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44.5
夕食のあと。
静かに片付けが終わり。
部屋には、二人だけ。
「……」
カイゼルが立ち上がる。
「では、戻る」
いつも通りの一言。
扉へ向かう足音。
その背中を――
エアリスは、じっと見ていた。
(……いく)
(……いっちゃう)
胸の奥が、きゅっとする。
さっきまで、普通だったのに。
隣にいたのに。
「……っ」
気づけば。
一歩、踏み出していた。
そして――
「っか……ぜる、さ……ま、」
かすれた声。
それでも、はっきりと届く。
「……」
扉の前で、足が止まる。
ゆっくりと振り返るカイゼル。
「どうした」
低く、落ち着いた声。
「……」
エアリスは、何も言えない。
口が、開いたまま。
言葉が出ない。
(いっしょに……)
(ねて……ほしい)
でも。
恥ずかしい。
怖い。
こんなこと、言ったことがない。
「……」
視線が揺れる。
手が、ぎゅっと握られる。
「……エアリス」
少しだけ、歩み寄るカイゼル。
「何だ」
急かさない。
ただ、待つ。
「……っ」
エアリスは、ゆっくりと口を動かす。
震える声。
「……い、っしょ……」
途切れる。
顔が、どんどん赤くなる。
「……」
カイゼルは黙っている。
最後まで聞く。
「……ね、て……くださ、い」
消え入りそうな声。
それでも。
確かに、言った。
「……」
一瞬の、静寂。
エアリスは顔を伏せる。
(いっちゃった……)
逃げ出したい。
でも――
「……ああ」
短い返事。
「いいぞ」
「……っ」
顔が、勢いよく上がる。
目を見開くエアリス。
「……いいの?」
そう言うように。
「……」
カイゼルは、わずかに息を吐く。
そして――
エアリスの前まで来る。
「昨日も、そうだっただろう」
静かに言う。
「……」
確かに。
自分から掴んで、離さなかった。
「……嫌ではない」
はっきりと。
「むしろ――」
一瞬だけ、言葉を区切る。
「……その方がいい」
「……」
エアリスの目が、揺れる。
じんわりと、熱くなる。
嬉しい。
でも、くすぐったい。
恥ずかしい。
全部、混ざる。
「……」
こくり、と頷く。
小さく。
でも、確かに。
⸻
ベッド。
昨日と同じ場所。
けれど――
今日は、違う。
「……」
エアリスは、少しだけ距離を空けて横になる。
どうしたらいいか分からない。
ちら、とカイゼルを見る。
「……」
カイゼルは何も言わず、隣に横になる。
自然な動き。
「……」
少しの沈黙。
(……どうしよう)
(ちかい……)
(でも……)
(さびしいの、やだ)
迷って。
迷って。
そして――
そっと、近づく。
ほんの少しだけ。
「……」
それに気づいたカイゼル。
何も言わず。
腕を伸ばす。
「……っ」
そのまま、引き寄せられる。
昨日と同じ位置。
腕の中。
「……」
驚いて見上げるエアリス。
すぐ近くに、カイゼルの顔。
「これでいいだろう」
低く、穏やかな声。
「……」
エアリスは、ゆっくりと。
カイゼルの服を掴む。
昨日よりも、少しだけ自然に。
「……」
カイゼルの手が、背中に回る。
優しく、撫でる。
「……安心するか」
「……」
こくり、と頷く。
胸に、額を寄せる。
鼓動が、聞こえる。
一定で、落ち着く音。
「……」
そのまま、目を閉じる。
「……おやすみ、エアリス」
「……お、や……」
小さく、返そうとして。
言葉になりきらないまま。
でも――
ちゃんと、伝わる。
「……」
呼吸が、ゆっくりになる。
力が抜ける。
眠りに落ちるのは、早かった。
⸻
「……」
カイゼルは、しばらくそのまま。
腕の中の存在を感じている。
軽い。
温かい。
守るべきもの。
「……」
わずかに、目を細める。
(……離す気はない)
心の中で、はっきりと。
そのまま――
静かに、目を閉じた。
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