王子としらゆき

秋月朔夕

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第四話 幼き王子の求婚

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小学校に入ってから、ぼくはすぐにイライラするようになった。うちが他の子よりもお金もちらしいから、男の子はぼくをとりまこうとするか、やっかむかのどっちか。
  女の子がべったりくっついてくる。タンニンの先生は先生で、ぼくの親がこわくて、びくびくしてる。


 (親が金もちだから、なんてしらないよ)
  それにトーコもいない。
  トーコはぼくのうちではたらいてるおてつだいさんでぼくの家にすんで た。だけど、子どもが生まれるとかで自分の家にかえるっていってた。
すぐにもどる、っていってたけどもう一年もいない。
  トーコとけっこんしたケースケにいつ戻るかきいても「鷹夜さまが良い子にしてたらすぐに戻りますよ」って言ってあたまをなでるだけ……
 いい子にしてたらすぐにもどるってウソだ。テストではなまるもらっても、かけっこでいちばんとっても、もどってこなかったじゃないか。


  だけど、今日天気がいいからとテラスでかーさんとおやつを食べてると、なんだかいつもよりニコニコしてる気がする。どーしたの?って聞く前にかーさんは言った。


 「鷹夜が良い子に日曜日に瞳子が帰ってくるわよ」

 「ホントに? じゃあ日ようび会いにいってもいいの?」


 「もちろん。一緒に会いに行きましょう。あと瞳子の娘もここで暮らすから仲良くしてね」

 (えっ!? トーコだけでいいのに……)
  うれしかった気分が、しぼむのがわかる。だってぼくからトーコをとったヤツとなかよくなんて、できるわけない。それにかーさんもうれしそうなのをみると心がもやもやする。

 (もしも二人ともぼくからとるならこっそりイジワルしちゃうんだからな!!)


  そう思いながらトーコと会えるのがたのしみで、三日ごの日ようびをゆびをおって数えるくらいたのしみにしていたんだ。
  かーさんがニコニコしてた本当のいみもしらないで……



 ――日曜日、運命の歯車が廻るのを知らずに……




 日ようび。いざ会ったものの、子どもを紹介してから、ずっとかーさんがトーコをはなさない。
  三人でお茶をしながらテーブルに大人しくすわってたけど、二人のキョウツウの知り合いなんてぼくは知らない。
  同じ大学だったみたいだから、思い出話はつきないし、たいくつすぎて足をぶらつかせると、行儀が悪いとかーさんにおこられるし。
  かーさんの方が、ぼくよりもトーコが戻ってきたのを、よろこんでるんじゃないか。

 (たいくつだし、トーコの子どもでも見てみよ)


  だけどトーコの子どもは赤ちゃんベッドでおとなしくねていた。
  でも、他にすることがないからな……
 なにもしないより見てるほうがマシかな?

  ――けっして、おだやかなネガオにみほれてないんだからな!!


(なんか雪ってより、モチみたいなほっぺただな。リンゴみたいにあかいし。くちびるはストロベリーみたい。ちょとだけ、さわっていいかな? イヤだったら、すやすやねてるのがワルい。)

  少しだけためらって、ゆびでつついてみたら思ったよりやわらかい。こんなさわりごこち初めてだし、なんとなくその感じが気に入って、何回もつついてたら、あかんぼうがピクッとマブタがうごいた。


 (…………おこし、ちゃった……?)
  泣かれるかと思っておそるおそる見ると、あかんぼうは二、三回ほどまばたきをして、ちょっとボーッとしてからぼくを見てニコリと笑った。そのシュンカン、むねがドキッとはねあがるのがわかった。


 (かわいい……)
  むじゃきな顔にみほれていると、あかんぼうの口の近くにあったぼくのひとさしゆびをちゅーと音をたてるようにすわれた。
 (かわいい)
  ばかみたいに、それしか思えなくなる。人にこんなムジャキに笑ってもらえるの初めてかもしれない。
  だって北条の家から出るといつだってぼくの周りはテキばかりだったから。
  とくに小学校に入ってからはパーティーにも出るようになったからなおさら。
  子どもであろうと大人であろうとイエガラやザイサン目当てで男も女もばかみたいに、すりよってきた。
  学校でも公平であるべきキョウシもぼくの家イエガラにこわがるか、はれものにさわるあつかいか、あからさまなごきげんとりか。外はテキしかいない。
  大人はシンヨウできない……
 だけど、子どもは大人のいいなりになっているから……
 もっとシンヨウできない。心からゆるせるトモダチなんていないし、いらない。

 (だけど、この子はどうなんだろう?)

  なにもきたないことを知らないこの子なら。北条の家の子というイロメガネにかけないで、ぼくを見てくれるソンザイになってくれる?ホウセキみたいに、だいじにしてたら、ぼくだけをヒツヨウとしてくれる?
だって、こんなにムクなソンザイなんだから。そんなふうに、してしまえばいい。ぼくだけを見て、ぼくだけをヒツヨウとしてくれるソンザイにしちゃえば……
 そう考えるだけで、今までかんじていたワケのわからないイライラがすっ、と消える。のこったのは、どうしようもなくこの子がいとおしく感じるこのきもち。


 「トーコこの子をちょうだい」
  ぼくはショウドウのまま話し込んでいる二人にわって、あの子をゆびさしてそういうと二人はただおどろいた顔しておたがいの顔を見合わせる。トーコはビックリして目がパチパチうごいて、かーさんはうれしそうな顔しながら、しゃがんでぼくに聞く。


 「いつの間に鷹夜さまは雪乃を好きになられたんですか?」
 「ゆきの?」
 「あの子の名前よ。白石雪乃ちゃん。」

  かわいいから一目惚れしちゃったの? とかーさんはたのしげにわらう。
  トーコのこと気に入ってるから、そのムスメをもらうのにサンセイしているみたいだ。
  それにぼくのウチはじーさまとばーさまがカケオチしたっていってた。
とーさんとかーさんもレンアイケッコン。ならぼくだって……

(しらいしゆきの。あの本のおひめさまみたいな、なまえ。それならしらゆきってよんだ方がおひめさまみたいかな?)

 「しらゆき」


  かみしめるようにつぶやくと、二人は「どこかの童話のタイトルね」とぼくと同じことを思って笑う。もしそうなら王子さまはぼくだ。ドウワのおひめさまでぼくが王子。ぴったりじゃないか。

 「じゃあぼくがおっきくなって王子さまになるから、しらゆきはおひめさまだよ。それでさいごはケッコンしてハッピーエンドむかえるんだから」


 「…………大きくなられてお姫様も王子様のことが大好きになったらいいですよ」


 「じゃあトーコやくそくだよ。しらゆきがぼくのことダイスキになったら、しらゆきがぼくのハナヨメさんだ。」


 (ぜったいぜったい、ぼくのことすきにさせて、だれよりもしあわせなハナヨメさんにしてあげるね)


  そういきごむと、かーさんは「頑張って雪乃ちゃんをお嫁にもらうのよ」と応援してくれた。
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