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81(side:龍一)

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 誰が行くものか、と思っていた。
 しかし、そうすると正妻が寄越した『迎え』が来る。
 正妻の手駒は多く、大して自分の部下は片手で数える程。自分の住んでいる別宅には夜中だろうと構わずに正妻の手駒が押し掛け、居ないとなると俺がどこに居るか捜索し、必ず嗅ぎつけた。
 そしてまた倉庫に俺を引き摺り込んでは、初日の時と同じように拘束して殴られる。

『ねぇ、今日こそはあたしの情夫にならない?』
『何度聞かれようと俺の答えは変わらねぇよ』
『そうよね。でもまた明日になったら気が変わるかもしれないから』


 女はするりと頬を撫でて、立ち去る。
 そして残った男達により、また気を失う程痛めつけられて、放置される。そんな馬鹿みたいな日々を送って一週間が過ぎた頃。



 正妻との問答を終えた俺は本宅を抜け出して、ふらりと外に出る。
 目的地なんてものはない。
 ただ、あんな腐った場所に居たくなかっただけ。
 あてもなく彷徨い、やがて人通りが少ない河原を見つけ、ゴロリと寝転がる。


(静かだな……)


 俺の周りに人は来ない。正確には通り掛かった人物は居たものの、俺の姿を見ると、途端に方向を変えて逃げ出していったからだ。
 当たり前だ。誰だっていかにも人に殴られているチンピラ崩れの男に声を掛けたくない。自ら面倒ごとに首を突っ込みたくなんかないのだ。




(誰も居ない方が清々する)

 今はとにかく休んで体力を回復したい。
 けれど、それでどうすると思う自分も居る。
 いくら休んで体調を整えたところで、また俺は正妻の手先に拉致られ、痛め付けられる。それならば、休んだところで意味はあるのだろうか。


(……は。随分と弱気になっているな)


 乾いた嗤いが口から溢れ出る。
 蛇のようにしつこい女に粘着され、自分でも気付かないうちに心も疲れているのか。


(だが、俺の答えは変わらない)


 あんな女の情夫だなんてごめんだ。
 ましてアレは父の正妻であったのだ。
 いかに俺が父に顔が似通っていようとそんな相手を情夫に誘うだなんて、あの女も正気ではない。さすがは遠縁ながら『御堂』の血を引いているだけある。


(御堂の血を引く者は一人の異性に執着する、か)


 なんとも厄介なものなのだろう。
 そんな血が自分にも流れているだなんてゾッとする。

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