声を失った悪役令息は北の砦で覚醒する〜無詠唱結界で最強と呼ばれ、冷酷侯爵に囲われました〜

天気

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領土内の教会。

高い天井に、柔らかな光が差し込む。

白を基調とした空間。

その中心に――

白とスカイブルー。

並んで立つ、二人。

エアリスのドレスは、清楚で、凛としていて。

その細い身体に、よく似合っていた。

カイゼルもまた、同じ色を纏う。

並べば、それだけで“揃い”だと分かる。

扉の前。

開かれる直前。

「……」

エアリスは、緊張で少し強張っていた。

視線が揺れる。

呼吸が、浅い。

「……大丈夫だ」

隣から、低い声。

「行こう」

短く、確かな言葉。

「……」

エアリスは、ほんの少しだけ顔を上げる。

こくり、と頷く。




大きな扉が、開く。

歓声。

ざわめき。

一斉に向けられる視線。

「……あの方が」

「アルヴェイン家の……?」

「とても、お綺麗……」

さざ波のように広がる声。

エアリスは――

ほとんど、それを聞いていなかった。

ただ、前だけを見る。

カイゼルの腕に手を置き。

導かれるままに、一歩ずつ進む。

(まっすぐ)

それだけを、意識して。

一方で。

カイゼルの視線は、冷静に場を見ていた。

その中で――

一つ、異質な視線。

(……)

見つける。

後方。

貴族たちの影。

こちらを、いや――

エアリスを、睨みつけるような視線。

イザベラ。

「……」

ほんの一瞬、目が細くなる。

だが、何も言わない。

そのまま、歩みを止めない。




席に着く。

近くには、執事とナート。

その存在に、エアリスの肩の力が少し抜ける。

「……」

小さく、息を吐く。

カイゼルが、簡素に挨拶をする。

短く、無駄がない。

それでも十分に伝わる言葉。

パーティーが始まる。

次々と訪れる、貴族たち。

挨拶。

言葉。

視線。

エアリスは、緊張しながらも。

カイゼルの話に合わせて頷く。

それだけでも、精一杯だった。

「……」

ふと。

カイゼルが、少しだけ身を寄せる。

「疲れたか」

小さな声。

エアリスは、少し迷ってから――

こくり、と頷く。

すぐに。

カイゼルは飲み物を手に取り、差し出す。

「飲め」

短く。

だが、明らかに気遣いのある動き。

「……」

それを受け取るエアリス。

周囲の貴族たちが、息を呑む。

(……あのカイゼル様が)

(あんな風に……)

普段とは違う一面。

明確な“特別扱い”。

ざわめきが、わずかに変わる。

それを――

面白くないと感じる者が、一人。

イザベラ。

視線が、鋭くなる。

「……」

やがて。

その時が来る。

人の流れが変わる。

近づいてくる、二人。

「おめでとうございます、カイゼル様」

柔らかな声。

「マーカス・セドリックと、イザベラでございます」

完璧な笑み。

外から見れば、非の打ち所がない。

「……」

その声に。

エアリスの身体が、ぴくりと反応する。

はっとして、顔を上げる。

視線が、合う。

イザベラ。

「……!」

一瞬で。

身体が強張る。

息が、止まる。

逃げ場がない。

視線を逸らせない。

(……こわい)

無意識に、震えが走る。

その手を――

机の下で、そっと包むもの。

カイゼルの手。

冷え切ったエアリスの手を、しっかりと握る。

「……」

わずかに、力を込める。

“ここにいる”と伝えるように。

「エアリス」

イザベラが、優しく呼ぶ。

「とてもお似合いですわ」

笑っている。

だが――

目は、笑っていない。

「……」

エアリスの呼吸が、さらに浅くなる。

「……ああ」

カイゼルが、間に入る。

「気持ちだけ受け取っておこう」

そっけない。

はっきりとした距離。

イザベラの眉が、わずかに動く。

「姉様が来たのよ?」

さらに一歩、踏み込む。

「声を聞かせてちょうだい」

「っ」

エアリスの肩が、びくりと跳ねる。

呼吸が乱れる。

喉が、締まる。

(……だせない)

怖い。

出ない。

また、否定される。

その時。

後ろから、執事が静かに近づく。

カイゼルの耳元で、小さく囁く。

「……」

一瞬の沈黙。

それから――

カイゼルが、ゆっくりと顔を上げる。

「……だそうだ」

声は低い。

だが、明確に線を引く。

「庭園に食事を用意したらしい」

視線は、イザベラから外さない。

「失礼する」

それだけ言う。

完全に、会話を断ち切る。

「エアリス」

横を見る。

「立てるか」

だが――

エアリスには、まだ届いていない。

呼吸が浅いまま。

視線も、固まっている。

「……」

一瞬。

迷いは、なかった。

カイゼルは立ち上がる。

そのまま――

エアリスを、抱き上げる。

「……っ」

小さく、息を呑む声。

周囲がざわめく。

「下がる」

それだけ告げて。

そのまま、奥へと歩き出す。

誰も、止められない。

ナートと執事が、すぐに後に続く。

イザベラの視線が、背中に突き刺さる。

「……」

唇が、歪む。

(……あいつ)

腕の中に守られている姿。

あの距離。

あの扱い。

(なんで……)

爪が、食い込む。

(なんで、あいつが)

怒りが、静かに膨れ上がる。









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