王子としらゆき

秋月朔夕

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第八話 料理としらゆき

 高校に入ってから、学校が楽しかった。もともと本が好きだったから文学科の勉強も苦にならないし、クラスの子もいい子ばかりで、入学式の時に仲良くなった子と一緒に料理部にも入った。
  中学の時は邸の手伝いをしたくて、部活に入らなかったから、すごく新鮮で楽しい。
  両親は中学の時に「手伝いは助かるけど、学生のうちは好きなことしていいのよ?」と言われたけど、あまり馴染めてない学校よりも邸のことをしている方が楽しかった。だけど、そのことを感じ取ったらしい母はすごく残念そうにしていた。


  けれど高校に入ってからは、長期休暇の時に、邸に帰って学校と寮の生活のことを話せば、喜んでくれる。
それが、うれしい……
 今までこんな話が出来なかったから余計に。

  そして、久しぶりに帰ると鷹夜は前よりも格段に忙しそうにしているのが分かる。
  小さい頃から会社の上に立てるようにみっちりと教育されてたけど、大学四回生になった鷹夜は、必要な単位はほとんど修得しているので、インターシップという名目で、おじさまの会社で働いているらしい。
  鷹夜は出来すぎちゃってるから風当たりは強いかもね。とおばさまはこっそりわたしに教える。
  実際、鷹夜を見ると皆が寝静まるころに帰ってきて、起きるころには邸を出ているから、ほとんど寝てないんだと思う。休みの日ですら部屋で仕事をしているみたいだから、邪魔をしないように、部屋の前にお菓子や軽食を置くことが、邸にいるときの習慣になった。
  本当は邸にいるシェフに作ってもらった方が良いと思うけど、おばさまは「雪乃ちゃんが作るから喜んで食べてるのよ」と意味ありげに笑うので、わたしが作ることになった。
  仕事の合間に食べれるように、なるべく手が汚れないものにしようとサンドイッチ、おにぎり、焼き菓子をメインに作ると、『今日も美味しかったよ。ごちそうさま』とメモを挟んで皿を出している。
  それに時々、明日はコレが食べたいというリクエストがあったりする。


 (ホント料理部に入って良かった……)
  最初は卵も割れなくて、戸惑うくらいだったから。
  言い訳すると、住み込みの分も邸のシェフが作ってくれるし、中学の調理実習はグループの子に、なにもするなと言われた。だから包丁も持ったことがなかった。
  けれど、料理部に入ってからはそうはいかない。皆の足を引っ張りたくなくて料理本見たり、野菜を切る練習したり。そしたら、最初は混ぜるだけだったのが、色んな作業を任せてくれるようになって楽しくなるうちに、料理ができるようになっていった。
  それに、調理実習室からはグラウンドが近いから、時々クラスメイトである立花リツが匂いに釣られてやってくる。サッカー部をしている彼は休憩中こっそり抜け出してきて、ねだる。「料理が下手だった頃も食べたんだから、実験台にされた慰謝料だ」というのが立花くんの主張らしい。
  実際その通りで、入部した当初に作ったカップケーキが何故かまったく膨まなくてペシャンコになってしまった。
  捨てるのがもったいなくて固くてゴムみたいな食感をガマンして食べてると、いきなり誰かが調理実習室の窓から手を伸ばし余ってるカップケーキを食べた。
  驚いて頭上を見ると、立花くんが間近にいた。


 「さっきから、白石がまずそうに食べてるのグラウンドから見えて、どんなの作ったんだよ? って思ったけど案外普通の味なのな」
 「うそ。硬いしまずいよ」
 「いいや。『味は』普通。だけどベーキングパウダーとか入れ忘れてねえか?」


  ベーキングパウダーってなに? と聞くと立花くんは堪えきれないというふうに笑った。

 「膨らまし粉みたいなもん。」
 「えっ!? そんなのあるんだ。」

  便利な世の中なんだね、と呟くと今度は壁をバンバンと叩きながら、笑われる。

 「白石って天然?」
 「違うよ。言われたことないもん。立花くんこそ、なんで詳しいの?」
 「俺ん家ケーキ家なの。じゃ休憩終わるからもう行くわ」


  ――それから、たびたび部活中に立花くんがやってくるようになった。



  焦げ付きオムレツや、お煎餅みたいに硬いクッキー。皆が涙するくらい辛い麻婆豆腐なんか食べていく。
  人が食べるとなると意識して良いものを食べさせたいと思う。前よりも更に熱心に作るようになると、段々失敗が減っていって、上手いと言われることが多くなってうれしい。
  一年の夏休み前には「全然失敗しなくなってつまらん」と言ってからかうから、人に出せるくらいには上達したんだと思う。
  料理部に入ったことを知ってるおばさまに、鷹夜に軽食かお菓子を作ってあげて欲しいとお願いされて、長期休暇の時だけ作ることになった。それでも忙しくてあまり邸にいない鷹夜に作ることはそこまでなかったけれど、わたしが大学に通うくらいになると、仕事が落ち着いきたみたいで、お茶を一緒に飲もうと誘われることが多くなった。



  ――本当に幸せだった。
  あの日、両親が事故でなくなるまでは……
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