何も言わずメイドとして働いてこい!とポイされたら、成り上がり令嬢になりました

さち姫

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第14話私の仕事1

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「可愛いですね」
ノーセットの姿を見送り、今度は、クルミパンを取り、口に入れた。
美味しい!
香ばしいたっぷりのクルミが口で弾け、いい感じの塩加減のパンがあとからやってくる。
「そうか?私は子供がいないのでどう接していいのかまだ分からない。シャーリーが相手をしてくれて、実はほっとしている」
子供がいない?
では、ノーセットは誰の子供なの?
私が不思議そうな顔をしていたのを感じたらしく、キャウリー様は軽く笑いながら答えてくれた。
「説明不足だったな。私は結婚もしていないし、子もいない。だが、この家は護りたいのだ。その為、遠い親戚から養子として、ノーセットを迎え入れた」
そういう事か。だから、奥様がいないのだ。
貴族の中では、よくある事だ。
伴侶として婚儀を上げたものの、政略結婚が常の貴族。立場的には理解していても、身体は理解できない。つまり、夜の営みが上手くいかないのだ。その為、愛人の方が先に子供ができてお家騒動が勃発する。
そういうのを避ける為、初めから遠縁の血筋の者を養子として迎える。
勿論、子が出来ないという不運もあるが、大体において養子を迎えるのは、夫婦が不仲か、キャウリー様のように独り身の方だ。
そして、養子として迎え入れられる子どもは、絶対的に庶子、だ。
つまり、愛人との間に出来た、認知できない、行き場に困った子供だ。
だが、養子に迎え入れるには都合がいいのだ。
庶子だろうと、血筋はある。
奥様的には、下手に愛人の子供を連れて来られて揉めるよりも、判別のつかない幼子を育てる方が楽だし、楽しい。
まあ、どう育てるかは奥様の考え次第だが、ともかくキャウリー様はこの家を護りたいと切に願い、ノーセットを引き取ったのだ。
ノーセットの出生がどうであれ、ノーセットにとって当たりを引いたのは間違いない。優しいキャウリー様の養子になれたのだから。
「くっ」
急にキャウリー様が笑いだした。
「どうされました?」
「いや、シャーリーは無駄に生きてこなかったな、と感心しているのだ」
「無駄?」
「ああ。ノーセットが養子、だと聞いて瞬時に色々な事を考えたのだろう?つまり、言葉の意味を理解しようとしている。察しがいい。シャーリーの思う通りだ。ノーセットは、庶子だ。それも、当主が悪酔いしその勢いで、召使いを襲った時に出来た子供だ」
「最低です!!」
思わず声を荒げてしまった。ひどい。あまりにもひどい。
「その通りだ。許されないのは当主であるのに、貴族社会は、そうはいかない。何故か、子を孕んだ召使いが罪を被る事となった。丁度私には、子がいなかった。だが、跡取りが欲しかった。だから、ノーセットを引き取った。あの子には私が養父だと教えてある。隠す必要はない。ノーセットを我が子として、何も隠さず親身に育てたいと思っているが、如何せん、やはり我が子ではない。どう接していいのか分からないのだ」
とても素直に言うキャウリー様がカッコよかった。包み隠さず、真っ直ぐに気持ちを言ってくれる。こういう人が本当の大人なんだ。
「シャーリーが来てくれて、本当に有難いと思っている」
「あの、つい可愛くて、相手をしているだけです」
「それで、充分だ。私も可愛いと思っているが、実際何年も一緒にいると、果たして子供一人が人の痛みや辛さを理解出来るのだろうか、と不安に思っていた。友人を作ればいいと思うが、それを私が何処まで介入していいのか分からない。かと言って、監視するかのようにノーセットの行動を見るのもどうかと思う。あぐねていた矢先に、シャーリー、君が現れた」
「私は、その、お父様の借金を返す為に来たのです」
自分でも情けない理由だと思う。でも、これが現実だ。
「理由はどうであれ、ノーセットにとってはいい刺激だし、私に安堵を与えてくれている」
「大袈裟ですよ」
「そうかもしれないな。人は、心が弱くなった時、都合よくその状況を作り出し、逃げていく。だが、それでいいんだ。逃げている、と己が理解しているのであれば、負の連鎖は起こらない」
「逃げている、と自分が理解する?」
何だか難しい話になってきた。でも、キャウリー様の話は聞きたい。
「そうだ。誰しも心が弱くなり逃げたくなる。逃げる事が弱さだ、と豪語する奴ほど諸刃の剣の様に儚い存在だ。0か100の答えしか出ない。だが、己が逃げている、と理解すれば自ずと、幾つかの答えを探し、その答えの為に、1歩を踏み出す。そうして」
「ゴホン!!」
勢いよくハザードが咳払いし、ガン、とキャウリー様の前にコーヒーカップを置いた。
そして、零れた。
わざと、だ。
「話が逸れていますよ!歳をとるとウンチクが長くなり、変に話がおかしくなりますね。それで、最後は、戦の時のように己の考えを閉ざすべきではない、だの、戦の時のように自己犠牲はするべきではない、だの、戦の時のように我慢すべきではない、だのとまとめるのでございましょう!?だからノーセット様がつまらなく思って最後まで話を聞かないのです!」
ハザード、容赦ない。でも、どこか優しい。
「ノーセットはつまらなく思っていたのか?」
ハザードの言葉に明らかに悲しそうになり、キャウリー様が凹んでしまった。肩まで落ちている。
「あらぁ、全く気付かれてない?あれだけ目線を逸らしておいでだったのに。ご主人様の頭はおめでたいですね。ともかく、今はコーヒーをどうぞ!」
いや、半分零れてるし、美味しく飲める雰囲気じゃない。
「シャーリー様は、いかがですか?」
七変化と褒めるほどに、先程の般若のような顔と打って変わって、いつもの穏やかな表情で私に聞いてきた。
途端に、キャウリー様がしゅんとなった。
「私はカフェオレをお願いします。その、私は、お話しもっと聞きたいです」
正直に言った。キャウリー様の話、続きが気になる。
「そうか?」
キャウリー様の顔が少し明るくなった。
「物珍しい生き物を見た時は、初めは興味がありますからね。これが毎日となるとうんざりしてきますよ。シャーリー様、下手にご主人様を持ち上げると後々面倒になりますよ。外では無口で通っておりますが、屋敷の中では、どの口が無口ですか?と呆れる程よく喋りますよ」
「既に呆れているではないか」
ボソッと言う。
「ええ、呆れていますよ。本題がすっかり、逸れていますからね!」
声を少し荒げながらも、私のカフェオレはゆっくりと丁寧に置き、ほら早く、とキャウリー様へ強い眼差しを向けていた。
「そうだな」
しょげながら小さく答えると、半分になったコーヒーを飲み干した。
なんだか寂しそうで、可哀想だ。
この二人、本当に仲がいいんだな。
「さて、シャーリー本題に入ろうか。その、ハザード、コーヒーのお代わりを貰えるかな?」
何だか微笑ましい。
渋いオジサマで、完璧なのに、ハザードに頭が上がらない姿が、見ていて暖かい気持ちになる。
ハザードもハザードで、仕方ありませんね、と微笑みながらコーヒーを注ぎ終わると、私を見た。
「シャーリー様もお代わり入れましょうか?」
「はい」
心がポカポカした。
誰かの後に、自然に私を見てくれて、
自然に、名前を呼んでくれて、
自然に、私が望んでいる事を聞いてくれる。
トポトポとカフェオレがカップに注がれる。
ミルクのいい香りと、カフェオレの色が穏やかな気持ちにさせてくれた。
美味しい。
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