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第二十二話 しらゆきのこれから
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――全てが、あっという間に終わった。
おじ様の行動は迅速で、まず鷹夜に当主としての婚約破棄を命じ、彼もあっさりと受け入れた。おば様は信じられないとばかりに目を大きく見開いて自分の夫を睨み付けたけれど、わたし達の様子がおかしいと分かったのかその場ではなにも言わなかった。
とりあえず、結婚の話がなくなったこともあって鷹夜だけがマンションに帰り、わたしは一先ず屋敷に泊まることになった。その夜の間におじ様がおば様を説得したみたいで、翌朝おば様もすんなりと受け入れていた。
(鷹夜が言葉巧みなのも遺伝なのかも)
どんな風に説得をしたかは分からないけれど、彼から解放されるならなんだっていいとさえ思うほどに疲れて、詳しくは聞けなかった。それよりも早く自分の住んでいたアパートに戻って安心したい気持ちが強くて、朝食を食べてすぐバスに乗り数時間掛けて住んでいたアパートに戻ることにした。
久しぶりに帰ったワンルームの部屋は数カ月ほどほったらかしにしていたため埃くさくなっていた。けれど家賃やガスや電気代は両親の貯金から引かれているために生活できることだけは幸いなのかもしれない。
やっともどってこれた安心感からか急激な眠気がわたしを夢まで誘い、荷物の整理すらしないでそのまま眠りについてしまった。
次に目覚めたのはもう当たりが薄暗くなった頃で、時計代わりにスマホを見る。
(メールが一件……)
鷹夜に監禁された当初、わたしが逃げないようにスマホを奪われた。それを知っているおじ様がおば様に怪しまれないように全く同じ機種で白色のスマホを渡してきた。番号もアドレスも変わったために今わたしの連絡先を知っているのはおじ様だけだ。
メールにはこれからのことが書かれている。わたしが大学に通う意思があるなら卒業までの間後見人がおば様になったこと、鷹夜は数年程ヨーロッパの支社に飛ばし日本に居ないこと、旅立つまでに彼にお見合いでもさせて伴侶を見つけるようにすること、そして息子を他人だと。
(これからどうしよう……?)
大学は後期の授業にほとんど出れなかったせいでもう留年している。
(わたしって本当に大学まで行って、勉強したいことがあったのかな?)
なにもない自分にどんどん暗い気持ちが募っていく。部屋も電気をつけていないから余計なのかもしれない。億劫な身体を無理やり起こしてテレビをつける。
ぼんやりとテレビを眺めていたら、突然チャイムがなった。
(だれ……?)
なにも考えないまま玄関を開けると立花リツが居た。
「なんで、ここに……?」
呆然としながら、部屋に通すと彼に思いっきり睨み付けられる。
「なんでじゃないだろっ!」
突然大きな声で怒鳴られると反射的に身体が跳ねる。彼はそれを見て悪い、と小さな声で謝った。
とりあえず玄関で話すと長くなりそうなので部屋に入れてお茶を入れる。
(封を開けていないティーバックがあってよかった……)
暖かいお茶を飲めば少しだけ彼も落ち着いたようだった。
「…………それで、今までどうしていたんだ?」
すぐに本題を出されて内心呻いた。
(とてもじゃないけど、本当のことなんか言えない)
あんなこと説明したくもない。かといって言い訳も用意していないわたしは答えに困ってしまう。
「えっと、北条家にご厄介になっていたの」
嘘は言っていない。けれど勘の鋭いリツはピクリと男らしい眉根を上げる。
「ふーん、それじゃあなんでメールも電話も返さなかったんだよ?」
あまりに的確な質問に答えられないでいると、大学にも連絡がなかったって聞いたぞ、とさらに追い詰められた。
「…………北条家の子息と婚約を結んだのもお前だろ?」
思いがけない言葉に息を呑む。からからに乾いた声でなんで知っているの? と尋ねれば、彼は荒々しく髪を掻いた。
「白石と連絡がとれなくなってすぐに、三面記事だったけれど新聞に載っていた。北条家に行ったきり帰ってこない上に、二十歳の女なら白石しかいないだろうなと思ったんだ」
「……っ、婚約なんて、結んでない」
「じゃあ、なんで全国紙の新聞に載っているんだ?」
「それはっ……」
今度こそなにも答えられなくて俯いてしまう。
「――ずっと心配、していたんだ…毎日当たり前のように顔を合わせていたのに急にいなくなって、連絡も取れなくて、誰に聞いても白石のことがどうしているのか分からなくて、果ては御曹司との結婚話。もうこのまま会えないんだと思った。」
空気を切り裂くような言葉に心の中で謝るしかできない自分がすごく歯がゆかった。胸が苦しくて勢いに任せてこのまま本当のことを言ってしまおうかと思った時に、彼が痛いくらいに肩を掴みベッドにわたしを追い込んだ。お互いの吐息すら感じられる顔の距離に全身が震えた。
「っ、や! 離してっ……」
不意にフラッシュバックしたのは鷹夜とのこと。思い出しただけでも脂汗が滲み、顔に血の気が引いていくのが自分でも分かってしまった。記憶の彼方に閉じ込めてしまいたい鷹夜との関係を思い出してしまうようなことをする立花くんが怖かった。
おじ様の行動は迅速で、まず鷹夜に当主としての婚約破棄を命じ、彼もあっさりと受け入れた。おば様は信じられないとばかりに目を大きく見開いて自分の夫を睨み付けたけれど、わたし達の様子がおかしいと分かったのかその場ではなにも言わなかった。
とりあえず、結婚の話がなくなったこともあって鷹夜だけがマンションに帰り、わたしは一先ず屋敷に泊まることになった。その夜の間におじ様がおば様を説得したみたいで、翌朝おば様もすんなりと受け入れていた。
(鷹夜が言葉巧みなのも遺伝なのかも)
どんな風に説得をしたかは分からないけれど、彼から解放されるならなんだっていいとさえ思うほどに疲れて、詳しくは聞けなかった。それよりも早く自分の住んでいたアパートに戻って安心したい気持ちが強くて、朝食を食べてすぐバスに乗り数時間掛けて住んでいたアパートに戻ることにした。
久しぶりに帰ったワンルームの部屋は数カ月ほどほったらかしにしていたため埃くさくなっていた。けれど家賃やガスや電気代は両親の貯金から引かれているために生活できることだけは幸いなのかもしれない。
やっともどってこれた安心感からか急激な眠気がわたしを夢まで誘い、荷物の整理すらしないでそのまま眠りについてしまった。
次に目覚めたのはもう当たりが薄暗くなった頃で、時計代わりにスマホを見る。
(メールが一件……)
鷹夜に監禁された当初、わたしが逃げないようにスマホを奪われた。それを知っているおじ様がおば様に怪しまれないように全く同じ機種で白色のスマホを渡してきた。番号もアドレスも変わったために今わたしの連絡先を知っているのはおじ様だけだ。
メールにはこれからのことが書かれている。わたしが大学に通う意思があるなら卒業までの間後見人がおば様になったこと、鷹夜は数年程ヨーロッパの支社に飛ばし日本に居ないこと、旅立つまでに彼にお見合いでもさせて伴侶を見つけるようにすること、そして息子を他人だと。
(これからどうしよう……?)
大学は後期の授業にほとんど出れなかったせいでもう留年している。
(わたしって本当に大学まで行って、勉強したいことがあったのかな?)
なにもない自分にどんどん暗い気持ちが募っていく。部屋も電気をつけていないから余計なのかもしれない。億劫な身体を無理やり起こしてテレビをつける。
ぼんやりとテレビを眺めていたら、突然チャイムがなった。
(だれ……?)
なにも考えないまま玄関を開けると立花リツが居た。
「なんで、ここに……?」
呆然としながら、部屋に通すと彼に思いっきり睨み付けられる。
「なんでじゃないだろっ!」
突然大きな声で怒鳴られると反射的に身体が跳ねる。彼はそれを見て悪い、と小さな声で謝った。
とりあえず玄関で話すと長くなりそうなので部屋に入れてお茶を入れる。
(封を開けていないティーバックがあってよかった……)
暖かいお茶を飲めば少しだけ彼も落ち着いたようだった。
「…………それで、今までどうしていたんだ?」
すぐに本題を出されて内心呻いた。
(とてもじゃないけど、本当のことなんか言えない)
あんなこと説明したくもない。かといって言い訳も用意していないわたしは答えに困ってしまう。
「えっと、北条家にご厄介になっていたの」
嘘は言っていない。けれど勘の鋭いリツはピクリと男らしい眉根を上げる。
「ふーん、それじゃあなんでメールも電話も返さなかったんだよ?」
あまりに的確な質問に答えられないでいると、大学にも連絡がなかったって聞いたぞ、とさらに追い詰められた。
「…………北条家の子息と婚約を結んだのもお前だろ?」
思いがけない言葉に息を呑む。からからに乾いた声でなんで知っているの? と尋ねれば、彼は荒々しく髪を掻いた。
「白石と連絡がとれなくなってすぐに、三面記事だったけれど新聞に載っていた。北条家に行ったきり帰ってこない上に、二十歳の女なら白石しかいないだろうなと思ったんだ」
「……っ、婚約なんて、結んでない」
「じゃあ、なんで全国紙の新聞に載っているんだ?」
「それはっ……」
今度こそなにも答えられなくて俯いてしまう。
「――ずっと心配、していたんだ…毎日当たり前のように顔を合わせていたのに急にいなくなって、連絡も取れなくて、誰に聞いても白石のことがどうしているのか分からなくて、果ては御曹司との結婚話。もうこのまま会えないんだと思った。」
空気を切り裂くような言葉に心の中で謝るしかできない自分がすごく歯がゆかった。胸が苦しくて勢いに任せてこのまま本当のことを言ってしまおうかと思った時に、彼が痛いくらいに肩を掴みベッドにわたしを追い込んだ。お互いの吐息すら感じられる顔の距離に全身が震えた。
「っ、や! 離してっ……」
不意にフラッシュバックしたのは鷹夜とのこと。思い出しただけでも脂汗が滲み、顔に血の気が引いていくのが自分でも分かってしまった。記憶の彼方に閉じ込めてしまいたい鷹夜との関係を思い出してしまうようなことをする立花くんが怖かった。
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