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36.
領土内の教会。
高い天井に、柔らかな光が差し込む。
白を基調とした空間。
その中心に――
白とスカイブルー。
並んで立つ、二人。
エアリスのドレスは、清楚で、凛としていて。
その細い身体に、よく似合っていた。
カイゼルもまた、同じ色を纏う。
並べば、それだけで“揃い”だと分かる。
扉の前。
開かれる直前。
「……」
エアリスは、緊張で少し強張っていた。
視線が揺れる。
呼吸が、浅い。
「……大丈夫だ」
隣から、低い声。
「行こう」
短く、確かな言葉。
「……」
エアリスは、ほんの少しだけ顔を上げる。
こくり、と頷く。
⸻
大きな扉が、開く。
歓声。
ざわめき。
一斉に向けられる視線。
「……あの方が」
「アルヴェイン家の……?」
「とても、お綺麗……」
さざ波のように広がる声。
エアリスは――
ほとんど、それを聞いていなかった。
ただ、前だけを見る。
カイゼルの腕に手を置き。
導かれるままに、一歩ずつ進む。
(まっすぐ)
それだけを、意識して。
一方で。
カイゼルの視線は、冷静に場を見ていた。
その中で――
一つ、異質な視線。
(……)
見つける。
後方。
貴族たちの影。
こちらを、いや――
エアリスを、睨みつけるような視線。
イザベラ。
「……」
ほんの一瞬、目が細くなる。
だが、何も言わない。
そのまま、歩みを止めない。
⸻
席に着く。
近くには、執事とナート。
その存在に、エアリスの肩の力が少し抜ける。
「……」
小さく、息を吐く。
カイゼルが、簡素に挨拶をする。
短く、無駄がない。
それでも十分に伝わる言葉。
パーティーが始まる。
次々と訪れる、貴族たち。
挨拶。
言葉。
視線。
エアリスは、緊張しながらも。
カイゼルの話に合わせて頷く。
それだけでも、精一杯だった。
「……」
ふと。
カイゼルが、少しだけ身を寄せる。
「疲れたか」
小さな声。
エアリスは、少し迷ってから――
こくり、と頷く。
すぐに。
カイゼルは飲み物を手に取り、差し出す。
「飲め」
短く。
だが、明らかに気遣いのある動き。
「……」
それを受け取るエアリス。
周囲の貴族たちが、息を呑む。
(……あのカイゼル様が)
(あんな風に……)
普段とは違う一面。
明確な“特別扱い”。
ざわめきが、わずかに変わる。
それを――
面白くないと感じる者が、一人。
イザベラ。
視線が、鋭くなる。
「……」
やがて。
その時が来る。
人の流れが変わる。
近づいてくる、二人。
「おめでとうございます、カイゼル様」
柔らかな声。
「マーカス・セドリックと、イザベラでございます」
完璧な笑み。
外から見れば、非の打ち所がない。
「……」
その声に。
エアリスの身体が、ぴくりと反応する。
はっとして、顔を上げる。
視線が、合う。
イザベラ。
「……!」
一瞬で。
身体が強張る。
息が、止まる。
逃げ場がない。
視線を逸らせない。
(……こわい)
無意識に、震えが走る。
その手を――
机の下で、そっと包むもの。
カイゼルの手。
冷え切ったエアリスの手を、しっかりと握る。
「……」
わずかに、力を込める。
“ここにいる”と伝えるように。
「エアリス」
イザベラが、優しく呼ぶ。
「とてもお似合いですわ」
笑っている。
だが――
目は、笑っていない。
「……」
エアリスの呼吸が、さらに浅くなる。
「……ああ」
カイゼルが、間に入る。
「気持ちだけ受け取っておこう」
そっけない。
はっきりとした距離。
イザベラの眉が、わずかに動く。
「姉様が来たのよ?」
さらに一歩、踏み込む。
「声を聞かせてちょうだい」
「っ」
エアリスの肩が、びくりと跳ねる。
呼吸が乱れる。
喉が、締まる。
(……だせない)
怖い。
出ない。
また、否定される。
その時。
後ろから、執事が静かに近づく。
カイゼルの耳元で、小さく囁く。
「……」
一瞬の沈黙。
それから――
カイゼルが、ゆっくりと顔を上げる。
「……だそうだ」
声は低い。
だが、明確に線を引く。
「庭園に食事を用意したらしい」
視線は、イザベラから外さない。
「失礼する」
それだけ言う。
完全に、会話を断ち切る。
「エアリス」
横を見る。
「立てるか」
だが――
エアリスには、まだ届いていない。
呼吸が浅いまま。
視線も、固まっている。
「……」
一瞬。
迷いは、なかった。
カイゼルは立ち上がる。
そのまま――
エアリスを、抱き上げる。
「……っ」
小さく、息を呑む声。
周囲がざわめく。
「下がる」
それだけ告げて。
そのまま、奥へと歩き出す。
誰も、止められない。
ナートと執事が、すぐに後に続く。
イザベラの視線が、背中に突き刺さる。
「……」
唇が、歪む。
(……あいつ)
腕の中に守られている姿。
あの距離。
あの扱い。
(なんで……)
爪が、食い込む。
(なんで、あいつが)
怒りが、静かに膨れ上がる。
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