52 / 54
4
取り戻した平穏
しおりを挟む国に戻ったミリィたちは、戦争を終わらせ病から両国の民を救った恩人として大歓声で迎えられた。その圧倒されるような歓喜の渦の中、ミリィは顔を引きつらせひたすらに身を強張らせていた。
「な……なんだかすごいですね! さすがランドルフ様、人気がおありです!! で……でも私、なんだか冷や汗が止まらなくて……」
「ふっ! 大変なのはこの後だ。ミリィ。きっと息をつく間もないくらい夜会だの祝賀会だのに引っ張り回されることになるんだよ……。それが嫌でできるだけ王都にはいないようにしているくらいだからな……」
げんなりした顔でため息を吐き出すランドルフに、心の底から同情の眼差しを送ればミランダが笑った。
「ふふふっ! おふたりとも今からそんなに逃げ腰では、とても体が持ちませんよ? それにどこへ行ったっておふたりご一緒には違いないんですから、デートだと思えばよろしいじゃありませんか?」
冷やかすようにそうミランダに言われ、思わずふたりそろって顔を真っ赤に染めた。でも言われてみれば今まで一度もふたりで出かけたことなどないのだから、いい機会だと言えなくもない。人の視線があり過ぎるけど。
「もう……ミランダさんったら! デートだなんて、こ……困ります……!」
「えっ!? デートは困るのかっ??」
「へっ?? あ、いえ、別にそういう意味じゃなくて……」
どうにも噛み合わない会話に、ミランダが肩を震わせ声もなく笑いをこらえていた。
そしてその後のミリィたちはといえば――。
◇◇◇
「ミリィお嬢様! ランドルフ様がいらっしゃいましたよっ!!」
「はぁいっ!! すぐ行くわっ!!」
国へ戻ってきて以来、ランドルフは連日戦後の後始末に追われている。けれどその合間を縫っては会いにきてくれる。それが嬉しい。
そして今日も――。
「ランドルフ様っ!!」
その姿を見るなり、ミリィの胸が大きく跳ねた。
「ミリィ! 遅れてすまない。陛下にあれやこれやと呼び止められてな」
「いいえ! こうして会いにきてくださるだけで十分嬉しいですっ。……少し歩きましょうか?」
すっかり平穏を取り戻した町をランドルフと歩く。すれ違う人々と明るく言葉を交わしながら、そんな何気ない日常にミリィは幸せを噛み締めていた。
「二か月後にはまた隣国へ出立ですね! なんだか実感がわかなくて……。ついこの間帰ってきた気がするのに、あれからもう二ヶ月もたったんですね。アズール様の戴冠姿も、想像がつきませんし。アズール様も村の皆も元気にしているでしょうか?」
隣国でオーランドたちとともに走り回った日々が、遠い昔のように感じられる。ついこの間のことなのに。
「あいつのことだ。文句を言いながらもしっかりやっているだろう。……そういえば、オーランド殿は即位式が終わっても、そのままあちらに残るつもりだと聞いたが?」
「はい。隣国にしか生息していない植物の研究がしたいからと、ジングと一緒に国内を回るつもりなんだそうです。さすがは研究熱心なオーランド様ですよね!!」
隣国から戻ってきてから、オーランドとは王宮で二度ほど会ったきり。助手生活が終わった今、顔を合わせる機会もないけれど、きっと相変わらずあの魔窟のような研究室で植物相手に研究に没頭しているのだろう。
思わずその光景を思い浮かべ、ミリィはくすりと笑った。
「そうか……。しばらく隣国に……」
なぜかランドルフが複雑そうな顔でつぶやいたのを見て、ミリィは首を傾げた。
「オーランド様がどうかしましたか? ランドルフ様??」
けれどなんでもない、とランドルフは首を横に振った。
「そうだ……! 君に伝えておかなければならないことがあるんだ。実は明日から一週間ほど所要で時間が取れなさそうでな……」
「お仕事が大変なんですね……!! 国へ帰ってきてもゆっくりできなくて、体は大丈夫ですか? ランドルフ様」
いくら屈強な体の国の守り神とは言え、こうも連日忙しくては体調は大丈夫だろうかと思わず不安を顔ににじませれば、慌ててランドルフが言い直した。
「あぁっ、いや! 仕事というわけではないんだが……、ちょっと急ぎ押さえておきたいものがあってな……。その話し合いでバタバタと……」
「押さえておきたいもの……ですか??」
怪訝そうな顔で見上げるミリィにランドルフは「まぁその……近い内に……」と曖昧に笑ったのだった。
それから一週間が過ぎたある日のこと――。
ミリィはランドルフに誘われ、王都の外れへと出かけることになった。
174
あなたにおすすめの小説
【完結】長い眠りのその後で
maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。
でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。
いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう?
このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!!
どうして旦那様はずっと眠ってるの?
唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。
しょうがないアディル頑張りまーす!!
複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です
全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む)
※他サイトでも投稿しております
ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです
※表紙 AIアプリ作成
【完結】婚約者が好きなのです
maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。
でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。
冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。
彼の幼馴染だ。
そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。
私はどうすればいいのだろうか。
全34話(番外編含む)
※他サイトにも投稿しております
※1話〜4話までは文字数多めです
注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)
あなただけが私を信じてくれたから
樹里
恋愛
王太子殿下の婚約者であるアリシア・トラヴィス侯爵令嬢は、茶会において王女殺害を企てたとして冤罪で投獄される。それは王太子殿下と恋仲であるアリシアの妹が彼女を排除するために計画した犯行だと思われた。
一方、自分を信じてくれるシメオン・バーナード卿の調査の甲斐もなく、アリシアは結局そのまま断罪されてしまう。
しかし彼女が次に目を覚ますと、茶会の日に戻っていた。その日を境に、冤罪をかけられ、断罪されるたびに茶会前に回帰するようになってしまった。
処刑を免れようとそのたびに違った行動を起こしてきたアリシアが、最後に下した決断は。
【完結】この胸が痛むのは
Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」
彼がそう言ったので。
私は縁組をお受けすることにしました。
そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。
亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。
殿下と出会ったのは私が先でしたのに。
幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです……
姉が亡くなって7年。
政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが
『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。
亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……
*****
サイドストーリー
『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。
こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。
読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです
* 他サイトで公開しています。
どうぞよろしくお願い致します。
放蕩な血
イシュタル
恋愛
王の婚約者として、華やかな未来を約束されていたシンシア・エルノワール侯爵令嬢。
だが、婚約破棄、娼館への転落、そして愛妾としての復帰──彼女の人生は、王の陰謀と愛に翻弄され続けた。
冷徹と名高い若き王、クラウド・ヴァルレイン。
その胸に秘められていたのは、ただ1人の女性への執着と、誰にも明かせぬ深い孤独。
「君が僕を“愛してる”と一言くれれば、この世のすべてが手に入る」
過去の罪、失われた記憶、そして命を懸けた選択。
光る蝶が導く真実の先で、ふたりが選んだのは、傷を抱えたまま愛し合う未来だった。
⚠️この物語はフィクションです。やや強引なシーンがあります。本作はAIの生成した文章を一部使用しています。
「君以外を愛する気は無い」と婚約者様が溺愛し始めたので、異世界から聖女が来ても大丈夫なようです。
海空里和
恋愛
婚約者のアシュリー第二王子にべた惚れなステラは、彼のために努力を重ね、剣も魔法もトップクラス。彼にも隠すことなく、重い恋心をぶつけてきた。
アシュリーも、そんなステラの愛を静かに受け止めていた。
しかし、この国は20年に一度聖女を召喚し、皇太子と結婚をする。アシュリーは、この国の皇太子。
「たとえ聖女様にだって、アシュリー様は渡さない!」
聖女と勝負してでも彼を渡さないと思う一方、ステラはアシュリーに切り捨てられる覚悟をしていた。そんなステラに、彼が告げたのは意外な言葉で………。
※本編は全7話で完結します。
※こんなお話が書いてみたくて、勢いで書き上げたので、設定が緩めです。
【完結】祈りの果て、君を想う
とっくり
恋愛
華やかな美貌を持つ妹・ミレイア。
静かに咲く野花のような癒しを湛える姉・リリエル。
騎士の青年・ラズは、二人の姉妹の間で揺れる心に気づかぬまま、運命の選択を迫られていく。
そして、修道院に身を置いたリリエルの前に現れたのは、
ひょうひょうとした元軍人の旅人──実は王族の血を引く男・ユリアン。
愛するとは、選ばれることか。選ぶことか。
沈黙と祈りの果てに、誰の想いが届くのか。
運命ではなく、想いで人を愛するとき。
その愛は、誰のもとに届くのか──
※短編から長編に変更いたしました。
これ以上私の心をかき乱さないで下さい
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。
そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。
そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが
“君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない”
そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。
そこでユーリを待っていたのは…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる