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 龍一さんに想いを告げてからひと月が経とうとしている。あれから彼はわたしに極端に甘くなった。
 好きだと毎夜言ってくれるし、スキンシップも格段に多くなった。
 
(前は抱かれる時以外はそこまで触れられていなかったから、なんだかまだ恥ずかしい……)


 今も有名なパティスリーのケーキを用意して、わたしにどれが良いかと選ばせてくれる。
 色とりどりで鮮やかなケーキは芸術品のように煌かしい。
 十個ばかりあるそれはどれもわたし好みのものだ。


「どれが良い?」
「あの、たまには龍一さんが選んでください」
「俺はお前が喜べば、それで良い」


 ソファーに横並びになって座るわたし達の距離は密着する程に近い。
 目を細めて上機嫌な様子の御堂さんはわたしの腰を抱いて、気まぐれに頬を口付ける。

「……欲しい物はないか?」


 選んだフルーツタルトを頬張っていると、彼はおもむろにわたしに尋ねた。
 このやりとりは想いが通じてから毎日行われていた。
 わたしはゆるりと首を横に振って、断りを入れる。


「何もないですよ」
「ブランドのバッグや服や宝石。なんだって良いんだぞ?」


 そんなものを買い与えられでもしたら、まるきり金目当ての女みたいじゃないか。ただでさえ、未だ抱かれた分の金額は支払われているのに、どうしてそれ以上の物を強請れるのだろう。
 聞かれるたびにきちんと断っているというのに、それでも彼は諦める気がないらしい。


「今ある物で十分足りていますから」
「物欲がないな」

 話を誤魔化すようにしてわたしが食べていたタルトを一口差し出す。
 そうしている間に自分が欲しい物を考える。
 けれど本当に欲しいモノは……しばらくは手に入らないだろうことは分かっている。だから、結局何も言えないまま笑って誤魔化す。


「御堂さんは何か欲しい物はないんですか?」
「あるにはあるが……」


 彼にしては歯切れ悪く答える。それが意外で、気になったのは確かだ。けれど自分だって答えられないのだから、あえて言及しない。

 お互いに踏み込まないからこそ結ばれた平穏な関係。それを崩されるのはもう少し後のこと。

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