女神が過去をやり直せる手鏡をくれたので、婚約解消された元婚約者に今度こそ愛を乞うことにした

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』

文字の大きさ
22 / 24
3章

しおりを挟む

 それから季節がほんのちょっと過ぎて、風が少し肌寒くなった頃。

 俺は、リフィの屋敷へと向かっていた。
 手には、ピンクを中心にリフィの好きな花ばかりを束ねたかわいらしい花束を持って。

「こんにちは。リフィを迎えに来ました」

 大柄な体格をした男が、屋敷の門の前で仁王立ちしている。

「……門限は、きっかり夜の八時だからな。一分たりとも遅れたら、二度とリフィには会わせんからな」

 ぎろりと威圧的ににらみつけられるも、神妙な顔つきで「はい。必ず時間までに送り届けます」と答えれば、渋い顔がうなずいた。

 リフィの父親とのこのやりとりにも、最近では大分慣れてきた気がする。なんせ毎回同じやりとりを繰り返しているし。



 あのガーデンパーティから、もう数ヶ月が過ぎた。

 実はあのパーティの後、俺はすぐにリフィの屋敷へと押しかけた。

『どうかもう一度婚約を結び直させてくださいっ! 今度こそ絶対にリフィを泣かせたりしないし、もう二度とリフィを離しませんっ』

 そう言って頭を下げた俺の隣で、リフィも一緒になって頭を下げてくれた。

 そして開口一番、リフィの父親に大声で怒鳴られた。

『直談判にくるのに半年近くもかかるとは、遅すぎるっ! さっさとこんかっ!』と。

 どうやら、実際のところは本気で婚約を解消させる気はなかったらしい。俺にそれだけの覚悟があれば、きっと頭を下げに来るだろうと見込んで。


 結局その後すぐに婚約は結び直され、俺とリフィはまた婚約者同士に戻った。


 そして今日は、再び婚約者になってから幾度目かのデートの日――。

「お待たせっ! メリル!」

 階段をぱたぱたと弾むような足取りで、リフィがかけ下りてくる。

 うん。今日もリフィはすこぶるかわいい。
 淡いクリームイエローのレースを重ねたドレスがリフィの明るい茶色の目に良く映えるし、髪に結んだリボンが階段を下りる度にぴょこぴょこ跳ねて、まるでうさぎみたいだ。

「メリル君、顔がだらしなくにやけてるぞ。まったく……」

 父親に指摘され、慌てて口元を引き締める。

 その様子を見ていたリフィの顔が、少しだけ険しくなった。

「あら、お父様。もうお仕事に行かれたのじゃなかったの?」

 リフィに問いかけられ、父親は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。

「ちょうど行こうと思ったところにメリル君が来たから、ちょっと話をしていたんだよ」
「……お父様? もしかしてまた小言を言ってたんじゃないわよね? メリルはちゃんと私を大事にしてくれているんだから、もうあんまり心配しないで?」

 娘にそう言われては、少々決まりが悪いらしい。

「わかったわかった。ほら、そろそろ時間なんじゃないか? 劇の開演に遅れるぞ。さっさと行きなさい!」

 小さく咳払いすると、やれやれといった表情で馬車を指した。

「はぁい! じゃあ、いってきます」

 満面の笑みで俺と手をつないで馬車に乗り込む娘を、なんとも言えない、でもやっぱり嬉しそうな顔で吐息混じりに父親が見送り。

 そんな生温い目に見送られながら、俺とリフィはにっこりと微笑み手を取り合って出発するのだった。


 こうして俺とリフィは相変わらずちょっと不器用にじりじりと、でもそれなりに順調に時を重ね。
 そして――。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『婚約破棄ありがとうございます。自由を求めて隣国へ行ったら、有能すぎて溺愛されました』

鷹 綾
恋愛
内容紹介 王太子に「可愛げがない」という理不尽な理由で婚約破棄された公爵令嬢エヴァントラ。 涙を流して見せた彼女だったが── 内心では「これで自由よ!」と小さくガッツポーズ。 実は王国の政務の大半を支えていたのは彼女だった。 エヴァントラが去った途端、王宮は大混乱に陥り、元婚約者とその恋人は国中から総スカンに。 そんな彼女を拾ったのは、隣国の宰相補佐アイオン。 彼はエヴァントラの安全と立場を守るため、 **「恋愛感情を持たない白い結婚」**を提案する。 「干渉しない? 恋愛不要? 最高ですわ」 利害一致の契約婚が始まった……はずが、 有能すぎるエヴァントラは隣国で一気に評価され、 気づけば彼女を庇い、支え、惹かれていく男がひとり。 ――白い結婚、どこへ? 「君が笑ってくれるなら、それでいい」 不器用な宰相補佐の溺愛が、静かに始まっていた。 一方、王国では元婚約者が転落し、真実が暴かれていく――。 婚約破棄ざまぁから始まる、 天才令嬢の自由と恋と大逆転のラブストーリー! ---

殿下に寵愛されてませんが別にかまいません!!!!!

さくら
恋愛
 王太子アルベルト殿下の婚約者であった令嬢リリアナ。けれど、ある日突然「裏切り者」の汚名を着せられ、殿下の寵愛を失い、婚約を破棄されてしまう。  ――でも、リリアナは泣き崩れなかった。  「殿下に愛されなくても、私には花と薬草がある。健気? 別に演じてないですけど?」  庶民の村で暮らし始めた彼女は、花畑を育て、子どもたちに薬草茶を振る舞い、村人から慕われていく。だが、そんな彼女を放っておけないのが、執着心に囚われた殿下。噂を流し、畑を焼き払い、ついには刺客を放ち……。  「どこまで私を追い詰めたいのですか、殿下」  絶望の淵に立たされたリリアナを守ろうとするのは、騎士団長セドリック。冷徹で寡黙な男は、彼女の誠実さに心を動かされ、やがて命を懸けて庇う。  「俺は、君を守るために剣を振るう」  寵愛などなくても構わない。けれど、守ってくれる人がいる――。  灰の大地に芽吹く新しい絆が、彼女を強く、美しく咲かせていく。

「婚約破棄だ」と叫ぶ殿下、国の実務は私ですが大丈夫ですか?〜私は冷徹宰相補佐と幸せになります〜

万里戸千波
恋愛
公爵令嬢リリエンは卒業パーティーの最中、突然婚約者のジェラルド王子から婚約破棄を申し渡された

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

婚約破棄された令嬢、気づけば王族総出で奪い合われています

ゆっこ
恋愛
 「――よって、リリアーナ・セレスト嬢との婚約は破棄する!」  王城の大広間に王太子アレクシスの声が響いた瞬間、私は静かにスカートをつまみ上げて一礼した。  「かしこまりました、殿下。どうか末永くお幸せに」  本心ではない。けれど、こう言うしかなかった。  王太子は私を見下ろし、勝ち誇ったように笑った。  「お前のような地味で役に立たない女より、フローラの方が相応しい。彼女は聖女として覚醒したのだ!」

白い結婚のはずが、旦那様の溺愛が止まりません!――冷徹領主と政略令嬢の甘すぎる夫婦生活

しおしお
恋愛
政略結婚の末、侯爵家から「価値がない」と切り捨てられた令嬢リオラ。 新しい夫となったのは、噂で“冷徹”と囁かれる辺境領主ラディス。 二人は互いの自由のため――**干渉しない“白い結婚”**を結ぶことに。 ところが。 ◆市場に行けばついてくる ◆荷物は全部持ちたがる ◆雨の日は仕事を早退して帰ってくる ◆ちょっと笑うだけで顔が真っ赤になる ……どう見ても、干渉しまくり。 「旦那様、これは白い結婚のはずでは……?」 「……君のことを、放っておけない」 距離はゆっくり縮まり、 優しすぎる態度にリオラの心も揺れ始める。 そんな時、彼女を利用しようと実家が再び手を伸ばす。 “冷徹”と呼ばれた旦那様の怒りが静かに燃え―― 「二度と妻を侮辱するな」 守られ、支え合い、やがて惹かれ合う二人の想いは、 いつしか“形だけの夫婦”を超えていく。

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。

夏生 羽都
恋愛
王太子の婚約者で公爵令嬢でもあったローゼリアは敵対派閥の策略によって生家が没落してしまい、婚約も破棄されてしまう。家は子爵にまで落とされてしまうが、それは名ばかりの爵位で、実際には平民と変わらない生活を強いられていた。 辛い生活の中で母親のナタリーは体調を崩してしまい、ナタリーの実家がある隣国のエルランドへ行き、一家で亡命をしようと考えるのだが、安全に国を出るには貴族の身分を捨てなければいけない。しかし、ローゼリアを王太子の側妃にしたい国王が爵位を返す事を許さなかった。 側妃にはなりたくないが、自分がいては家族が国を出る事が出来ないと思ったローゼリアは、家族を出国させる為に30歳も年上である伯爵の元へ後妻として一人で嫁ぐ事を自分の意思で決めるのだった。 ※作者独自の世界観によって創作された物語です。細かな設定やストーリー展開等が気になってしまうという方はブラウザバッグをお願い致します。

処理中です...