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 朝食を終えて、食洗機のスイッチを入れれば、唐突に御堂さんに背後から緩く抱き締められた。

「どうしたんですか?」
「メシ、美味かった」
「お口に合って良かったです」
「ありがとう」


 短い感謝の言葉。けれど、そこには確かに彼の気持ちが乗せられていて、じんわりと胸が温かくなる。

「こちらこそ、昨日は看病をして頂いてありがとうございます」


 身体をもぞりと反転させて、わたしも彼の背を抱きしめた。
 密着する距離に、早まるわたしの鼓動の音が聞こえていないか心配だ。だけど、赤らめた顔を見られるよりはマシだろう。
 顔を見られないようにと頭を彼の胸に押し付ければ、抱きしめられる力が増した気がした。


「ほのか……」

 熱の籠った声に彼の抱いている情欲が伝わって、身体が小さく跳ねる。

「み、御堂さん」
「……体調が良くなったのならば、このまま抱きたい。嫌か?」

 そんな風にわたしの意志を尊重しないで欲しい。
 ともすれば、大事にされているのだと錯覚してしまそうだ。

(わたしはただの抱き人形なのに……)

 勘違いしないように、自分自身の内に現実を言い聞かせる。
 彼がわたしを気遣っているのはまた熱が出て、面倒なことにならない為。そんなこと分かっている。だというのに、どうしてだか愚かにも期待してしまいそうになる。

「契約した情人です。御堂さんが好きな時に抱いて良いんですよ」
「……ああ、そうだな」


 我ながらなんて可愛くないことを言ってしまったのか。
 けれど、御堂さんはそれを気にするでもなく、クツリと笑った。

「お前は俺の所有物だから、抱かれるのも仕方ないさ」

 嫌だと思っていない。
 しかし、それを口にしても結局意味のないことなのだろう。

 彼の手が臀部の柔肉をなぞっていく。
 わたしは大人しく彼の手を受け入れ、そしてもし借金が返済することができれば、今言えなかった自分の想いを彼に伝えられるのではないかと密かに考える。

(借金を返して、わたしと御堂さんの関係が対等になれる日が来たら、きちんと彼に告白しよう)

 たとえ迷惑だと思われても、わたしは自分の気持ちを伝えたい。
 今はそれができない分、せめてもの気持ちを込めて御堂さんの頬に口付ける。背の高い彼の頬に届くように背のびすれば、情けなく足が震えてしまいそうだ。そんな自分に苦笑すると彼は驚いたようにこちらを見ていた。


「……キスはしないんじゃなかったか」
「唇にはしていないでしょう?」


 ひどい言い訳だ。
 しかし彼はそれを受け入れて、甘やかにわたしの顔を固定して、唇ギリギリの位置に口付けた。

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