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夕食は穏やかだった。
塔の食堂は小ぢんまりとしているが、温かい灯りが落ち着く空間を作っている。
アシェルは今日も行った温室の話をしていた。
「明日には咲くと思うんだ。ゼノも見てね」
「承知しました」
キキはスープをよそいながら、静かに切り出す。
「坊ちゃん」
「うん?」
「明日、国王陛下がこちらへお越しになります」
その瞬間。
アシェルの手が止まった。
ほんの一拍。
スプーンが皿に触れ、小さな音を立てる。
「そうなんだ」
アシェルは微笑む。
「久しぶりだね」
声は自然だ。
だがその指先は、わずかに白くなるほど力が入っている。
キキは気づいているようだが
何も言わない。
「ご準備を整えておきましょう」
「うん、お願い、じいや」
何事もなかったように、食事は続く。
だがゼノは、先ほどの違和感を反芻していた。
“国王陛下”。
実の父だ。
王族とはいえ、やはり緊張するのだろう。
厳格な父を前にすれば、多少は身構える。
そういうことだ。
そう理解する。
食事が終わり、アシェルは立ち上がる。
「ゼノ、明日はちゃんと側にいてね」
「もちろんです」
嬉しそうに笑う。
だがその笑顔の奥に、ほんのわずかな翳りがある気がして。
ゼノは言葉を飲み込んだ。
夜。
寝室の前で待機していると、扉の向こうで寝返りの音がする。
やがて、かすかな声。
「……いや……」
ゼノの背筋が伸びる。
キキが静かに部屋へ入る。
しばらくして出てきた。
「殿下は…?」
「熱が少々…少し魘されているようです」
目を伏せながら答える。
だがゼノは扉をそっと開け、ベッドの上の影を見る。
薄く汗を滲ませ、眉を寄せる少年。
偶然、だろうか。
ゼノは拳を握る。
証拠はない。
だが、胸の奥に小さな棘が刺さる。
塔の外では、風が強まっていた。
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