何も言わずメイドとして働いてこい!とポイされたら、成り上がり令嬢になりました

さち姫

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第7話シャーサー目線

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行ったわね。お父様ったらいい考えを思いついたわね。
ベランダから、屋敷で最もみすぼらしい馬車が門を出ていくのを見送りながら、息を整えた。
思い出すだけで、また笑いが出る。
お父様がシャーリーの髪の毛を引っ張って部屋に入ってきたときの、シャーリーの顔ったらなかったわ。ひきつらせ、オドオドと小さくなり、いつに増してバカに見えた。
ひっ、ですって。
もう、可笑しくて可笑しくて、なんてみっともない声出してくれたの、と本気で大笑いしそうなのを我慢した。
見てるだけでイライラするのに、今日は楽しかったわ。
お父様ったら、面白いこと考えたわね。
お父様が朝帰ってきたかと思ったら、急にシャーリーの髪を掴んで、
何も言わず、メイドとして働いてこい、
だなんて、もう可笑しくって堪らないわ。
有り得ないわ。
高貴なるサヴォワ伯爵家よ、この家は。
それを、メイドですって。
そんなの、絵空事ぐらいしか思いつかない奇想天外の、話しだわ。
あのクズ女が引きずられていく姿、何度思い出しても笑えるわ。
本当に惨めで、哀れで、滑稽で。
あんな妹、最初からいなければ良かったのに。
「久しぶりに大笑いしたわ、お父様」
楽しくて足取り軽く部屋に戻ると、お父様とお義母様も目を細めソファに座っていたから、私もお義母様の横に座った。
「そうだろ?酔っていても冷静に考えたんだ」
「あなた、少し詳しく話して下さらない?」
身を乗り出し、お義母様が嬉々としてことの成り行きの説明を求めた。
「わかった」
得意げに言うお父様に、私達は食いつくように聞き入った。
「先日、サーヴァント公爵様に特別に呼ばれた夜会があっただろ?」
私も御義母様も頷いた。
「ええ、お父様。サーヴァント公爵様に呼ばれるなんてほんのひと握り。きっと、お父様の噂を聞いたのよ。それでこれから仲良くなった方がいいと思ってくれたのね」
「ああ、だから参加者は優れた方ばかりだった。王宮の役付の方ばかりで、今まで参加した夜会とは全く違う品格があった!」
うっとりと思い出しながら説明するお父様に、胸が踊った。
私達の家は、これから更に上り詰めるのよ。
シャーリーなんかいなくても、いいえ、いない方が、ずっとスムーズだわ。
「凄いですわ、あなた。サーヴァント公爵様と言ったら、今の宰相様!!もしかしたら、王宮の役付きも近いかもしれないわね!!」
「はっはは。だろうな。あのクズ娘もいなくなった今、私の足を引っ張る心配はない。それも、クズ娘を追いやったのが、ウインザー子爵と言う聞いたことも無い老いぼれに押し付けてやった。皆が気持ちよく飲んでいるのに空気も読めずに、席を立とうとする、愚かな男だ。恐らく、運良く呼ばれたんだろうな。私がわざとトランプで負けてやって、金の代わりに押し付けて来たんだ」
本当に痛快だわ。
あのクズ女を、名も知らない老人の屋敷に放り込んでやったなんて。
どんな目に遭っているのかしら。
きっと、泣いて、怯えて、惨めに過ごしているのよ。
想像するだけで、胸がすっきりするわ。
「凄いわ、お父様!何て頭がいいの。これで、邪魔者がいなくなってせいせいするわ。あんなノロマな妹などいらないもの。でも、老人だからと言っても男性よ。何かあったらどうするの?」
もし、あのクズ女が何か酷い目に遭ったとしても、私は何も感じないわ。
むしろ、自業自得よ。
あんな暗くて、鈍くて、気持ち悪い妹、最初からいなければ良かったのだから。
「その時は、法外な慰謝料をふっかければいい」
「まあ!!あなた頭いいわ」
確かにその通りだわ。こちら的にはなんの不利益もないわ。
それどころか、金まで手に入るかもしれないなんて。
お父様、本当に賢いわ。
「シャーサー、長女のお前がいれば、婿養子を貰って安泰だ」
「ふふっ。勿論よ。お義母様が跡取りを産んでくれたらそれはそれでいいわ。女の子なら、素敵な妹に育てればいいだけ。ね、お義母様」
「そうね、そうね、その通りだわ」
頬を赤らめながらも、嬉しそうに微笑んだ。
お義母様も、私も、お父様も、皆幸せ。
シャーリーがいなくなって、本当に良かった。
「大丈夫、お父様、私は、ルーンと一緒になるわ」
「おお!!ルーンなら、問題ない。ヨークシャー伯爵家の次男で、あそこは今投資に成功し色んな事業を始めている」
ルーン。
ルーン・ヨークシャー。
幼なじみの一つ歳上の、甘い顔の優しい人だ。
いいえ、優しいだけじゃないわ。
ルーンは背が高くて、すらりとした体型をしている。
柔らかな栗色の髪は、少し長めで、いつも綺麗に整えられていて、風になびく様子が絵になる。
瞳は温かみのある琥珀色で、誰に対しても優しい眼差しを向ける。
その瞳に見つめられると、誰でも特別な存在だと錯覚してしまうのよ。
私も、最初はそうだったわ。
だけど、今はもう分かってる。あの眼差しは、私だけのものになるの。
整った顔立ちは、まるで彫刻のよう。
高い鼻筋に、優しく微笑む唇。
笑うと目尻が少し下がって、それがまた魅力的なの。
物腰は柔らかくて、誰にでも丁寧で、言葉遣いも上品。
まさに、理想の男性。
そして、私に相応しい。
私達は、お似合いなのよ。
金髪に青い瞳の私と、栗色の髪に琥珀色の瞳のルーン。
並んで歩けば、誰もが振り返るわ。
でも、ムカつく事に、あのクズ女を気にしているのは知っている。
いつもオドオドして、わざとルーンの気を引こうとしてるのも知っている。
黒髪に赤い瞳なんて、気味が悪いくせに。
暗くて、愛想もなくて、会話もまともにできないくせに。
なのに、ルーンは優しいからすぐに、心配そうに声をかけていた。
「シャーリー、大丈夫?」
「何か困ったことがあったら、言ってね」
「無理しなくていいんだよ」
はあ!?
演技がわかんないの!!
あのクズ女、わざとやってるのよ!
いつもそう思って、少し自意識過剰で、被害妄想が激しいのよ、と教えてあげてるのに、ルーンは本当に優しいから、そんな事ないよ、と言って、クズ女の側にいようとしてた。
もう、本当にイライラするわ。
あんな女のどこがいいのよ。
暗くて、つまらなくて、何の魅力もないくせに。
思い出すだけで腹が立つわ。
ルーンがあのクズ女と話している姿。
優しく微笑みかけている姿。
心配そうに眉を寄せている姿。
全部、全部、私に向けられるべきものなのに。
何度、あのクズ女がいなくなればいいのに、と思ったか。
何度、あの女が消えてくれればと願ったか。
でもその邪魔者がいなくなった。
本当にせいせいするわ。
いなくなれば、どれだけ私がルーンに相応しいかきっと分かるわ。
あのクズ女なんかと違って、私は美しくて、社交的で、会話も弾む。
ルーンと並んで歩くのに相応しいのは、私なのよ。
「ノロマな妹がいなくなったんだもの、これからルーンと私との時間が増えるわ」
想像するだけで、胸が高鳴る。
ルーンの隣に、私だけがいる。
あのクズ女の影なんて、どこにもない。
ルーンの優しい眼差しも、微笑みも、全部私だけのもの。
もう、あの女のことなんて、忘れるわ。
いいえ、最初からいなかったことにするわ。
ルーンも、きっとすぐに忘れる。
そして、私だけを見るようになる。
「なんだ、やはりあの娘は疫病神だったんだな。これから、我が家は安泰だな」
「そうね、お父様」
「本当に、あなた」
楽しい家族の笑いが部屋中を満たした。
幸せな気分で、私は窓の外を見た。
青い空が広がっている。
雲一つない、美しい空。
これから、私の人生は薔薇色よ。
ルーンと結ばれて、サヴォワ伯爵家の栄光を守る。
お父様は王宮の役付きになって、私達の地位は更に上がる。
全てが、完璧。
あのクズ女がいなくなって、本当に良かった。
心の底から、そう思った。
笑いが止まらなくて、私は手で口を押さえた。
でも、笑いは溢れて止まらない。
お父様も、お義母様も、皆笑っている。
これが、私達の勝利よ。
シャーリー。
あなたは負けたの。
そして、私が勝ったのよ。
さようなら、クズ妹。
もう二度と、会うこともないでしょうね。
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