王子としらゆき

秋月朔夕

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第九話 しらゆきは成人する

 高校の付属だった大学に進学して二年が経つ。
  大学生になってからは寮を出てアパートに一人暮らしをすることになった。

  だけど、わたしがアパートに住むと決まった時、鷹夜は女の子がなんのセキュリティもないところに住むなんて危ない、と猛反対されて宥めるのがすごく大変だった。
  一時はわたしの両親を言いくるめて、屋敷近くの大学にさせられるところだったから……
 おかげで、高校三年生の夏休みは鷹夜のご機嫌取りに奔走した。
  お菓子を焼いたり、肩を揉んだり、膝枕なんかもさせられた。
  その苦労の結果、夏休み最後の日になってなんとか許可をもらえたのは今となっては苦くも良い思い出になっている。
  そして大学生になってからは、なるべく自分のものは自分で買おうと決めて、アルバイトをするようになった。
  アルバイトといっても、立花くんの両親が営んでいるケーキ家さんで働いているから、アットホームですごく働きやすい。
  もちろん仕事には厳しいけれど、そのおかげで接客業としてのスキルは上がすったと思う。
  立花くんは同じ大学で、学校でもお店でも一緒なので、わたしと付き合っているという噂が流れてしまっている。
  そのせいでサッカーで鍛えられた体躯とワイルドな顔立ちで、女の子からモテるはずなのに、全く彼女が出来ないでいる。
  そのことが申し訳なくて、彼の傍から少し離れようとしたら、「ばーか。いまさら世話役取り上げんなよ」とデコピンされた。


  ――本当に幸せだった。
  二十歳になった次の日までは……



 あの日、両親は休みを取って誕生日を祝うために来てくれた。
  その年の十二月十二日はちょうど土曜日だったから、家族で温泉に行くことになった。誕生日に温泉というのは変わっているかもしれないけど、数少ない休みでがんばってくれている両親の疲れを癒して欲しいのと、あまりなかった家族旅行の思い出として、リクエストしたのだ。
  温泉はとても良かった……
 十二月半ばの時期のおかげ雪がちらつく露天風呂に、仲居さんの振る舞いも良い素敵な旅館。解禁されたカニ料理も美味しかったし、初めて家族でお酒も酌み交わせた。
  次の日の朝は観光地をぶらついて、ランチで郷土料理を食べて、夕方になる時間にお父さんは先にわたしをアパートまで送り届けてくれた。
 冬はすぐに日が暮れる。時計を見たらまだ5時を過ぎたところだけど、もう暗い……
 雪も積もってるから気を付けてね、と言うと、雪乃も今日は冷え込むみたいだから、風邪引かないように気をつけてと二人が心配してくれた。
  アパートに入ると、歩き回って疲れた身体を休めるためにベッドに入る。
 帰りの車の中では心地良い揺れが眠りを誘ったけど、それよりも家族がそろうことがない分喋りたかったから余計に睡魔が襲う。スマートフォンの電池が切れかけてたからコンセントに差し込んで、着信音で起きないようにサイレントにして眠った。




  目を覚ますと、電機もつけてない部屋は真っ暗でケータイのランプだけが光っている。緑色にチカチカと点滅していて、電話があったことを知らせてくれる。
  なにげなく、電話の着信履歴を見ると十五件もある。メールは八件。
それも知らない番号や、おばさまや鷹夜から。
  あまりに異常な件数で、心臓がドクリと嫌な動悸をたてる。
 先にメールから確認すると、信じたくない内容が送られてきていた。



 『圭介と瞳子が事故で亡くなった。車を用意するから、すぐに邸に来なさい』

  絵文字もなく無機質な文字だけが目に突き刺さる。そのメールが受信された時間を確認すると二時間前の六時。
  ついさっきまで喋っていた家族が亡くなったことが信じれなくて、その画面を凝視していると鷹夜から電話が掛かってきた。震える指でなんとか画面を触ると鷹夜はやっと繋がったと安堵の息をはく。


 「ねぇ、雪乃はどこにいるの?」
  部屋、と短く呟くとアパートの駐車場に車を停めてあるから出てきてくれない?と言われ、カーテンを少しだけ開けて外を確認するとアパートに不似合いな車が停まっている。荷物を用意する余裕もなく、財布とスマートフォンだけ鞄に入れて、半ば茫然としながら外にでると車から鷹夜が降りてきて、後部座席のドアを開けてわたしを乗せた後、鷹夜も隣に座り運転手に邸に行くように告げる。
  鷹夜は屋敷に着くまでなにも言わなかったし、わたしもなにも聞かなかった。


  ただ、なにも反応しないわたしを鷹夜は屋敷に到着するまでの間、強く抱き締めていた……
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