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つかの間の婚約者−2
しおりを挟む実はユリアナがたずねてきた前日、ミリィ宛てにランドルフから贈り物が届いていた。
婚約の挨拶代わりであろうそれを見て、ふと違和感を覚えたのだ。もしかしたらランドルフは、この婚約に乗り気ではないのでは、と。
十八才の婚約者に贈るには、あまりにも大人びた首飾り。それに手紙や挨拶のひとつも添えられていなかったことも、どうにも不自然だったし。
その違和感の正体が、ユリアナに会った瞬間腑に落ちた。あぁ、きっとあの首飾りはこのユリアナを思い買い求めたのに違いない――と。あの首飾りは、ユリアナのためにしつらえたかのようにお似合いだったから。
その時、ミリィは決心したのだ。ランドルフの真の幸せを叶えるべく身を引こうと。そして、ふたりの結婚を取り持とう、と。
『わかりました! 私、陛下に進言するわ!! 私との婚約は解消して、あなたとランドルフ様の結婚を許してほしいって!! 私があなたとランドルフ様の愛を取り持って差し上げますっ!!』
『……は?』
『大丈夫ですっ!! ランドルフ様の幸せのためなら私、喜んで身を引きますわ。つかの間の婚約者として、立派に役目を果たしてみせますっ!!』
『つかの間の……婚約者……?? 役目……?? え?? あなた、一体何を言って……??』
なぜかユリアナは、激しく狼狽していた。けれどミリィは、決意を固めていた。大好きなランドルフの幸せを成就させるために、つかの間の婚約者としての役目を果たすのだと。
鏡の中をもう一度見つめ、ミリィは大きくため息を吐き出した。
子どもっぽい外見をしたこれといって目立つところのない平凡な姿。平坦な身体つきに珍しくもない目の色と髪色。ふっくらとした頬とちょこんと澄ましたような唇がかわいらしいと両親は言うけれど、それは親の贔屓目でしかない。
そしてその首にかかっているのは、どう見ても不似合いな首飾りだった。
(やっぱり私には、似合わない……。あの人ならきっと良く映えるんでしょうね……)
心の中でそうつぶやき、がっくりと肩を落とした。
「ユリアナ様とランドルフ様は身分は違うけど、それが真実の愛なら陛下だってきっと祝福してくださるわ!! ランドルフ様を幸せにするために私、頑張るわっ!!」
「真実の愛……ねぇ……」
◆◆◆
アルミアは、決意を新たにみなぎらせる親友を残念そうな顔で見やった。
ミリィ・レイドリアは、少々風変わりな令嬢だった。貴族然とした気取ったところなどまったくなく、節約のためにと、日々せっせと家事全般をこなしている。唯一の住み込みの使用人は、料理人くらい。
刺繍はからきしだが、カーテンやソファカバー、日常着といった裁縫はお手のもの。
家計の足しになればとはじめた家庭菜園は、品種改良を重ねるうちにいつしか領地の特産物として出荷できるほどの出来。もっとどれも安価過ぎて、ちっとも領地は潤わなかったらしいが。
その上、貴族の子女が集まる学院に入学後は、突然リーファ会なんていう慈善の会を起ち上げた。
『剣を振るうことはできなくても、慈善だって国と民を守ることに違いはないわよね!』なんて言って。
そして周囲に不要な衣服などの寄付を募り、裁縫の腕を生かしてリメイク品をバザーで売りはじめたのだ。
貴族の屋敷から集めた不要品とあって生地は丈夫だし、質もいい。その上出来もなかなかのものだったため、町で飛ぶように売れた。
『見て! こんなに売れたわっ。この売り上げで、孤児や戦争で家や仕事を失った人たちの支援をしようと思うの!! アルミアも一緒にどう?』
ミリィのそのひたむきでまっすぐな思いに、気がつけばアルミアも友人たちも巻き込まれていた。
アルミアは、そんな行動力あふれるひたむきさと曇りのないまっすぐなミリィが好きだった。けれど同時に心配もしていた。思い込みが激しいというのか、時々おかしな方向に――そう、斜め上に突っ走るきらいがあったから。
ミリィが一体いつどこで、接点もなさそうなランドルフに恋したのかは、なぜか頑なに教えてくれない。
でもアルミアは思っていた。そのユリアナの話も首飾りも、きっと何かの間違いか勘違いに違いない、と。
(あの無骨で不器用そうなランドルフ様が、ほくろに口づけですって!? 絶対にそんなのありえないわ! また変な思い込みでひとりで突っ走らなきゃいいんだけど……)
アルミアは、決意をみなぎらせる親友を呆れ顔でやれやれと見つめるのだった。
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