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第12話待ってました
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「待ってました!!」
調理場に行くと、そう言って待っていたのはさっきの男の人だけじゃなく、アンナともう一人男の人がいた。
つまり三人。
それも、ちゃんと材料が用意してあった。さっき私が何を使ったのか見ていたからだろうが、用意周到さに少し驚いた。
調理台の上に、綺麗に並べられた食材。
豚バラ、人参、キャベツなどなど、それと一緒に調味料。
全部、さっき使ったものだ。
「早く、さっきの作って貰えますか!俺、見張りの交代の時間になるんです!!」
必死の顔で私の腕を引っ張って、調理台に立たされた。
三人のまるで犬の、まて、みたいな感じで私を見つめる目が、なんだか、
よし!
という気分にさせてくれて、急かされるとは違う、使命感のような気持ちでさっきのを作ってあげた。
火種が残っていたお陰で、さっきよりも早く出来た。
ジュウジュウと肉が焼ける音。
香ばしい匂いが、調理場に広がる。
三人の目が、さらにキラキラと輝いた。
「うまっ!!」
「美味しい!!」
「うわっ!!酒飲みてえ!!」
三人が目を見開き、口にした言葉に胸がドキドキした。
美味しい。
美味しい、と言ってくれた。
この言葉が、こんなに嬉しいなんて。
「お酒はダメですよ。見張りの交代をしないといけないでしょ」
「分かってるけどさあ、でも美味い!これ、エールと合う!!」
「だね!」
「おうよ!」
三人はとっても幸せそうに食べてくれた。
もぐもぐと口を動かして、目を細めて。
その顔が、本当に美味しそうで、嬉しくなる。
それは、嬉しいけど、もう少し静かに喋ってくれないと、こんな夜中なのに、奥から誰かやってこないか不安になる。
キョロキョロとなぜか私が見張りのように、入口を気にしてしまった。
廊下から、足音が聞こえないか。
誰か来ないか。
ハザードが来たら、どうしよう。
キャウリー様が来たら、どうしよう。
「私はもう終わりだけど、これなら、お酒持ってきたら良かったなあ」
ああ、失敗した!!とアンナの悔しそうな顔に、それも、どうかと思います。
「なあ、交代したヤツらにも食べさせてもらえないか?」
「でも。あまり食材使うと怒られるんじゃない?」
不安そうに聞くアンナに、
本当だ、食材を色々使ってもいいかまでは、キャウリー様に聞いていなかった、と思った。
言われてみれば、この食材も何日間かのメニューを決め全部計算して購入しているはず。朝食は下準備が終わっているから問題ないとしても、昼食や、夕食に何を使うのか知らない。
もしかしたら、この豚バラを使ってしまったから、足りなくなる可能性もある。
勝手な事をやってしまった。
だが、やってしまったのを後悔しても始まらない。
「キャウリー様に頼んでみます。もし、食材が足りないようであれば、街に買いに行きます」
もう、腹を括った。
自分が蒔いた種だ。
買った分のお金は、ここで、働いて返そう。どうせ、お父様が賭けで作った借金でここにいるんだ。増えたら増えたで、ここに長くお世話になれる。
そう思うと、いけないことだけど、楽しくなる気持ちが生まれる。
「・・・なんかそれも・・・。ねえ、皆で明日の朝キャウリー様にお願いしてみましょうよ」
「そうだな」
「皆、共犯者だしな」
いや、今は三人だよ。
このまま、三人だけで黙ってくれれば、事は大きくならない。
私が勝手に食材を使った、で済む。
私一人の責任で済む。
キャウリー様に謝って、お金を払えば済む。
でも、他の人を呼ぼうとするから、大事になるんだよ。
関わる人が増えれば増えるほど、騒ぎは大きくなる。
そうしたら、ハザードにも知られる。
料理長にも知られる。
もしかしたら、明日の食事に支障が出るかもしれない。
そんな大事にしないで。
お願いだから。
「そうと決まれば、声掛けてくるね。シャーリー様、作っててね。さあ、行きましょう」
三人は満足そうな顔で、元気に去っていった。
あああ……。
私の心の声は、全く届いていない。
うん。三人とも、全く、小さく収める気は無いね。というか、ここのメイドとか、召使いとか、とても仲良いんだ。
自分達だけの秘密、ではなく、皆と共有する、というのが当たり前なんだ。
サヴォワ家では、違った。
皆、疑心暗鬼だった。
誰が得をするか。
誰が損をするか。
いつもそんな空気が流れていた。
でも、ここは違う。
アンナの、私の担当になって嬉しかった、と満面の笑みで言ってくれた。
皆がチョー羨ましがってた、とも言ってくれた。
そんな風に言えるのは、この屋敷で働く皆と会話だけでなく、気持ちを共有出来てるからだ。
何だか、妙な気分だった。
全てがサヴォワ家とは、違う。
でも、人間、だ。
同じ人間なのに。
何だろう。
何か、何かが違う。
その何かがもどかしいくらいに、わからなかった。
少しして、またまた、お腹を空かせた犬がお預けしてるような顔の三人とアンナがやってきた。
皆、期待に満ちた目で私を見ている。
どうぞ、と出してあげると、さっきと同じように、美味しい!!と何度も言ってくれて、とても嬉しかった。
「マジで美味い!!」
「これ、何て料理?」
「シャーリー様が作ったんですよ!」
アンナが、得意げに説明している。
その顔が、まるで自分が作ったかのように誇らしげ。
「すげえ!!」
「伯爵令嬢なのに、料理できるんだ!」
「しかも、こんなに美味いなんて!」
皆が、口々に言ってくれる。
その言葉が、一つ一つ、胸に響く。
美味しい。
美味しい。
美味しい。
何度も、何度も、聞こえてくる。
そう言えば、と思う。
お父様も、お姉様も、御義母様も、一度も美味しい、と言ってくれなかった。
当然のように、食べ、当然のように文句を言っていた。
冷めてる、というのが一番多い愚痴だった。
だって、出来ました、と声をかけても無視して、喋っていて、終わった頃には冷めている。
料理というのは出来たての温かいうちに食べないと美味しくない。
それを何度も説明しているのに、お前の作り方が悪いからだろ、としか言われなかった。
とても悲しい気持ちになった。
自分が下手なんだ、と思った。
自分が悪いんだ、と思った。
でも、ここの皆は、少し冷めても美味しいと言ってくれた。
違う。
私の料理は、下手じゃなかったんだ。
私の料理は、悪くなかったんだ。
涙が出そうになったのを、我慢した。
それは、悲しい気持ちの涙じゃなくて、何だろう、何なのか分からないけれど、嫌じゃなかった。
胸がいっぱいになる。
温かいものが、込み上げてくる。
目頭が熱くなる。
でも、泣いちゃいけない。
泣いたら、きっと皆が心配する。
泣いたら、きっと変に思われる。
だから、笑顔を作った。
「美味しいって言ってくれて、ありがとうございます」
そう言うと、皆が笑った。
「こっちこそ、ありがとう!」
「また作って!」
「絶対また作って!」
口々に言ってくれる。
また、作って。
また、食べたい。
美味しかった。
その言葉が、どれほど嬉しいか。
その言葉が、どれほど私を満たしてくれるか。
サヴォワ家では、一度も言われなかった言葉。
ここでは、こんなに簡単に、何度も聞ける。
同じ料理を作っているのに。
同じように作っているのに。
こんなに違う。
何が違うんだろう。
私が変わったのだろうか。
いいえ、私は変わっていない。
じゃあ、何が違うんだろう。
周りが、違うのか。
場所が、違うのか。
あっちと、こっち。
アンナの言葉が、また頭に浮かんだ。
あっちは、あっち。
こっちは、こっち。
本当に、そうなのかもしれない。
厨房の明かりに照らされた皆の顔が、幸せそうで。
その顔を見ていると、私も幸せな気持ちになった。
これが、認められるということなのかもしれない。
これが、必要とされるということなのかもしれない。
初めて、そう思った。
調理場に行くと、そう言って待っていたのはさっきの男の人だけじゃなく、アンナともう一人男の人がいた。
つまり三人。
それも、ちゃんと材料が用意してあった。さっき私が何を使ったのか見ていたからだろうが、用意周到さに少し驚いた。
調理台の上に、綺麗に並べられた食材。
豚バラ、人参、キャベツなどなど、それと一緒に調味料。
全部、さっき使ったものだ。
「早く、さっきの作って貰えますか!俺、見張りの交代の時間になるんです!!」
必死の顔で私の腕を引っ張って、調理台に立たされた。
三人のまるで犬の、まて、みたいな感じで私を見つめる目が、なんだか、
よし!
という気分にさせてくれて、急かされるとは違う、使命感のような気持ちでさっきのを作ってあげた。
火種が残っていたお陰で、さっきよりも早く出来た。
ジュウジュウと肉が焼ける音。
香ばしい匂いが、調理場に広がる。
三人の目が、さらにキラキラと輝いた。
「うまっ!!」
「美味しい!!」
「うわっ!!酒飲みてえ!!」
三人が目を見開き、口にした言葉に胸がドキドキした。
美味しい。
美味しい、と言ってくれた。
この言葉が、こんなに嬉しいなんて。
「お酒はダメですよ。見張りの交代をしないといけないでしょ」
「分かってるけどさあ、でも美味い!これ、エールと合う!!」
「だね!」
「おうよ!」
三人はとっても幸せそうに食べてくれた。
もぐもぐと口を動かして、目を細めて。
その顔が、本当に美味しそうで、嬉しくなる。
それは、嬉しいけど、もう少し静かに喋ってくれないと、こんな夜中なのに、奥から誰かやってこないか不安になる。
キョロキョロとなぜか私が見張りのように、入口を気にしてしまった。
廊下から、足音が聞こえないか。
誰か来ないか。
ハザードが来たら、どうしよう。
キャウリー様が来たら、どうしよう。
「私はもう終わりだけど、これなら、お酒持ってきたら良かったなあ」
ああ、失敗した!!とアンナの悔しそうな顔に、それも、どうかと思います。
「なあ、交代したヤツらにも食べさせてもらえないか?」
「でも。あまり食材使うと怒られるんじゃない?」
不安そうに聞くアンナに、
本当だ、食材を色々使ってもいいかまでは、キャウリー様に聞いていなかった、と思った。
言われてみれば、この食材も何日間かのメニューを決め全部計算して購入しているはず。朝食は下準備が終わっているから問題ないとしても、昼食や、夕食に何を使うのか知らない。
もしかしたら、この豚バラを使ってしまったから、足りなくなる可能性もある。
勝手な事をやってしまった。
だが、やってしまったのを後悔しても始まらない。
「キャウリー様に頼んでみます。もし、食材が足りないようであれば、街に買いに行きます」
もう、腹を括った。
自分が蒔いた種だ。
買った分のお金は、ここで、働いて返そう。どうせ、お父様が賭けで作った借金でここにいるんだ。増えたら増えたで、ここに長くお世話になれる。
そう思うと、いけないことだけど、楽しくなる気持ちが生まれる。
「・・・なんかそれも・・・。ねえ、皆で明日の朝キャウリー様にお願いしてみましょうよ」
「そうだな」
「皆、共犯者だしな」
いや、今は三人だよ。
このまま、三人だけで黙ってくれれば、事は大きくならない。
私が勝手に食材を使った、で済む。
私一人の責任で済む。
キャウリー様に謝って、お金を払えば済む。
でも、他の人を呼ぼうとするから、大事になるんだよ。
関わる人が増えれば増えるほど、騒ぎは大きくなる。
そうしたら、ハザードにも知られる。
料理長にも知られる。
もしかしたら、明日の食事に支障が出るかもしれない。
そんな大事にしないで。
お願いだから。
「そうと決まれば、声掛けてくるね。シャーリー様、作っててね。さあ、行きましょう」
三人は満足そうな顔で、元気に去っていった。
あああ……。
私の心の声は、全く届いていない。
うん。三人とも、全く、小さく収める気は無いね。というか、ここのメイドとか、召使いとか、とても仲良いんだ。
自分達だけの秘密、ではなく、皆と共有する、というのが当たり前なんだ。
サヴォワ家では、違った。
皆、疑心暗鬼だった。
誰が得をするか。
誰が損をするか。
いつもそんな空気が流れていた。
でも、ここは違う。
アンナの、私の担当になって嬉しかった、と満面の笑みで言ってくれた。
皆がチョー羨ましがってた、とも言ってくれた。
そんな風に言えるのは、この屋敷で働く皆と会話だけでなく、気持ちを共有出来てるからだ。
何だか、妙な気分だった。
全てがサヴォワ家とは、違う。
でも、人間、だ。
同じ人間なのに。
何だろう。
何か、何かが違う。
その何かがもどかしいくらいに、わからなかった。
少しして、またまた、お腹を空かせた犬がお預けしてるような顔の三人とアンナがやってきた。
皆、期待に満ちた目で私を見ている。
どうぞ、と出してあげると、さっきと同じように、美味しい!!と何度も言ってくれて、とても嬉しかった。
「マジで美味い!!」
「これ、何て料理?」
「シャーリー様が作ったんですよ!」
アンナが、得意げに説明している。
その顔が、まるで自分が作ったかのように誇らしげ。
「すげえ!!」
「伯爵令嬢なのに、料理できるんだ!」
「しかも、こんなに美味いなんて!」
皆が、口々に言ってくれる。
その言葉が、一つ一つ、胸に響く。
美味しい。
美味しい。
美味しい。
何度も、何度も、聞こえてくる。
そう言えば、と思う。
お父様も、お姉様も、御義母様も、一度も美味しい、と言ってくれなかった。
当然のように、食べ、当然のように文句を言っていた。
冷めてる、というのが一番多い愚痴だった。
だって、出来ました、と声をかけても無視して、喋っていて、終わった頃には冷めている。
料理というのは出来たての温かいうちに食べないと美味しくない。
それを何度も説明しているのに、お前の作り方が悪いからだろ、としか言われなかった。
とても悲しい気持ちになった。
自分が下手なんだ、と思った。
自分が悪いんだ、と思った。
でも、ここの皆は、少し冷めても美味しいと言ってくれた。
違う。
私の料理は、下手じゃなかったんだ。
私の料理は、悪くなかったんだ。
涙が出そうになったのを、我慢した。
それは、悲しい気持ちの涙じゃなくて、何だろう、何なのか分からないけれど、嫌じゃなかった。
胸がいっぱいになる。
温かいものが、込み上げてくる。
目頭が熱くなる。
でも、泣いちゃいけない。
泣いたら、きっと皆が心配する。
泣いたら、きっと変に思われる。
だから、笑顔を作った。
「美味しいって言ってくれて、ありがとうございます」
そう言うと、皆が笑った。
「こっちこそ、ありがとう!」
「また作って!」
「絶対また作って!」
口々に言ってくれる。
また、作って。
また、食べたい。
美味しかった。
その言葉が、どれほど嬉しいか。
その言葉が、どれほど私を満たしてくれるか。
サヴォワ家では、一度も言われなかった言葉。
ここでは、こんなに簡単に、何度も聞ける。
同じ料理を作っているのに。
同じように作っているのに。
こんなに違う。
何が違うんだろう。
私が変わったのだろうか。
いいえ、私は変わっていない。
じゃあ、何が違うんだろう。
周りが、違うのか。
場所が、違うのか。
あっちと、こっち。
アンナの言葉が、また頭に浮かんだ。
あっちは、あっち。
こっちは、こっち。
本当に、そうなのかもしれない。
厨房の明かりに照らされた皆の顔が、幸せそうで。
その顔を見ていると、私も幸せな気持ちになった。
これが、認められるということなのかもしれない。
これが、必要とされるということなのかもしれない。
初めて、そう思った。
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