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しおりを挟む「ナイフ……?? こんなものをどうして……??」
普通の令嬢が持っているはずのない物騒なものに驚いて、ヴィアルドははっとフラウベルを見つめた。するとフラウベルの顔面からみるみる血の気が引き真っ青になった。
「あの……これは、護身用で……」
「護身用!? まさか誰かに狙われて……??」
そんな物騒なものをこんなか細い可憐な令嬢が常に身につけていなければならないほど、まさか危険な目にあってでもいるのかとヴィアルドが慌てふためく。けれどフラウベルは。
「じ……実は、ガーランド家一門は女子ども問わず皆、武術をたしなんでいるのです……。立場上身の危険はつきものですので……。ですから私も一通り武術をたしなんでおりまして、それで……」
ついに秘密がばれてしまった。せっかく両思いだとわかったのに、これでは元の木阿弥だ。けれど武器を持参している以上、言い逃れはできない。
けれど、ヴィアルドにはその意味がうまく伝わってはいなかった。
確かにガーランド家の人間ともなれば、少しくらいの武術をたしなむくらいはするのかもしれない。けれどそれはたとえば危険な場から逃げる方法だとか、助けを求める方法といったものではないのか?
そう首を傾げたヴィアルドに。
フラウベルは、はっきりと告げた。
「実は私……、私はとても強いのです。ガーランド家の誰よりも……。お父様よりもずっと……!!」
「……は??」
ヴィアルドの口がさらにあんぐりと開いた。
ガーランド家当主と言えば、見た目からしていかにも強そうな一門を率いる猛者中の猛者である。あれより強いとは一体どういう意味か。
「で……では、君はつまり……並の男どころか猛者たちを倒せるくらい、強いということかい?? あの筋肉隆々の男たちなんかよりも、ずっと??」
フラウベルは今にも泣きそうな顔でこくり、とうなずいた。
「そうか……。そうだったのか……」
その瞬間、ヴィアルドは理解した。これは決定打だ、と。ガーランド家最強の令嬢と、魔力しか取り柄のない最弱自分とではとてもつり合いが取れっこない。
リューイッド王子との噂などなくとも、フラウベルが自分との婚約を継続したいと思うわけもなかった。
そう結論付けたヴィアルドは、覚悟を決めた。
こうなったら思い切り無様に玉砕しよう、と。
どうせ叶うはずのない夢だったのだ。ならばここですべてを終わりにしよう、と――。
ヴィアルドはごくりと息をのみ、意を決して口を開いた。
「私も……君に隠していたことがあるんだ……。情けないことに、私はその辺の子どもにすら負けるくらい物理的な意味では最弱なんだ……。魔力以外には本当に取り柄がなくて……」
「え……??」
フラウベルが驚きの声を上げたのが聞こえたけれど、とても目を合わせる気になどなれない。きっとあきれているに違いないのだろうから。こんなみっともない情けない男など、こんな天使のようなフラウベルの隣に立つにふさわしくない。
幼い頃の初恋は、叶わないものだ。きっと自分の恋も、フラウベルの恋も。
ほんのひと時でも夢を見れた、それで十分だ。
そう自分に言い聞かせて、婚約の解消を申し出ようとしたその時。
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