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「そろそろ・・・お願い致します」
申し訳なさそうに、私を呼びに来た王宮召使いに、私は微笑んだ。
「分かりました。では、直ぐに参ります」
私の笑みを見て安堵したように頷くと部屋を出ていった。
「その程度だ」
フィーの苛立った言葉ながらも、私を愛おしむような顔で手を差し出した。
「行こう、スティング」
「・・・うん」
カレンの冷静な言葉に頷きフィーの手に手を乗せ立ち上がると、ぎゅっとフィーが手を強く握った。
「俺は、俺の本心で動く」
私の耳元で囁く言葉が、とても心を騒がした。
扉が開かれ、私達はホールへと向かった。
今日は殿下の誕生日パーティーだ。あれだけ約束したのに、結局迎えには来なかった。
いつもなら、クルリと私だけが控え室で待つのだが、フィーとカレンが一緒にいる、と頑として譲らず側にいてくれた。
2人とも本当に迎えに来るのか確認したかったのだろうな。
迎えにこなかった殿下に対して、残念な気持ちはあるものの、悲しい気持ちはなかった。
私達がホールへ入ると、水を打ったように静寂になり、私達を驚いた顔で見た。
誰もが、陛下さえも
何故殿下と一緒では無いのか、
何故帝国の2人と入ってきたのか、
そんな顔だった。
ただ1人、王妃派様だけが、高らかな笑いが聞こえそうな高慢な笑いが見え、不思議な感情が私を襲った。
「こちらでございます」
召使いが、奥にいるお父様や他の公爵様達の場所へと案内してくれた。
不思議だった。
美しいはずの伴奏が異様な空気を産むかのように、ホールをたゆみ澱みを濃くしていく。
その中を私は悠然と歩く事に、何の躊躇もなかった。
逆に、何か目覚めるような高揚感があった。
「・・・やはり迎えに来なかったのか」
お父様の愕然とした顔に何も答えず小さく頷いた。
「帝国皇子フィー様と帝国皇女カレン様は、こちらにお越しください」
「ここでいい」
「私も」
2人の即答と、睨みに召使いは困惑しながらも、去っていった。
「いいの?本当なら陛下の側でたつべきじゃない?」
「いいのよ」
「興味無い」
「自由ね、2人とも」
「子供だからね」
「おふさげは必要だろ?」
ぷっと笑ってしまった。
そんな他愛のない話をしていると、ファンファーレがホールに響き渡り、扉が厳かに開いた。
演奏が一層大きくなり、入場してくる2人に大きな歓声と拍手が上がった。
殿下とレインだ。
満面の笑みで歩く度に大きく手を振り、自分達の幸福をお裾分けするかのように、ゆっくりゆっくりと陛下の前に歩いて行く。
ふわふわと揺れるレインの水色のドレスが、殿下の藍色の正装とよく似合っていた。
いつものように、色を合わせて来たわね。
たまに2人は見つめ合い、微笑み合い、また手を振り、優雅に陛下の前で頭を下げた。
遠い世界のように、いや、小説のワンシーンかのように、私には現実味がなかった。
ただ、もう疲れた、と言う言葉が浮かび、気付くと挨拶も終わり、ダンスの曲が流れ出していた。
「スティング」
手を差し出しながら殿下が、私の名を呼んでいる。
一緒に登場のするのは、レイン。
ファーストダンスは、私、か。
なるほど、そう言うふうに決めたのね。
「スティング」
優しく私の名を呼び、手を差し出すフィーに、微笑み手を乗せた。
「スティング!?」
もう、驚きの顔は見飽きたわ、殿下。
約束を破ったのはあなたよ、殿下。
私は、
私の、
思うままに動くわ。
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