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3話 決意の夜
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一次、二次の筆記試験と無事に通過した二人はロンの家で三次、最終試験の対策を練っている。夜の闇は深く、耳を澄ませばかすかに遠くのほうから川の水音が聞こえる。
千人を超える今年の受験者もすでに残り三百人程度となっており、二次試験まで突破したロンとセイムはスラムの子供たちから尊敬の目を集めていた。三次試験は実技試験である。
二次試験までを突破した者たちで二人一組のチーム編成を組み、王国から出された課題に挑む。任意のパートナーを組むことが可能であり、ロンとセイムはパートナーとして三次試験突破をめざしていた。元々探検家は二人一組になって行動する者が多いため、このような試験制度となっている。
「ついに三次、探索試験だな。古代道具は三つまで所持可能だってよ」とセイムが言う。
「だね、場所は砂漠かあ。暑いの苦手だあ~」
ロンが机に突っ伏して腕を伸ばす。その横ではレトリーが気持ちよさそうに寝息を立てている。試験では王国が所有している古代道具を二つ、そしてチームで一つだけ個人所有の古代道具を使用することができる。
「受験者によっても場所は違うらしいな。密林、廃墟、沼地、そして砂漠の四か所だ。」
「どこも嫌だなあ。」と言ってロンが笑う。
「試験会場までは “気球” というもので行くらしい。おれは初めて乗るけど、どんな感じなんだ?移動に使うものというのは分かるが。」
「僕も父さんのに一度乗せてもらっただけだけど、ぐわーって感じ!」
「ぐわーってなんだ、俺たちが走るよりは速いんだろうな。」
「どうなんだろうね。ふわふわ空を漂って移動するから、地上のトルクたちには襲われないみたいだけど。」
「空を?そんな乗り物が出てきているのか。」
「うん。この百年で探検家たちが色んな技術を発見してるからね。これからの時代、何が出来るようになっても不思議じゃないよ。」
ワクワクするね、とロンが目を輝かせる。セイムにとってはすぐには受け入れられない現実を、いつもロンはすぐに吸収して前へ前へ進んでいく。そんなロンをセイムは少し、羨ましく思った。
「・・・ロンの父さんと母さん、今頃なにしてるだろうな。」
そう言ってからセイムはしまった、と思った。深夜の静けさと暖炉の火の美しさが、彼の口から素直な言葉を導いたのかもしれない。
「きっと元気だよ。あの二人が死ぬはずがないもの。」
ロンは穏やかに言い、壁に綺麗に埋め込まれた金色の勲章を見る。
ロンの両親は、王国における最高の探検家チーム五組にしか贈られない最高の栄誉“五傑”の勲章を得ていた。彼らはどの探検家よりも多くの発見をし、輝かしい栄光を残した後に行方が分からなくなった。
五年前のことである。
ロンはまだ十一歳の頃であった。この時代において、国の外に出るということはほとんど命がけの行為であった。国外探放に慣れている商人たちでさえ年間で多くの商人がトルクや動物たちに襲われて命を落とした。難関試験に突破した優秀な探検家たちでも、行方が分からなくなって帰らぬ者たちがほとんどであった。
「・・・わるい、つい懐かしくなっちまって。」
セイムが顔を歪める。なにも明後日から試験がはじまるって時にそんなこと言わなくていいだろ、と彼は自分を責めているようだった。だが、ロンは暖炉の火を真っ直ぐに見つめて言う。
「セイム、父さんと母さんは生きてるよ。僕にはわかるんだ。僕らが探検家の称号を取ってやってくるのを今か今かと待ってる。とても面白くてワクワクする場所で、僕らを待ってるんだ。」
強い意志を感じるエメラルドグリーンの瞳の中に、暖炉で燃え上がる炎の光が映る。ああ、お前はそういうやつだったよな、とセイムは思う。他者を、世界を信じることに何も疑問を抱かない。そんなやつだから、貧民街のやつらもお前をすぐに受け入れることができたのかもしれない、と。
「あまり待たせてしまうのは気の毒だな。さっさといこう。」セイムがそう言い、ロンが笑う。笑い声が響いていくことを阻むかのように夜の闇は深く、薄い膜が家の周りを包み込む。見上げれば空から落ちてきそうなほど無数の星の灯りだけが、煌々と彼らの世界を照らしていた。
千人を超える今年の受験者もすでに残り三百人程度となっており、二次試験まで突破したロンとセイムはスラムの子供たちから尊敬の目を集めていた。三次試験は実技試験である。
二次試験までを突破した者たちで二人一組のチーム編成を組み、王国から出された課題に挑む。任意のパートナーを組むことが可能であり、ロンとセイムはパートナーとして三次試験突破をめざしていた。元々探検家は二人一組になって行動する者が多いため、このような試験制度となっている。
「ついに三次、探索試験だな。古代道具は三つまで所持可能だってよ」とセイムが言う。
「だね、場所は砂漠かあ。暑いの苦手だあ~」
ロンが机に突っ伏して腕を伸ばす。その横ではレトリーが気持ちよさそうに寝息を立てている。試験では王国が所有している古代道具を二つ、そしてチームで一つだけ個人所有の古代道具を使用することができる。
「受験者によっても場所は違うらしいな。密林、廃墟、沼地、そして砂漠の四か所だ。」
「どこも嫌だなあ。」と言ってロンが笑う。
「試験会場までは “気球” というもので行くらしい。おれは初めて乗るけど、どんな感じなんだ?移動に使うものというのは分かるが。」
「僕も父さんのに一度乗せてもらっただけだけど、ぐわーって感じ!」
「ぐわーってなんだ、俺たちが走るよりは速いんだろうな。」
「どうなんだろうね。ふわふわ空を漂って移動するから、地上のトルクたちには襲われないみたいだけど。」
「空を?そんな乗り物が出てきているのか。」
「うん。この百年で探検家たちが色んな技術を発見してるからね。これからの時代、何が出来るようになっても不思議じゃないよ。」
ワクワクするね、とロンが目を輝かせる。セイムにとってはすぐには受け入れられない現実を、いつもロンはすぐに吸収して前へ前へ進んでいく。そんなロンをセイムは少し、羨ましく思った。
「・・・ロンの父さんと母さん、今頃なにしてるだろうな。」
そう言ってからセイムはしまった、と思った。深夜の静けさと暖炉の火の美しさが、彼の口から素直な言葉を導いたのかもしれない。
「きっと元気だよ。あの二人が死ぬはずがないもの。」
ロンは穏やかに言い、壁に綺麗に埋め込まれた金色の勲章を見る。
ロンの両親は、王国における最高の探検家チーム五組にしか贈られない最高の栄誉“五傑”の勲章を得ていた。彼らはどの探検家よりも多くの発見をし、輝かしい栄光を残した後に行方が分からなくなった。
五年前のことである。
ロンはまだ十一歳の頃であった。この時代において、国の外に出るということはほとんど命がけの行為であった。国外探放に慣れている商人たちでさえ年間で多くの商人がトルクや動物たちに襲われて命を落とした。難関試験に突破した優秀な探検家たちでも、行方が分からなくなって帰らぬ者たちがほとんどであった。
「・・・わるい、つい懐かしくなっちまって。」
セイムが顔を歪める。なにも明後日から試験がはじまるって時にそんなこと言わなくていいだろ、と彼は自分を責めているようだった。だが、ロンは暖炉の火を真っ直ぐに見つめて言う。
「セイム、父さんと母さんは生きてるよ。僕にはわかるんだ。僕らが探検家の称号を取ってやってくるのを今か今かと待ってる。とても面白くてワクワクする場所で、僕らを待ってるんだ。」
強い意志を感じるエメラルドグリーンの瞳の中に、暖炉で燃え上がる炎の光が映る。ああ、お前はそういうやつだったよな、とセイムは思う。他者を、世界を信じることに何も疑問を抱かない。そんなやつだから、貧民街のやつらもお前をすぐに受け入れることができたのかもしれない、と。
「あまり待たせてしまうのは気の毒だな。さっさといこう。」セイムがそう言い、ロンが笑う。笑い声が響いていくことを阻むかのように夜の闇は深く、薄い膜が家の周りを包み込む。見上げれば空から落ちてきそうなほど無数の星の灯りだけが、煌々と彼らの世界を照らしていた。
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