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十六歳になり、少しずつわたしも夜会に出るようになった。
パートナーのキースはエスコートがうまく、一緒に踊るとわたしまでダンスが上達したのではないか錯覚しそうになる。知り合いも徐々に増えて、彼女らと話すようにもなった。
話題で一番盛り上がるのはやはり恋の話だ。
「カレンの婚約者、本当に素敵だわぁ」
しみじみとそう呟いたのは伯爵令嬢のエミリだ。彼女はわたしと同じ年で、明るく真っ直ぐな性格をしていた。
「エミリの婚約者だって素敵じゃない」
「私の場合、幼馴染だから兄妹みたいなものよ」
そうは言っているが、実際にその幼馴染がきたら嬉しそうな顔をしているのを知っている。
「でもカレンは嫉妬しないの?」
そろりとエミリが視線を向けた先にはキースが女性に囲まれていたところだ。
「わたしはいいの」
彼がモテるのは知っている。侯爵家の次男で騎士団の出世頭。おまけに見目麗しく、それを鼻にかけない紳士的な性格だから、なおさら女性が寄ってくる。
「本妻の余裕?」
「違うわよ。まだ婚約者なだけだから」
ヒロインがやってくるのはあと二年後だ。そうなったらわたしは彼にフラれる。最初から分かっていたことだ。
(でもこうやって婚約できたこと自体が奇跡みたいなものだし)
大好きだった彼と一時でも婚約することができた。
まるで夢みたいな時間だ。
この思い出だけできっとわたしは生きていける。
――あとは彼がヒロインと結ばれたら良いんだけど。
ゲームでは絶対に彼はヒロインを序盤で好きになっていた。そんな彼を応援していたかった。
「でも家同士が決めた婚約なんだから、よっぽどのことがない限りこのまま結婚するでしょ」
カラカラと快活に笑われたが、ゲームを通じてあっさりと婚約を破棄される自分の未来を知っているから複雑な気分になる。
(この先、『よっぽど』のことがあるんだけどね)
曖昧に笑って誤魔化そうとしたその時。いつの間にかやってきたキースに後ろから腕を掴まれる。
「少しカレンをお借りしても……?」
エミリにそう尋ねているが彼の中で答えは決まっているのだろう。
彼女がうなずくとすぐにわたしを連れて会場をあとにした。
「キース様。どちらに?」
無言のまま早足で歩いているせいで、ついていくのがやっとだ。
切れ切れの息で呼び掛けると彼はハッとしたように立ち止まる。
「すみません」
「いえ、大丈夫ですから」
掴んでいた腕が離される。強い力だったからか少しその場所が赤い。
普段の彼ならきっと気付いたはずなのに、今夜はそれに気付く余裕がないらしい。
じっと顔を覗き込まれる。表情の抜け落ちた顔は整っている分、冷たく見える。
「キース様?」
どこか彼の様子がおかしい。
一体なにが原因なのか。呼び掛けて探ろうとしても、彼は答えてくれなかった。
代わりに一番近くの部屋に連れ込まれる。
「なにを……?」
「なにってただ婚約者と二人きりになっただけですよ」
そう答えた彼の唇が皮肉気に歪んでいた。
「ねぇ、カレン。わたしと結婚するつもりがあるんですよね?」
顎を掴まれ、顔を覗き込まれる。
凝視する双眼は探るようにこちらを見下ろした。
――もちろんです。
この場を抑えるためなら、そう言えばいい。
それくらいわたしにだって分かっている。けれど。
「さっきエミリと話していたこと聞いていたんですか?」
「あなたのところに戻ろうとしたら、たまたま耳に入ってきたんです」
短く舌打ちされて、ビクリと肩が跳ね上がる。
「それでさっきの答えは?」
抑揚のない声に竦みそうになる。うつむきたいのに彼の手が邪魔をして、キースと見つめ合うことしかできない。
正直なところわたしが彼と結婚するなんて考えていなかった。
最近彼が甘く接してくれているが、それはあくまで『婚約者』に対する振舞いなんだろうと思っていた。だってキースは幼少期の『トラウマ』から相手の望む自分として振舞う癖がついていたから。
そのためキースはヒロインに対して『白キース』として接したのだ。
しかしそうなると最初の頃に彼が適当な対応をしていたことと矛盾する。
グルグルと色んなことを考えてしまってすぐに答えられなかった。
それを『答え』としたのだろう。
重たい溜息を吐かれる。
「結局その程度だったんですね」
彼の目にははっきりと失望の色が浮かんでいた。
「あ……」
たじろいだわたしを彼が離す。そしてそのままキースは一人で部屋を出ていった。
取り残されたわたしは呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
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