声を失った悪役令息は北の砦で覚醒する〜無詠唱結界で最強と呼ばれ、冷酷侯爵に囲われました〜

天気

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王都を追い出された三人に、行き場はない。

「……どこへ行くのよ」

イザベラの声は、かすれていた。

返事をする者はいない。

セドリックも、母も。

ただ、黙って歩くしかない。

荷物はわずか。

金もない。

高いプライドが邪魔をして、頼ることもできない。

「……っ」

街道の途中。

人通りも少なくなった頃――

「――おい、止まれ」

低い声。

「……?」

振り返る。

そこにいたのは、数人の男たち。

粗野な格好。

ただの旅人ではない。

「……何よ」

苛立った声を出すイザベラ。

「通してちょうだい」

だが――

男たちは動かない。

じっと、三人を見ている。

値踏みするように。

「……」

嫌な空気。

「……おい、行くぞ」

セドリックが小さく言う。

だが、一歩踏み出した瞬間。

道を塞がれる。

「どこへ行く」

「……っ」

「……金もねぇ、後ろ盾もねぇ貴族様に」

にやり、と笑う男。

「いい“働き口”がある」

「……は?」

イザベラの顔が歪む。

「ふざけないで」

「……そうだな」

別の男が、肩をすくめる。

「選ぶ権利は、もうねぇ」

次の瞬間。

腕を掴まれる。

「っ!離しなさい!!」

振り払おうとする。

だが、力が違う。

「やめろ!!」

セドリックも抵抗するが――

押さえつけられる。

母は、声も出せずに震えている。

「放して!!私は……!」

「元、だろ」

冷たく遮られる。

「今はただの――」

言葉は、最後まで言わない。

だが、十分だった。

「……っ」

そのまま――

三人は連れて行かれた。

抗うこともできずに。




南部。

乾いた大地。

黒い煙。

重く沈む空気。

そこは――

地下採掘場。

「ここで働いてもらう」

男が言う。

「……嫌よ……こんなところ……」

足が震えるイザベラ。

「……帰る……帰るわ……!」

だが――

背中を押される。

「戻る場所はねぇよ」

冷たい声。

「働け。生きたければな」

「……っ」

言葉を失う。

周囲には――

同じような境遇の者たち。

疲れ切った顔。

無言で作業を続ける人影。

逃げ場は、ない。

「……いや……いやよっ……」

崩れ落ちるイザベラ。

だが――

誰も助けない。

「……っ」

セドリックも、歯を食いしばる。

何もできない。

すべてを失った男の顔。

母は、ただ泣くだけ。




最北の砦。

静かな夕方。

カイゼルは、執務室で報告書を閉じる。

「……終わりましたか」

執事が静かに問う。

「ああ」

短い返事。

「……南に回した」

それだけ。

それ以上は語らない。

「……左様でございますか」

執事も、それ以上は聞かない。

すべて、理解している。

「……」

カイゼルは窓の外を見る。

穏やかな光。

静かな砦。

(……これでいい)

あれは――

必要な処理だ。

二度と。

近づけさせないために。

「……」

その時。

コンコン、とノック。

「入れ」

扉が開く。

そこにいるのは――

エアリス。

手には、小さな皿。

「……来たか」

声が、わずかに柔らぐ。

とことこと近づく。

机の上に、そっと置く。

『きょう ぷりん』

「……そうか」

わずかに、口元が緩む。

「食べるか」

こくり、と頷くエアリス。

隣に座る。

「……」

スプーンを口に運ぶ。

甘い味。

ほっとする空気。

「……うまい」

「……!」

嬉しそうに、目を細めるエアリス。

「……」

カイゼルは、その様子を見る。

静かに。

(……守る)

改めて、思う。

この穏やかな時間を。

この存在を。

「……」

そっと、頭に手を置く。

優しく撫でる。

エアリスは、少しだけくすぐったそうにしながら。

それでも――

嬉しそうに、目を細めた。




光の中で生きる者と。

影の中へ落ちた者。

もう、交わることはない。






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