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43.
夜の砦は、静まり返っていた。
外はまだ冷えるが、部屋の中は暖かい。
穏やかな静寂。
規則正しい寝息だけが、空間に溶けている。
「……」
ベッドの傍。
椅子に腰掛けたまま、カイゼルは目を閉じていた。
浅い休息。
完全に眠ることはない。
何かあればすぐ動けるように。
その時――
「……っ、……や……」
かすかな声。
苦しそうな呼吸。
「……」
カイゼルの目が、すぐに開く。
視線は、ベッドへ。
エアリスが、眉を寄せている。
呼吸が乱れている。
指が、シーツを掴むように震えている。
「……エアリス」
低く、呼ぶ。
だが、届いていない。
夢の中だ。
「……いや……っ」
かすれる声。
拒絶。
震え。
「……」
カイゼルはすぐに立ち上がる。
ベッドへ近づき――
そっと、肩に触れる。
「大丈夫だ」
静かに。
しかし、はっきりと。
「エアリス」
もう一度。
名前を呼ぶ。
「……っ」
びくり、と身体が跳ねる。
そして――
ゆっくりと、目が開く。
「……」
焦点が、定まらない。
夢と現実の狭間。
息が、まだ荒い。
「……」
カイゼルは、ためらわず。
そのまま、引き寄せる。
腕の中へ。
「……ここだ」
低い声。
「もう大丈夫だ」
「……」
エアリスは、一瞬抵抗するように身体を強張らせる。
だが――
すぐに、気づく。
(……ちがう)
この温もり。
この匂い。
「……か、い……」
かすれた音。
名前になりきらないが確かに読んだ。
「……ああ」
短く応じる。
「……」
エアリスの力が、抜ける。
そのまま――
そっと、カイゼルの服を掴む。
ぎゅっと。
離さないように。
「……」
カイゼルは何も言わない。
ただ、背中を撫でる。
ゆっくりと。
一定のリズムで。
安心させるように。
「……」
呼吸が、少しずつ整っていく。
浅かったそれが、深くなる。
「………」
やがて、再び眠りへ落ちていく。
だが――
服を掴んだ手は、離れない。
ぎゅっと。
小さく、必死に。
「……」
カイゼルは、その手を見る。
(……離さないな)
ほんのわずかに、息を吐く。
困ったようで。
けれど、どこか柔らかい。
「……仕方ない」
小さく呟く。
そのまま――
エアリスを起こさないように。
ゆっくりと身体を動かす。
ベッドへ。
隣に、横になる。
距離は近い。
触れれば分かるほどに。
「……」
腕は、そのまま。
エアリスを包むように。
背中を守る位置。
自然と、そうなる。
「……」
エアリスは、安心したように。
ほんの少しだけ、身体を寄せる。
無意識に。
「……」
カイゼルの目が、わずかに細まる。
そのまま、視線を落とす。
すぐそばの寝顔。
穏やかになった表情。
さっきまでの苦しさが、嘘のように消えている。
「……」
静かに、目を閉じる。
完全に眠るわけではない。
だが――
さっきよりは、深く落ちる。
腕の中の温もりを感じながら。
その夜。
二人は――
初めて、同じベッドで眠った。
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