セフレに恋をした

東雲ゆめ

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最終話:Spring Day

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 ホテルを出たのは、夕方4時過ぎだった。

 まだ少し明るい陽射しのなか、駅へと続く広い通りを歩く。

 ぼくの手をとってカーゴパンツのポケットに入れた早川くんが、
「……大学は、家から通うの?」
 と聞いてくる。
「あ――うん。電車ですぐだから」
「そっか……」
 ポケットの中で、ぼくの指をさすり、
「そのうちおまえの親御さんにも挨拶行かなきゃだな」
 と言う。

「うん。お父さんとお母さん――早川くんのこと、すごい応援してるよ」
「……そうか」
 ありがとう、と微笑み、
「今度、おれの家族にも会いに行こう。……そうだな、今度の夏休みあたり、行けたらいいか。結婚を前提に付き合ってるっておふくろに紹介したい」
「……う、うん……」
 次々と未来の話をされ、目が回りそうになったぼくの気持ちを察したのか、

「――ごめん、少し先走りすぎたかな……」
 早川くんは頭をかき、
「焦らなくていいから。この先も、こうしてずっと一緒に歩いていけたら――それだけで、おれはしあわせだから」
 ぼくの目をまっすぐに見る。

「うん……」
 ぼくはポケットの中の大きな手を握り返す。

 通りかかった大型量販店の街頭のテレビから、今日東京で桜が開花したというニュースが流れてきた。

「ね――」
 気分を変えるように、ぼくは言う。

「今度お花見に行かない?」
「花見?」
「うん。お弁当――おかずたくさん作るから。どこか桜のきれいな公園に行きたい」
 ぼくの頭をそっと撫でた早川くんは、
「卵焼き――甘いのとしょっぱいの、両方入れてくれるか?」
 と聞く。

 「うん……」

 そのとき、ぼくは、あることに気づいた。
 このあたりにあった、パチンコ屋がなくなっている。
 
 ――ニセモノの花でも、ちゃんと飾れば、それなりにキレイだよな。

 白い筒に入れられた色とりどりの造花を見て、早川くんがつぶやいた。あのセリフ。

 立ち止まったぼくにつられるように、新しいビルの一階に入ったおしゃれな花屋の前で足をとめ、
「こんなところに花屋ができたのか」
 と早川くんはつぶやく。
「合格のお祝いに買ってあげるよ。――どんな花がいい?」

 ぼくは店の前の青いバケツに並べられた花たちに目をやり、
「……どれでもいい」
 と答えた。
「どれも素敵だから……」

 早川くんは、店の外にいた、デニムのエプロン姿の店員さんに声をかけた。
 何か話をしてから一緒に店の中に入っていく。

 数分後――早川くんは、顔が隠れるほど大きな花束を手に戻ってきた。

「とりあえず店にある春っぽい花全部入れてってお願いした――」

 照れたように頭の後ろをかき、青い大きなリボンでラッピングされた花束を手渡す早川くん。

「おめでとう、里李」
 
 ラナンキュラス、スイートピー、ミモザ、チューリップ、フリージア、マーガレット、アネモネ……。
 
 色とりどりの本物の花でいっぱいの花束を受け取ったぼくは、

「……ありがとう」
 目に涙を浮かべ、微笑む。
 


 少しだけ強くなった春の日の風が、ぼくと早川くんを優しく包んでいった。







                     (「セフレに恋をした」終わり)









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