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「……何をしている?」


 まずい、と身体を強張らせた時にはもう遅い。
 御堂さんはわたしの腕を掴み、強引に部屋に引き摺り込もうとしていた。
 引っ張られた腕に力加減はなく、ミシリと骨が軋む音が聞こえる。

「……っい」

 痛みに顔を顰め、小さく悲鳴を洩らす。しかし御堂さんは舌打ちして、そのまま乱暴にわたしを寝室まで連行する。
 強引にベッドに押し倒されて、見上げた彼の顔は怒りに歪んでいた。
 自分よりも体躯の大きい彼に怒りを向けられていることに怯え、無意識に腰を浮かせて後ずさろうとする。


「どこに逃げようっていうんだ?」

 人を威圧させる低い声だ。
 顎を掴まれて強引に御堂さんと視線が交じり合う。
 眉間に皺を寄せて、ギラギラと怒りを露わにした眦がきつくわたしを睨み付けていた。


「……ひ」
「なぁ。なんで外に居たんだ?」
「……少しだけ、外の空気を吸いたくて」


 わたしの答えが気に入らなかったのか容赦なくうなじを噛まれる。鋭い痛みに悲鳴をあげれば、彼はクツクツと喉の奥を震わせて、陰惨に嗤う。

「下手な嘘をつくなよ。どうせ逃げようとしたんだろう?」

 口の端を歪ませて嘲る彼に、わたしは与えられた鋭い痛みに怯えて、背中を丸めて縮こまった。彼は噛んだ場所を執拗に舐めて、下手な答えを言ったらもう一度噛むぞと脅す。


(どう答えたら良いの?)

 確かに彼の立場からいえば、わたしの行動は不審の塊そのものなのだろう。自分の留守の間に、借金を立て替えた女が言い付けを破って、勝手に外に出ていたのだーーそれは彼からすれば、逃亡を目的とした行動に見えるに違いなかった。

 気が滅入っていたとはいえ、なんて馬鹿なことをしたのだろう。
 考えなしに外に出てしまった自分の愚かな行動。
 外の空気が吸いたかったのならば、せめて彼に嘆願すれば良かったのだ。
 それを思いつきもしないで、衝動的な行動に出た自分を恥じる。

「御堂さん」


 縋るように彼の名を呼べば、先程噛まれた場所に歯を当てられた。
 信頼を失ったのだという事実が重くのし掛かり、どう答えれば良いのか分からない。
 少しの沈黙の末。彼は答えない罰だといわんばかりに、もう一度その場所を噛む。


「……っ」

 先程とは違って加減がされていたとはいえ、同じ場所を噛まれたことで痛みが増している。
 しかし痛みで鋭敏になった肌をやわく舌で舐められれば、いつも以上に感じるこそばゆさに、こんな状況であるにも関わらず身体をくねらせてしまう。
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