セフレに恋をした

東雲ゆめ

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番外編:海に行ったら(前編)

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【はじめに】

この番外編は、本編終了後の夏が舞台です。
里李は早川くんを「紺」と呼ぶようになっています。

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「里李。これ、つけろ」

 ――8月の休日。

 ぼくとこんは、東京から車で一時間ほどの海に来た。
 海水浴が好きなぼくは、泳ぐ気まんまんで、Tシャツとショートパンツの下に水着を着てきていた。
 車のなかで服を脱ぎ、着替えとタオルを入れたビニールバッグを手に、駐車場を出る。

 運転席から下りてきた紺が、
「陽射しまぶしいから。これしろ」
 つけていたサングラスを差し出す。

「え――でも……」
「いいから。つけろ」
「――わかった」

 『逃走中』のハンターみたいな大きなサングラスをしたぼくの顔をしゃがんでのぞきこみ、
「顔半分隠れちゃうな」
 と笑う。

「やっぱおまえ、めっちゃ顔ちっせー」

 房総の海の太陽の光を浴びて、キラキラ輝く紺の金髪。

(……まぶしい――)

 紺は外見だけでなく、かもしだすオーラがすべて「陽」なのだ。 

 高台の駐車場から海岸まで歩いて5分。
 そのあいだに紺はもう、周囲の注目を浴びまくっていた。

(『ね、もしかしてあれってバスケの……?』)
(『CMに出てたよね? やだぁ、マジでイケメン……!』)

「ねぇ、紺、やっぱりサングラス――おまえがしたほうが――」
「ダメ。素顔だとナンパされちゃうだろ、里李」
「されないって」
「そんなこと言って、いままでに何度ナンパされた?」
「……それは――」

 思い出すと、わりとあった。

「だろ?」
 ぼくの心のうちを見透かすように、
「おまえはおまえが思うよりもずっと可愛いんだからな。用心しすぎるくらいでちょうどいいんだ。――ここらへんでいっか」

 色とりどりのテントが乱立する砂浜の隙間に、ワンタッチテントを開き、荷物を放り込む。

「わーい。さっそく泳いできていい?」

 テントのなかでサングラスを外し、ラッシュガードを脱ごうとすると、

「――ストップ!」
 ものすごい勢いで止められる。

「脱ぐな。着てろ」
「えっ? で、でも――」
「ダメだ。ぜったいダメ。おれ以外のヤツに裸見せる気か?」
「は、裸って――そんな女の子じゃないんだから――」
「いや。里李は女の子以上に女子力ハンパねーから。とにかくラッシュガードは着たままで、そうだな――」
 ラッシュガードのフードを頭にちょこん、と被せ、
「うん。これならそんな目立たないだろ。これで泳げ」
 と言ってくる。

(え……えぇぇ……)

 シャツを脱ぎ、ヒョウ柄のぴっちりしたビキニ水着一枚になった紺が、テントの外に出る。
 白のラッシュガードと膝までの水着を着たぼくの手を取り、
「あっちの岩場のほうまで行こう」
 と歩き出す。

 濡れた砂浜の上を歩く。
 ビーチサンダルのなかにもぐりこむ砂。
 ビーチバレーをする女の子たちや、浮き輪遊びをする家族連れ。
 夏休みの海は、わいわいと賑やかで楽しい。

 人波の途切れた砂浜の端まで来たところで、
「あのさ――よかったら、泳ぎ――教えてくれないか?」
 紺がためらいがちに聞いてくる。

(あ……)

 そういえば――あまりちゃんと泳いだことがないって言ってたな。
 あれはたしか、一度目の別れを決意したとき。
 鎌倉の海でのこと。

『いつか――おれに泳ぎを教えてくれないか?』

「……いいよ」
 微笑み、手をつないで一緒に海に入る。
 冷たい波が、汗ばんだからだをじんわりと冷やしていく。

 もともとの運動神経の良さか、紺はあっというまに泳ぎを覚えた。

「めっちゃ気持ちいいな!」

 どこかの水泳選手みたいなセリフを吐きながら、クロールする紺と、その横でゆっくり平泳ぎするぼく。
 夏の昼下がりのゆるい空気のなか、ふと、とりとめのない思いが頭をかけめぐる。

 これからもこんなふうに泳いだり、手をつないで砂浜を歩いたりしていけるのかな……?

 海からあがった紺は、シャンプーした大型犬みたいにブルブル頭を振って、水しぶきを飛ばす。
 196センチの長身と、外国人の血の入った長い手足。
 盛り上がった大胸筋と、割れたシックスパッドの腹筋から水がしたたり落ちるその姿は、最高にセクシーだった。

(……やば……)

 ピクンッ、と反応してしまった自分のソコに気づいたぼくは、

「……ちょっ……! もっ、もうちょっと――泳いでくる!」

 と海にもぐった。
 熱くなった部分を冷やすべく、一度沈んでから浮上し、クロールでパシャパシャと泳ぐ。
 ずいぶん遠くまで行ってから戻ると、紺が、波打ち際に座り、待っていた。
「おかえり」
 立ち上がった紺は、ずぶ濡れになったぼくの髪を両手でかきあげ、
「おまえってホント、なんでもできんのな。東大ストレートで入れるだけじゃなく、こんな速く泳げるんだ」
 天才、と笑う。

(そんな……)

 プロ選手に褒められてもな――と困惑していると、
「ん? 天才はそっちだろっていいたいのか?」
 紺はおかしそうにぼくをのぞきこむ。

「……わかってんじゃん――」
 ムッとしたぼくを、
「あー、可愛い。くちびるツンッって尖らせてる姿もマジ可愛い」
 ぎゅっと抱きしめ、
「……めっちゃムラってきた。帰り、ホテル行かね?」
 ぼくのお尻を水着の上からムニムニ揉みしだく。

「……あッ……やっ――あっ……!」
 目もとをうるませ、赤くなってうつむくと、
「あーもー。そんなエロい顔すんな。犯されっぞ。おれに」
 と笑う。

「もっ……ばかっ!」
 完全にブチ切れたぼくは、
「もうっ、いかないっ! ホテルッ! いかないからねっ」
 ぷんっ、とそっぽを向き、紺の手を振りほどいて、スタスタ走り出す。

「あっ、ちょっ、待てよ、さとりっ。さとりっ……!?」

(都合のいいときにヤれると思ってんだから――ほんっと、ケダモノ――)

 ぷんぷんしながら、砂浜を歩いていると、

「ね、ねぇ――きみ、ひとり?」
 とつぜん、ひょっこり現れた大学生くらいの男に話しかけられる。

「えっ……?」
「ひとりじゃつまらないでしょ。もしよかったらおれと一緒に泳が――」

「ねーよ。バカ」
 後ろから突進してきた紺が、男を蹴り倒す。

「……ったく。ちょっと目を離すとこれだ」
 ぼくの肩を引き寄せ、ふん、と鼻を鳴らす。

「だからいったろ? ナンパされるって」
「うっ……こ――これはたまたま……」
「たまたまもキンタマもねーよ。おまえはヘンタイホイホイみたいなもんなんだから。ほら。手つなぐぞ」
 
(ヘンタイホイホイって……)

 あながちまちがっていないのが悔しい。

「喉乾いたな。飲み物買おうぜ」
 手をつないでテントに戻り、スマホを持って海の家に行き、レモネードを買う。
 シュワシュワの泡に沈んでいく、プラスチックのカップのなかのレモン。

(美味しい……)

「大学っていつまで休み?」
「えっと、9月いっぱい――かな」
「だったら、9月あたまに一緒に沖縄行こうぜ」
「え?」
「前に言っただろ。おれの家族に会ってもらいたいって。それと――妹が今度、芸能界デビューすることになってさ。それもあって、家族で話し合いするからおまえにも来てほしいんだ」
「えっ、妹さん、芸能人になるんだ?」
「あぁ。なんだかよくわかんねぇけど、歌でもうたうんじゃねぇかな。いま中3だから、中学卒業したら上京するんだ」
「へぇ……」

 たぶんDNAが最強なんだろうな、とレモネードをすすりながら考える。

「でもそんな大事な話し合いに、他人のぼくが行ってもいいの?」
「他人じゃねーだろ」
「えっ……?」
「おまえとおれは家族になるんだから。それも含めての話し合いだよ。おまえとずっと一生いっしょに生きていくって――おふくろと妹にちゃんと報告したいんだ」

「…………」

 海の家の砂まみれのしょぼいテラス席で、伝えるような話だろうか。

「10月からシーズンが始まるしな。その前にちゃんとけじめをつけておきたい」
「うん……」

 酸っぱいレモネードが、こみあげる涙でよけいすっぱくなる。

「わかった。それと――」
「ん?」
「やっぱりホテル――行く」
「……え?」
「したい――すごくいま――――紺と――したいから――――」

 セックス、とまで言う必要はなかった。
 立ち上がった紺が、ぼくの手を握り、「帰るぞ」と告げる。
 海の家でシャワーを借り、服に着替えて車に戻る。
 ネットで検索したいちばん近くの、山のなかにあるさびれたモーテルにぼくらはチェックインした。


 
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