セフレに恋をした

東雲ゆめ

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17:つのる思い

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 早川くんに家まで送ってもらうのは、その日がはじめてだった。

「……おまえんち――ここ?」
「うん」
「――マジかよ……」
 唖然として、早川くんはぼくの家を見上げる。

 高台にある閑静な住宅街の一角。
 百坪ほどの敷地を高い塀で囲まれた日本風の家屋。
 庭には、ときおり庭師さんが剪定してくれる、松や楓などの背の高い木々や、小さな池がある。

「ほんとうにお坊ちゃまなんだな――」
「先祖が昔から住んでた土地で、別に買ったわけじゃないから――」
「いや――」
 首を振った早川くんは、
「――おまえにはこれが普通なんだろうな……」
 とつぶやいてから、
「……まぁ、いい。来れてよかった」
 と言った。

 ぼくは、借りていた早川くんのGジャンを脱ぎ、「ありがとう」と返した。
 体を冷やすといけないからと、早川くんはブカブカのそれをぼくにずっと着せていた。

 Gジャンを着た早川くんは、
「あのさ――」
 早川くんは意を決したような目でぼくを見つめる。
「今度、十二月の終わりに全国大会があるんだ」
「うん――」
「よかったら――見に来ないか?」
「え……?」
「全国からトップレベルの学校が集まるから、盛り上がるし、そんなにバスケを知らなくても楽しめると思う。ぜったい決勝まで残ってみせるから――おまえに来てほしい」
「……わかった――」
 うなずいたぼくの肩を両手で強くつかまえると、これまで見たことがないくらい真剣な表情で、
「――大会が終わったら……おれは――おまえに――――」
 と言いかけた。

 ――そのときだった。

「……里李?」
 曲がり角から伸びた影が、ぼくらの前を大きく遮った。
 ぼくは、早川くんからぱっと身を離した。
「――お母さん……」
 ぼくのことばに、早川くんがはじかれたように振り返った。
 白いコートを着たお母さんが、夕日を背にスーパーの買い物袋を提げて立っていた。

「――お友だち?」
 肩先まで伸びたワンレングスの黒髪に、すらっとした細身の体。
 ぼくがよく似ているといわれる顔立ち。

「あ――う、うん……」
 ぼくが紹介するより早く、「こんばんは」と頭を下げた早川くんは、
「早川紺です。里李くんにはいつもお世話になってます」
 礼儀正しく挨拶した。

「――こちらこそ。里李と仲良くしてくれてありがとう」
 にっこりと微笑んだお母さんは、
「ずいぶんと背が高いのねぇ。――何かスポーツでもやってるの?」
 と聞く。
「はい――バスケを――」
「あら、そうなの? いいわね、私も中高とバスケ部だったのよ」
「えっ……? そうなの?」
 と驚いたぼくに、「そうよ」とさらりと答える。
「知らなかった……」
「だって、あなた、何も聞かなかったじゃない」
「そ――だけど――」
「そんなことより、せっかくうちまで来てくれたんだから、あがっていかない? よかったら夕飯、食べていって」
「――ありがとうございます。でも、寮の門限があるので――」
 丁重に断った早川くんは、ぼくをちらっと見てから、
「……では、また――」
 とお辞儀をして、去っていった。

 早川くんの姿が見えなくなると、
「……知らなかったわ、里李にあんなイケメンの彼がいたなんて」
 お母さんは軽い口調で言う。
「えっ?」
 クスッといたずらっぽく微笑み、
「いいわね、あんなに素敵な子なら、お友だちに自慢できるじゃない」
「――そ、そんなんじゃ――ないから……」
 なんと返したらいいかわからず、ぼくは下を向く。

 ――お母さんは、アメリカに長く留学していたからか、考え方がリベラルで、普通のお母さんとは全然違う。
 人を見た目で判断しないし、物事は自分自身で決めなさいと言う。
 どちらかといえば堅物で、日本人的な調和を大事にする、正反対のタイプのお父さんとなんで結婚したのか、ぼくはずっと不思議だった。

「――そういえば、お父さんからさっき連絡があって、年末年始は帰ってこられるんですって」
 門扉を開けながら、お母さんは言う。
「お正月、箱根の旅館に行こうって。箱根駅伝の応援、楽しみにしてるらしいわよ」

   
           
        ☆☆☆



 それからしばらく、ぼくは、落ち着かなかった。

 何をしていても早川くんのことばかり、考える。
 全国大会を前にして、早川くんの部活の休みはなく、プラネタリウム以来、会えない日が続いた。
 けれど、早川くんは毎日LINEで連絡をくれた。今日はこんな練習をしたとか、試合に勝ったとか、寮の夕ご飯が肉じゃがだったとか……。
 たわいのないことばかりだったけど、ぼくはそれが何より待ち遠しかった。

 寝る前にベッドの中で何度もLINEの画面を見て、スマホを胸に押し当て、早川くんの姿を頭に思い描く。
 会えないとよけい会いたくなって――でも、自分から会いたいとはけっして言えず――――。


 そんな日常を繰り返しているうち、季節は流れ、いつしか、クリスマスになった。







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