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婚約破棄と追放~レティシア目線~
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「聖女レティシア・エルメロワ。貴様との婚約は、今この場をもって破棄する!」
王宮の大広間に響いた、王太子ラゼル様の宣言は、予想していた通りの台詞だった。
深海のような美しい蒼い瞳は、今、燃えるような怒りに揺れている。
普段は整った金色の髪が、激しい感情のせいかわずかに乱れ、彼の額に影を落としていた。
その鋭い視線は、私を突き刺すように向けられ、まるで私がこの世の全ての罪を背負った存在であるかのように映し出していた。
私を中心に円を描くように集まった廷臣たちは、皆、面白半分に私を眺めている。
そのどれもが、義妹、アリシアの口車に乗った哀れな傀儡たちに過ぎないことを、
私は知っている。
「理由を、お聞かせいただけますか?」
感情を込めずに、問いかける。
怒る価値もない。
私がどれだけ丁寧に真実を訴えたところで、ここでは
“最初から私の嘘が真実と定められている”
のだら。
「貴様は冷酷だ。病に苦しむ民を見捨て、神託も得られない。そのうえ、禁忌とされている黒魔術に手を染めた証拠さえある!!もはや聖女とは言えまい!!」
その“筋書き”も、彼女が用意したのだ。
神託を受けた内容は、一言一句違わず神殿へ報告する義務がある。
ラゼル様が言う、病に苦しむ民。
私はその信託を鮮明に受けた。
北の街に疫病が蔓延する、
と。
つまり、私が受けた神託をアリシアに横流し、
私が得た神託ではなく、
アリシアが得た神託として、
記述された。
そうして、私が向かうより先にアリシアと神官達を向かわせた、民を救済したのだ。
要は、神殿もアリシア側についているのだ。
「レティシアは動かなかった」
「レティシアには神託が得れない」
という記録を残す。
そうして“無能な聖女”という像を作り上げた。
ラゼル様は、何の疑いもなくそれを信じた。
その方が都合がいい。
けれど、
神託が得られない聖女、
だけでは決定的に私を貶める事は出来ない。
だかこそ、追い打ちをかけるように私の部屋から禁書が見つかった。
“黒魔術に手を染めていた”
という告発。
当然、捏造だった。証拠も笑えるほどお粗末なものだった。
だが、ラゼル様の命令一つで、それは“真実”になった。
何故なら、アリシアを選びたかった彼にとって、私はただの障害でしか無かった。
ラゼルがアリシアを選んだ理由は、単純だ。
私は彼にとって、口うるさい婚約者、だった。
聖女として神託、を受けるがゆえに、彼の誤った政治政策を幾度も正すことの出来る、煩わしい婚約者だった。
私は
ラゼル様に、
いいや、
国に、
“口出しする聖女”
だった。
それに比べてアリシアは、
“笑って従う可愛らしい聖女”だった。
神の声が聞こえなくとも、聞こえたふりをすればいい。
矜恃の高い男にとって、見ていて滑稽な程に、馬鹿な女が好みだったのだ。
「成程。私はもう神託を得られず、アリシアが得た。つまり、本物の聖女はアリシアということでございますね?」
私がその名を呼ぶと、視線は一斉に彼女へと向かう。
桃色の髪、桃色の瞳が揺れ、満足気に笑う義妹アリシア。血は繋がっていないが、十年にわたって“私を姉と慕っていたふり”を演じてきた子。
だが、この茶番に付き合うのもここまででいい。
「ですが、覚えておいてください。神は、真実を見ています」
大広間に響いたその言葉に、アリシアは悲劇のヒロインさながらに動き出す。
桃色の髪が柔らかな光を受けてきらめき、肩に流れるカールがそっと揺れる。
大きな桃色の瞳はガラス細工のように透明で、涙が溢れるたびその輝きを増す。
「そうよ、お義姉様。神は・・・神は見ています・・・」
彼女の声は震え、言葉を詰まらせながら絞り出す。
「お義姉様の心が淀み、黒魔術に手を染めてしまったことを・・・とても、悲しんでいます・・・」
アリシアは胸に手を当て、小さな身体を震わせる。
その華奢な体がふらりと揺れると、桃色のドレスの裾が優雅に揺れ、まるで舞台の上で舞う花びらのようだった。
廷臣たちの視線は一瞬で彼女に奪われ、感嘆と同情の声が広がる。
「アリシア!」
ラゼル様がすかさず彼女を抱き寄せる。
その腕の中でアリシアはさらに震え、桃色の髪が彼の肩に触れるたびに、無垢さが強調されるようだった。
「大丈夫だ、アリシア。もうこれ以上、彼女の言葉に傷つけられることはない」
ラゼル様の声は騎士のように優しく、私を断罪するように続けた。
「レティシア、貴様の罪は重い! 黒魔術に手を染め、民を裏切り、神の意思を汚した! もはや貴様に聖女の資格はない!」
怒声が広間に響き、廷臣たちの冷たい視線が再び私へと戻る。
だが、私の視線はアリシアに注がれたままだった。
「レティシアお義姉様、どうか・・・どうか改心してください!」
アリシアが涙声で訴える。彼女はラゼル様の腕から少し身を起こし、桃色の瞳を私に向けた。
その瞳には、悲しみと慈愛を装った光が宿っている。
彼女は一歩踏み出し、まるで私を救おうとする聖女の姿を完璧に演じた。
「神はまだ、お義姉様を許してくださるはずです・・・心から悔い改めれば・・・!」
廷臣たちの何人かが彼女の“慈悲深さ”に涙ぐみ、感嘆の声を漏らす。
私は高笑いし、拍手喝采したいほどだった。
アリシアの涙もその言葉も、すべては計算づくの演技。
彼女の望みは、ただ、自分が清純で高潔な聖女として輝くために、舞台装置として私を貶めること。
ラゼル様もまた、その操り人形に過ぎない。
「改心、ですか」
私は静かに、冷た声で言い放つ。
「アリシア、あなたの言う『神の意思』とは、ずいぶんと都合の良いものですね。あなたが望む真実だけを映し出す、まるで鏡のようです」
一瞬、アリシアの目が鋭く光ったように見えたが、すぐに悲しげな表情に戻る。
彼女はラゼル様の腕の中で小さく震えながら、
「お義姉様・・・どうしてそんなことを・・・」
と囁く。
ラゼル様が再び声を荒げる。
「レティシア! まだ言い訳をする気か! アリシアの純粋な心を傷つけるその態度は、まさに黒魔術に染まった証だ!」
私は軽く溜息をつき、ラゼルを見据えた。
この男の愚かさも、アリシアの狡猾さも、すべてが滑稽でしかない。
「ラゼル様、アリシア。どうぞご自由に聖女の座を謳歌してください。ただし・・・」
一歩踏み出し、廷臣たちのざわめきを無視しながら続きを告げる。
「神の目は、決して偽りを許しません。真実は、いずれ必ず明らかになります」
その言葉に、アリシアの顔が一瞬だけ歪んだ。
しかし彼女はすぐに笑みを取り戻し、ラゼル様にすがりつく。
「ラゼル様・・・私は、ただお義姉様が救われることを願っているだけなのに・・・」
私はその場にもう居場所はないと悟る。
この茶番はここで終わりだ。
「失礼致します」
一礼もせず、背を向ける。
大広間は、アリシアの叫びとラゼル様の宣告に満ちていた。
「二度と私とアリシアの前に姿を見せるな!!」
「お義姉様、お願い・・・今ならまだ許してもらえるわ!!」
「いいや、そんなことは許されない!!」
「お義姉様!!」
愛らしい声が震えながらも、必死に私を呼び止める。
「神は・・・神はまだお義姉様を愛しているわ! 悔い改めて、戻ってきて・・・!」
「いいや、そんなことは許されない!」
ラゼル様が声を張り上げ、アリシアを遮る。
「レティシア、貴様の罪は永遠に許されん! この王都から追放だ!!」
アリシアの最後の叫びが、大広間に舞台の幕のように響き渡る。
私は一切振り返ることなく歩き出す。
神は見ている。
そして、真実は必ず私の側にある。
怒りを燃やす価値もない。
私が下すのは、感情的な報復ではない――
“結果”だけが、裁きとなるのだ。
王宮の大広間に響いた、王太子ラゼル様の宣言は、予想していた通りの台詞だった。
深海のような美しい蒼い瞳は、今、燃えるような怒りに揺れている。
普段は整った金色の髪が、激しい感情のせいかわずかに乱れ、彼の額に影を落としていた。
その鋭い視線は、私を突き刺すように向けられ、まるで私がこの世の全ての罪を背負った存在であるかのように映し出していた。
私を中心に円を描くように集まった廷臣たちは、皆、面白半分に私を眺めている。
そのどれもが、義妹、アリシアの口車に乗った哀れな傀儡たちに過ぎないことを、
私は知っている。
「理由を、お聞かせいただけますか?」
感情を込めずに、問いかける。
怒る価値もない。
私がどれだけ丁寧に真実を訴えたところで、ここでは
“最初から私の嘘が真実と定められている”
のだら。
「貴様は冷酷だ。病に苦しむ民を見捨て、神託も得られない。そのうえ、禁忌とされている黒魔術に手を染めた証拠さえある!!もはや聖女とは言えまい!!」
その“筋書き”も、彼女が用意したのだ。
神託を受けた内容は、一言一句違わず神殿へ報告する義務がある。
ラゼル様が言う、病に苦しむ民。
私はその信託を鮮明に受けた。
北の街に疫病が蔓延する、
と。
つまり、私が受けた神託をアリシアに横流し、
私が得た神託ではなく、
アリシアが得た神託として、
記述された。
そうして、私が向かうより先にアリシアと神官達を向かわせた、民を救済したのだ。
要は、神殿もアリシア側についているのだ。
「レティシアは動かなかった」
「レティシアには神託が得れない」
という記録を残す。
そうして“無能な聖女”という像を作り上げた。
ラゼル様は、何の疑いもなくそれを信じた。
その方が都合がいい。
けれど、
神託が得られない聖女、
だけでは決定的に私を貶める事は出来ない。
だかこそ、追い打ちをかけるように私の部屋から禁書が見つかった。
“黒魔術に手を染めていた”
という告発。
当然、捏造だった。証拠も笑えるほどお粗末なものだった。
だが、ラゼル様の命令一つで、それは“真実”になった。
何故なら、アリシアを選びたかった彼にとって、私はただの障害でしか無かった。
ラゼルがアリシアを選んだ理由は、単純だ。
私は彼にとって、口うるさい婚約者、だった。
聖女として神託、を受けるがゆえに、彼の誤った政治政策を幾度も正すことの出来る、煩わしい婚約者だった。
私は
ラゼル様に、
いいや、
国に、
“口出しする聖女”
だった。
それに比べてアリシアは、
“笑って従う可愛らしい聖女”だった。
神の声が聞こえなくとも、聞こえたふりをすればいい。
矜恃の高い男にとって、見ていて滑稽な程に、馬鹿な女が好みだったのだ。
「成程。私はもう神託を得られず、アリシアが得た。つまり、本物の聖女はアリシアということでございますね?」
私がその名を呼ぶと、視線は一斉に彼女へと向かう。
桃色の髪、桃色の瞳が揺れ、満足気に笑う義妹アリシア。血は繋がっていないが、十年にわたって“私を姉と慕っていたふり”を演じてきた子。
だが、この茶番に付き合うのもここまででいい。
「ですが、覚えておいてください。神は、真実を見ています」
大広間に響いたその言葉に、アリシアは悲劇のヒロインさながらに動き出す。
桃色の髪が柔らかな光を受けてきらめき、肩に流れるカールがそっと揺れる。
大きな桃色の瞳はガラス細工のように透明で、涙が溢れるたびその輝きを増す。
「そうよ、お義姉様。神は・・・神は見ています・・・」
彼女の声は震え、言葉を詰まらせながら絞り出す。
「お義姉様の心が淀み、黒魔術に手を染めてしまったことを・・・とても、悲しんでいます・・・」
アリシアは胸に手を当て、小さな身体を震わせる。
その華奢な体がふらりと揺れると、桃色のドレスの裾が優雅に揺れ、まるで舞台の上で舞う花びらのようだった。
廷臣たちの視線は一瞬で彼女に奪われ、感嘆と同情の声が広がる。
「アリシア!」
ラゼル様がすかさず彼女を抱き寄せる。
その腕の中でアリシアはさらに震え、桃色の髪が彼の肩に触れるたびに、無垢さが強調されるようだった。
「大丈夫だ、アリシア。もうこれ以上、彼女の言葉に傷つけられることはない」
ラゼル様の声は騎士のように優しく、私を断罪するように続けた。
「レティシア、貴様の罪は重い! 黒魔術に手を染め、民を裏切り、神の意思を汚した! もはや貴様に聖女の資格はない!」
怒声が広間に響き、廷臣たちの冷たい視線が再び私へと戻る。
だが、私の視線はアリシアに注がれたままだった。
「レティシアお義姉様、どうか・・・どうか改心してください!」
アリシアが涙声で訴える。彼女はラゼル様の腕から少し身を起こし、桃色の瞳を私に向けた。
その瞳には、悲しみと慈愛を装った光が宿っている。
彼女は一歩踏み出し、まるで私を救おうとする聖女の姿を完璧に演じた。
「神はまだ、お義姉様を許してくださるはずです・・・心から悔い改めれば・・・!」
廷臣たちの何人かが彼女の“慈悲深さ”に涙ぐみ、感嘆の声を漏らす。
私は高笑いし、拍手喝采したいほどだった。
アリシアの涙もその言葉も、すべては計算づくの演技。
彼女の望みは、ただ、自分が清純で高潔な聖女として輝くために、舞台装置として私を貶めること。
ラゼル様もまた、その操り人形に過ぎない。
「改心、ですか」
私は静かに、冷た声で言い放つ。
「アリシア、あなたの言う『神の意思』とは、ずいぶんと都合の良いものですね。あなたが望む真実だけを映し出す、まるで鏡のようです」
一瞬、アリシアの目が鋭く光ったように見えたが、すぐに悲しげな表情に戻る。
彼女はラゼル様の腕の中で小さく震えながら、
「お義姉様・・・どうしてそんなことを・・・」
と囁く。
ラゼル様が再び声を荒げる。
「レティシア! まだ言い訳をする気か! アリシアの純粋な心を傷つけるその態度は、まさに黒魔術に染まった証だ!」
私は軽く溜息をつき、ラゼルを見据えた。
この男の愚かさも、アリシアの狡猾さも、すべてが滑稽でしかない。
「ラゼル様、アリシア。どうぞご自由に聖女の座を謳歌してください。ただし・・・」
一歩踏み出し、廷臣たちのざわめきを無視しながら続きを告げる。
「神の目は、決して偽りを許しません。真実は、いずれ必ず明らかになります」
その言葉に、アリシアの顔が一瞬だけ歪んだ。
しかし彼女はすぐに笑みを取り戻し、ラゼル様にすがりつく。
「ラゼル様・・・私は、ただお義姉様が救われることを願っているだけなのに・・・」
私はその場にもう居場所はないと悟る。
この茶番はここで終わりだ。
「失礼致します」
一礼もせず、背を向ける。
大広間は、アリシアの叫びとラゼル様の宣告に満ちていた。
「二度と私とアリシアの前に姿を見せるな!!」
「お義姉様、お願い・・・今ならまだ許してもらえるわ!!」
「いいや、そんなことは許されない!!」
「お義姉様!!」
愛らしい声が震えながらも、必死に私を呼び止める。
「神は・・・神はまだお義姉様を愛しているわ! 悔い改めて、戻ってきて・・・!」
「いいや、そんなことは許されない!」
ラゼル様が声を張り上げ、アリシアを遮る。
「レティシア、貴様の罪は永遠に許されん! この王都から追放だ!!」
アリシアの最後の叫びが、大広間に舞台の幕のように響き渡る。
私は一切振り返ることなく歩き出す。
神は見ている。
そして、真実は必ず私の側にある。
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