた。
全ては“探検家”となってこの世界を見て回ることを夢にみて。
“探検家”に許される大きな権利は「国外探放」と「採掘権限」の二つであった。「国外探放」とは国の外へ出て、様々な場所に訪れることができる権利のことを言う。
そして「採掘権限」とは、その旅で見つけた様々な“古代道具”を次の旅、さらに次の旅で使用することができる権利である。この権利を保有することのできる“探検家”の称号を持たないものは、商人でもない限り国の外へ出ることはできない。
彼らが住むこの国の外側には多くの謎が残されている。ある探検家による探放レポートには、はるか昔、人類にはこの時代よりずっと繁栄していた時代があったのではないかという記載がある。
今では想像もできないほどの高度な文明が栄え、美しい建造物が建ち並び、人類は鉄の塊を空に浮かべたのだという。その探検家は国中のどの探検家よりも遠くの世界に行き、遥かな可能性を発見した後に、行方が分からなくなった。
「この世界には、ぽっかりと空いた空白の歴史がある」小さな声で自分に言い聞かせるように、ロンが呟く。
「ん、何か言ったか?」
「ううん何でもない。セイム、二人で絶対受かろうね」
「・・ああ」
親がなく、孤児であったセイムにとってロンは唯一無二の友人であった。ロンは幼いころから、国民が近寄ろうとしないスラム(貧民街)に平然と顔をだし、子供たちに食べ物を分けていた。スラムは壁から最も遠い中山間地にあるため、太陽の光があまり届かず、常に暗く、よどんだ空気が流れている。身寄りもお金もない子供たちの多くはちょっとした切り傷や病気から身体を壊し、命を失っていく。
大王はそんなスラムの住人のことなど全く気にかけず、国民も見て見ぬふりをするこの国の静かな闇であった。しかしロンはスラムの空気や治安の悪さに全く動じずに顔を出した。ロンの両親が一流の探検家であり、その気質を受け継いでいたからなのかもしれない。そんなロンにスラムの人々、そしてセイムが親愛の情を抱くのは当然のことであったのだろう。
セイム自身は孤児であるものの、商人から盗んだ(借りただけだ、いずれ返すと彼は言う)書物や薬、古代道具を独学で学び、多くの知識を身につけていた。探検家は国家資格であり、取得することができればスラムから抜け出すことができる。それだけスラムでの生活はみじめで苦しいものであった。スラムから抜け出すことだけをすっと考えているセイムにとっては、ロンの夢はとても眩しく美しいものに見えた。
「それでは試験を始めます。城の鐘が九つ鳴れば終了となります。はじめ!」試験官の声が大広間に響く。ロンとセイムは羊皮紙をジッと睨み、試験に向かっていく。
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