空飛ぶ大どろぼう

八神真哉

文字の大きさ
30 / 33

第28話 大どろぼうは、あきらめない

しおりを挟む

ほかに、だれがいるというのだ。
しかも、最後のたのみのつなだったというのに。

それにしても、どうやって忍びこんだのだろう。
鬼山は、翔太の疑問を見すかしたように笑みをうかべる。
「やつが入りやすいように、3階の広間の窓を開けておいてやったんだ。入ってきたら、センサーが働いて、そこに閉じこめられるという仕かけでな」

鬼山は、翔太の頭に猟銃をぐいぐい押しつける。
「やつには、すべての罪を背負ってもら――」
その言葉が終るより早く、広間のあるあたりから、破壊音が聞こえてきた。

2度、そして3度、いやもっとだ。
何度も何かをたたきつける音がした。

3階の廊下から鼻の下にひげをたくわえた背の高い男が現れ、踊り場に立った。
昨夜と同じ、黒メガネ、黒マント、黒いシルクハットの黒づくめ。
手には、ステッキの代わりに、折れかけたゴルフクラブをにぎって。

あの広間にあったクラブを使って、ドアにあなを開けたのだろう。
何本もぎせいにして。

顔色を変えた鬼山は、おまえはじゃまだとばかりに翔太の頭を猟銃でついてきた。
翔太はバランスをくずし、階段を転がり落ちる。
3階から2階との間の踊り場に。さらに2階の間の踊り場まで。
体が軽いためだろう、バウンドするように転がった。

「子どもから目を離すな!」
大どろぼうに向き直った鬼山が、田抜に声だけで指図する。

だが、田抜は、それを実行できなかった。
とつぜん、顔をゆがめて悲鳴をあげる。
ペケが、その足にかみついていた。

今度は、美月の反応もすばやかった。
田抜の手にかみついてナイフをうばうと、翔太に向けてペケを救いあげるように放ってくる。

バランスをくずした田抜は足をふみはずし、音を立てて転がり落ちた。
今度こそ立ちあがれないだろう。

翔太は、受け取ったペケの口をふさぐ。
鬼山に目をやると、翔太に背を向け、空飛ぶ大泥棒に銃口を向けていた。

猟銃を向けられた大泥棒の左手には、白い紙がにぎられている。
あの部屋には金庫もあった。
鬼山と田抜、木津根がかわした念書を、手に入れたのだろうか?

だが、鬼山は鼻で笑う。
「それを見せれば、わしがなにか口走るとでも思ったのか? そもそも、あの部屋の金庫に念書は入っておらん――撃たれたくなかったら、その帽子とメガネを――」

鬼山は、そのセリフを言い終えることができなかった。
正確には、悲鳴に変わったというべきだろう。
翔太が投げつけたペケが背中にはりついたのだ。

ペケはこれまでの仕返しとばかりに、情け容赦なく首すじに、そして耳にかみつく。
鬼山は、猟銃を取り落とし、その場に転がった。

大泥棒は、鬼山のもとにとびおりると、折れかけたゴルフクラブで鬼山の足をたたき、動きを止める。

再び、かみつこうとするペケをなだめ、猟銃を手にすると、なれた手つきで弾を取り出し、ポケットに入れた。
猟銃はホールに投げ捨て、耳から血を流し、うめき声をあげる鬼山の体をさぐる。
見ると、手袋をしている。指紋を残さないためだろう。

ふり向くと、「間に合ったようだな」と声をかけてきた。口元が笑っている。
そして、聞き覚えのある低音で、つけ加える。
「わたしが囮になる――君たちは3階の広間のベランダから逃げろ。城山をこえれば安全だ」

「でも、窓やドアにはロックがかかっていて……」
言い終える前に、大どろぼうはマントをひるがえし、ふわりとホールに向かってとびおりた。その手に、ゴルフクラブをにぎったまま。

翔太の推理は、間違っていなかった。
背が高く、オーデコロンをふきつけたぐらいでは消えないタバコのにおい。
警察の裏をかくことができるのも当然だった。

――考えこんでいる時間はない。リモコンが先だ。
たおれた鬼山に駆け寄るが、まわりには見当たらない。
ポケットを探ろうと手をのばす。

「くそっ!」
翔太をふりはらい、鬼山が、立ちあがる。あやうく、はね飛ばされるところだった。
ゴルフクラブで殴りつけてやりたかったが、大泥棒が持って行ってしまった。

軽い体では勝ち目はうすい。銃や凶器を持ち出されてもやっかいだ。
リモコンなしで、脱出なんて無理に決まっている。大泥棒についていこう。
翔太は、鬼山にほえかかるペケをだきあげると、手すりを乗りこえ、美月のいる1階と2階の間の踊り場に着地する。

美月の手を取り、大泥棒のいるホールにとびおりる。
ペケを美月にあずけたとたん、上から声がふってくる。
「逃げられんぞ! 窓という窓、ドアというドアにカギがかかっているんだ!」

大泥棒は、その声に反応し、3階の鬼山をあおぎ見る。
そして、にやりと笑い、左手をあげる。

それを見た鬼山は、あわててポケットをさぐる。
「――きさま」

玄関のドアが、音を立てて開いた。
霧がホールに流れこんでくる。
続いて家中の窓とドアが、音を立てながら次々と開いていく。

大泥棒の手には、リモコンがにぎられていた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)

サッカーの神さま

八神真哉
児童書・童話
ぼくのへまで試合に負けた。サッカーをやめようと決心したぼくの前に現れたのは……

少年騎士

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

「いっすん坊」てなんなんだ

こいちろう
児童書・童話
 ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。  自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・           

図書室はアヤカシ討伐司令室! 〜黒鎌鼬の呪唄〜

yolu
児童書・童話
凌(りょう)が住む帝天(だいてん)町には、古くからの言い伝えがある。 『黄昏刻のつむじ風に巻かれると呪われる』──── 小学6年の凌にとって、中学2年の兄・新(あらた)はかっこいいヒーロー。 凌は霊感が強いことで、幽霊がはっきり見えてしまう。 そのたびに涙が滲んで足がすくむのに、兄は勇敢に守ってくれるからだ。 そんな兄と野球観戦した帰り道、噂のつむじ風が2人を覆う。 ただの噂と思っていたのに、風は兄の右足に黒い手となって絡みついた。 言い伝えを調べると、それは1週間後に死ぬ呪い── 凌は兄を救うべく、図書室の司書の先生から教わったおまじないで、鬼を召喚! 見た目は同い年の少年だが、年齢は自称170歳だという。 彼とのちぐはぐな学校生活を送りながら、呪いの正体を調べていると、同じクラスの蜜花(みつか)の姉・百合花(ゆりか)にも呪いにかかり…… 凌と、鬼の冴鬼、そして密花の、年齢差158歳の3人で呪いに立ち向かう──!

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

【奨励賞】おとぎの店の白雪姫

ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】 母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。 ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし! そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。 小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり! 他のサイトにも掲載しています。 表紙イラストは今市阿寒様です。 絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。

処理中です...