セフレに恋をした

東雲ゆめ

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16:……食べない――の?

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 そのときのぼくの気持ちを――どう例えたらいいんだろう。

 まるで背中に羽根が生えて、フワッと地面から飛び上がったような――夢のような気持ち。

 信号が変わり、交差点の向こうから流れてきた人々の好奇の視線にさらされたぼくらは、どちらからともなく離れた。

「あ……」
 早川くんは、
「――は、腹減らない? なんか食べに行かないか」
 と話題を変えた。
「うん……」
「何がいい?」
「――なんでもいい」
「いや、それはナシで。今日はおまえの行きたいところに行く日だから、おまえが食べたいものを選べよ」
「……じゃあ――」
 
 池袋の繁華街にあるチェーンのイタリアンレストラン。
 ぼくはカルボナーラのパスタ、早川くんはアラビアータのパスタとシーフードのピザとライスコロッケを食べた。
「それだけじゃ大きくなれないだろ」
 もっと食べろよ、と言われたので、チーズのフォカッチャをひとつ注文した。
 それだけでもう、お腹いっぱいになった。

 ランチを食べたあと、電車に乗り、大きな公園に行った。
 ちょうど紅葉が見ごろで、園内は紅葉狩りに来た家族やカップルでいっぱいだった。
 銀杏の実と黄色い葉の絨毯のイチョウ並木。
 きれいな葉っぱを拾ったぼくに、どうするの、と早川くんが聞く。
 押し花にする、とぼくは答える。
 何でもない――穏やかで、優しい時間。

 芝生広場でピクニックをしていた小さな女の子が吹いたしゃぼん玉が、虹色にきらめきながら、秋空に流れていく。
 犬の散歩をしている人たちが、あちこちで立ち話をしている。

 園内にあったカフェでコーヒーをテイクアウトし、木のベンチで休憩することにした。
 ベンチ横の公園の時計は、午後の3時を指していた。
 日は翳り、冷たい風がシャツの襟元を撫でるようにすり抜けていく。

 北風が吹いた瞬間、ベンチに腰かけていたぼくは、小さくくしゃみをした。

(さむっ……)

 厚手のフランネルシャツに、黒のダウンベストを着ていたけれど、腕のあたりがひんやりした。

(やっぱりジャケットも持ってくればよかったな――)

 紙コップのホットコーヒーを両手で包んで暖をとる。
 そのとき、肩先に何か感じ、ぼくは顔を上げた。
 早川くんが着ていたGジャンを脱いで、ぼくの肩にかけてくれた。

「――寒いんだろ? 風邪ひくぞ」
「――でも――」
「おれは大丈夫だから」
 立ち上がった早川くんは、
「ちょっと走ってくる。ここで待ってて」
 軽くストレッチしてから、園内のランニングコースに走っていった。

(やっぱりアスリートなんだな――)
 一日休みだからといって、トレーニングしない日はないのだろう。

 ――20分くらいして、早川くんは戻ってきた。
 ぼくはハンドタオルを「はい」と渡した。
「……ありがと――」
 軽く息を乱しながら、早川くんは額の汗を拭く。
 自販機で買っておいたスポーツドリンクを、
「――どうぞ」
 と微笑んで手渡す。
「……サンキュ――」

 ぼくはぬるくなったコーヒーを一口飲んでから、
「さっきそこの芝生にリスがいたんだよ」
 と近くの茂みを指差した。
「小さくて、目がキョロキョロしてて、すごく可愛かった。――動物って癒されるよね」
「……そうだな」
 ぼくの横に腰を下ろした早川くんは、
「おまえは何か動物飼ってるのか?」
 と聞いてくる。
「ううん、いまは飼ってない。昔は飼ってたけど」
「――何飼ってたの?」
「……うさぎ」
「へぇ? 珍しいな」
「そうかな? 小さいし、散歩に行かなくていいからラクかもと思って飼ったんだけど、病気になって3年くらいで死んじゃって――それから、生き物を飼うのが怖くなっちゃった」
「……そっか――」
 まぁ、そうだよな、と納得したようにうなずく。
「どんな小さな生き物でも、命を預かるのは大変なことだよな」

 ぼくの顔をじっと見つめ、
「そういえば、おまえってなんか、うさぎみたいだよな――」
 早川くんは、つぶやく。
「……そ――そう?」
「ああ。うさぎの耳とかすげぇ似合いそう――バニーガールみたいな?」
「…………」
 ――むくれたぼくの気持ちを察したのか、
「いや、変な意味じゃなくて――そんだけ、おまえが可愛いってことで……べつにそんな格好しろとか言ってるわけじゃねぇよ」
 懸命に言い訳する。

「早川くんは――」
 ぼくは反撃しようとする。
「虎とか、狼とか、そんな感じだよね」
「――肉食ってことか?」
「うん……おっきくて、いろんなものにガーッって牙を剥いて――」
「――食べるの?」
「うん」
「でもおれ、おまえのことは喰わないぜ。――まぁ、ちがう意味では食べてんのかもしれないけどな」
 意味ありげなその笑顔に、ぼくはカッと頬を赤くする。
 そういえば、と腕時計を見る。
 4時少し前。

(今日はホテル、行かないのかな――)

 じっと早川くんを見ると、以心伝心のように、
「……今日はいいよ」
 ぼくの頭を優しく撫で、言った。

「――もう少ししたら帰ろう。まだ門限まで時間があるから、家まで送ってく」







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