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 「ごめんなさい」

  自分の酒量すら管理出来なかったことへの謝罪は手で制される。そして彼は呼び出しボタンを使ってボーイを呼び出し、チェックを言い渡した。


 「すまない。どうやら飲ませ過ぎたみたいで、気分が悪いそうだ。ラストまでの延長金と指名代、あと迷惑料としての店の提示額を出すついでにタクシーを呼んで、そのままこの子を帰らせてやってくれないか」

  タクシー代とドレスのクリーニングだとボーイに握らせたのは十枚程のお札。
 これはさすがに多過ぎるのではないかと、ボーイが返そうとする。しかし御堂さんはそれを受け取ることはなかった。


「女の前で野暮なことは言うな」
 「……かしこまりました」
 
 ボーイは深く頭を下げて、タクシーの手配と会計の計算のために一度部屋を出る。
 そして数分もしない内に会計の紙を携えて、タクシーの到着も告げた。

 彼は見送りは不要だと言って、そのまま店を出ていった。取り残されたわたしは履き慣れないヒールの高さもあってか足がふらつきそうになる。
 酒量も弁えられないとは。なんてみっともないのだろう。せめて転ばないようにと足に力を込めて部屋を出れば、店長と鉢合わせした。


 「ほのかちゃん、酔ったと聞いたけれど大丈夫かい? 一応タクシーも呼んであるけれど、店の送迎車で家の前まで送り届けようか?」

  気遣いに感謝しながらも首を横に振る。もし送迎の人が御堂さんと鉢合わせをしても普段よりもぼんやりとした思考回路では上手い言い訳が出てこないからだ。

 「いえ、大丈夫です。それより予定の時間よりも早くに上がってしまって申し訳ないです」
 「いや、そこは気にしないでくれ。むしろ初めてなのに、すごく頑張ってくれたね」


  褒められても心の底から喜ぶことが出来なかったのは、自分の実力なんかじゃないからだ。後ろめたい気持ちを押し隠して、曖昧な笑みを浮かべて誤魔化す。
 そして働いた分の日払いのお金を受け取って、更衣室に向かった。



 金曜日の夜ということもあってか、女の子達は皆、席に付いている。そのため更衣室は貸切の状態だ。


 一緒に来たゆりなもまだ席に付いているようで、借りた服とウィッグは彼女の使っているロッカーに入れておくことにした。

 本当は洗濯して返したいところだけれど、次はいつ会うか分からないからそのまま置いていってくれていい、と事前に言われていたからだ。


 彼女に予定よりも早く帰ることになってしまった旨と借りた物に対するお礼をメッセージに送って、店を出ようとする。
 帰り際に店長に挨拶して、外で待機しているタクシーに乗り込む。


 タクシーの運転手は寡黙な人だった。
 だからこそ、わたしはマンションに戻るまでの間、御堂さんと自分の関係性について考えていたのだ。

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