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リーファの約束−1
しおりを挟むゴトゴトと馬車に揺られやってきたのは王都の外れも外れ、ここがあの賑やかな王都の一角なのかと驚くほどのどかな場所だった。目の前には広大な草地が広がり、季節の花々やみずみずしい草が風に揺れている。少し先にはちょっとした小高い丘も見える。
「王都にもこんなのんびりした場所があったなんて知りませんでした! とても素敵なところですね! ランドルフ様」
「そうなんだ。ここは王都とはいっても大分外れだからな。この辺りまでくるとさすがに静かだし景色もいいんだ。自然も多いしな。それに、ほら! あれを見てみろ」
馬車の窓の向こうを、ランドルフが指差した。
その先にあったのは、一軒の大きなお屋敷だった。赤茶色の壁の立派な屋敷で、広い敷地内には屋敷をぐるりと取り囲むように立派な木が植えられている。
「……?? 素敵なお屋敷ですね? どなたかお知り合いのお宅ですか?」
もしやこれからその人のところをたずねるつもりだろうか、とランドルフに問いかければ。ランドルフは鼻の頭を照れ臭そうにポリポリとかきながら、しばし言い淀んだ。
「いや、実はここを君に見せたくて連れてきたんだが……。まずは馬車を降りて少しこの辺を散策しよう。ミリィ」
「……?? はい!」
そよそよそよそよ……。
さぁぁぁっ……!
頬をなでていく風に、ミリィはふわりと微笑んだ。
「気持ちいいですね……。ランドルフ様」
「あぁ……」
聞こえてくるのは風に揺れる葉擦れの音と鳥の声。人々の興奮した歓声もおしゃべりも聞こえない。まるで世界にふたりしかいないような穏やかな時間に、ミリィは深呼吸をした。
皆があんなに歓喜するほどのことを自分が成し遂げたのだと言われても、どうもピンとこない。だってミリィからすればただランドルフとともに国を、そして誰かを守りたいと思っただけだったから。
誰かにあんなにも喜んでもらえることももちろん嬉しいけれど、やっぱり日常は平穏がいい。
そんなことを思いながら隣を歩くランドルフをちらと見れば、ランドルフもようやく色々な重荷から解放されたようないつになく穏やかな表情をしていた。
そしてランドルフはあの屋敷の門までくると、ミリィに手を差し出した。
「え? あの……入ってもよろしいのですか?」
屋敷の住人が驚いて出てきはしないかと思わず心配になって首を傾げれば、ランドルフは小さく笑った。
「大丈夫だ。おいで」
優しい微笑みに胸をドキリと高鳴らせつつ、その大きくたくましい手に自分の小さなそれを乗せ敷地の中へと入っていく。
「うわぁ……!! 近くで見るとさらに素敵なお屋敷ですね……。それにもしかしてこの木って……リーファですか!?」
これまでに見たどれよりも大きく育った立派なリーファの木に、ミリィは感嘆の声をもらした。これだけ立派なリーファが満開に咲き綻んだら、どれだけ素晴らしい光景だろう、と。きっと世界が一面明るい黄色に包まれて心が浮き立つに違いない。そう思った。
するとランドルフはにっこりと笑ってうなずいた。
「君なら気づくと思った。このリーファの木を見てここがいいと思ったんだ。いや、もちろん君がそれでいいと言ってくれればの話だが……」
「……?? なんのお話ですか? ランドルフ様」
ランドルフはほんのりと赤らんだ顔で小さくコホン、と咳払いをするとおもむろにその場に片膝をつきミリィを見上げたのだった――。
「ラ……ランドルフ様っ!? 急に一体何をっ??」
突然の行動にミリィが慌てふためいていると、ランドルフは胸ポケットから小さな箱を取り出しこちらに差し出した。その中には――。
「これは……指輪っ? しかもこれ……」
それはリーファの花を模した小さな石が散りばめられたかわいらしい指輪だった。そのきらめきとかわいらしさに言葉を失うミリィに、ランドルフは照れた微笑みを浮かべ言ったのだった。
「ミリィ・レイドリア子爵令嬢。私は君を心から愛している。永遠に大切にするとこの人生すべてと命を賭けて誓う……。だから、これを受け取ってはくれないだろうか? どうか私を信じてこの手を取ってほしい……!」
ミリィの胸が、これ以上ないくらいに大きくドキン、と跳ねた。
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