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49.
王都を追い出された三人に、行き場はない。
「……どこへ行くのよ」
イザベラの声は、かすれていた。
返事をする者はいない。
セドリックも、母も。
ただ、黙って歩くしかない。
荷物はわずか。
金もない。
高いプライドが邪魔をして、頼ることもできない。
「……っ」
街道の途中。
人通りも少なくなった頃――
「――おい、止まれ」
低い声。
「……?」
振り返る。
そこにいたのは、数人の男たち。
粗野な格好。
ただの旅人ではない。
「……何よ」
苛立った声を出すイザベラ。
「通してちょうだい」
だが――
男たちは動かない。
じっと、三人を見ている。
値踏みするように。
「……」
嫌な空気。
「……おい、行くぞ」
セドリックが小さく言う。
だが、一歩踏み出した瞬間。
道を塞がれる。
「どこへ行く」
「……っ」
「……金もねぇ、後ろ盾もねぇ貴族様に」
にやり、と笑う男。
「いい“働き口”がある」
「……は?」
イザベラの顔が歪む。
「ふざけないで」
「……そうだな」
別の男が、肩をすくめる。
「選ぶ権利は、もうねぇ」
次の瞬間。
腕を掴まれる。
「っ!離しなさい!!」
振り払おうとする。
だが、力が違う。
「やめろ!!」
セドリックも抵抗するが――
押さえつけられる。
母は、声も出せずに震えている。
「放して!!私は……!」
「元、だろ」
冷たく遮られる。
「今はただの――」
言葉は、最後まで言わない。
だが、十分だった。
「……っ」
そのまま――
三人は連れて行かれた。
抗うこともできずに。
⸻
南部。
乾いた大地。
黒い煙。
重く沈む空気。
そこは――
地下採掘場。
「ここで働いてもらう」
男が言う。
「……嫌よ……こんなところ……」
足が震えるイザベラ。
「……帰る……帰るわ……!」
だが――
背中を押される。
「戻る場所はねぇよ」
冷たい声。
「働け。生きたければな」
「……っ」
言葉を失う。
周囲には――
同じような境遇の者たち。
疲れ切った顔。
無言で作業を続ける人影。
逃げ場は、ない。
「……いや……いやよっ……」
崩れ落ちるイザベラ。
だが――
誰も助けない。
「……っ」
セドリックも、歯を食いしばる。
何もできない。
すべてを失った男の顔。
母は、ただ泣くだけ。
⸻
最北の砦。
静かな夕方。
カイゼルは、執務室で報告書を閉じる。
「……終わりましたか」
執事が静かに問う。
「ああ」
短い返事。
「……南に回した」
それだけ。
それ以上は語らない。
「……左様でございますか」
執事も、それ以上は聞かない。
すべて、理解している。
「……」
カイゼルは窓の外を見る。
穏やかな光。
静かな砦。
(……これでいい)
あれは――
必要な処理だ。
二度と。
近づけさせないために。
「……」
その時。
コンコン、とノック。
「入れ」
扉が開く。
そこにいるのは――
エアリス。
手には、小さな皿。
「……来たか」
声が、わずかに柔らぐ。
とことこと近づく。
机の上に、そっと置く。
『きょう ぷりん』
「……そうか」
わずかに、口元が緩む。
「食べるか」
こくり、と頷くエアリス。
隣に座る。
「……」
スプーンを口に運ぶ。
甘い味。
ほっとする空気。
「……うまい」
「……!」
嬉しそうに、目を細めるエアリス。
「……」
カイゼルは、その様子を見る。
静かに。
(……守る)
改めて、思う。
この穏やかな時間を。
この存在を。
「……」
そっと、頭に手を置く。
優しく撫でる。
エアリスは、少しだけくすぐったそうにしながら。
それでも――
嬉しそうに、目を細めた。
⸻
光の中で生きる者と。
影の中へ落ちた者。
もう、交わることはない。
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