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第15話私の仕事2
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「ノーセットがいないから、大人の話をしよう」
「大人?」
大人の話。
私に、大人の話をしてくれる。
子供扱いしない。
それが、嬉しかった。
「そんな硬い話ではないから食べながらで構わない」
「はい」
キャウリー様は少し真剣な表情になった。
「まずは、シャーリーが何故ここにいるかは、ノーセットも含め他の召使い同様、同じ説明をした。シャーリーは友人の娘で伯爵家だ。少し風変わりな子で、花嫁修業の料理を勉強したく、ウィンザー家へやってきた。皆、信じてくれた」
「・・・ありがとうございます」
いい説明だ。また、少し風変わり、と言っておけば大体のことは許される。これなら、変な噂も立たないだろう。
キャウリー様は、私のことを守ってくれている。
お父様の借金のかた、なんて言わない。
恥ずかしい理由を、隠してくれている。
「父親の所業は明らかに常軌を逸している」
頬がヒクヒクと動き、冷静な声ながらも目が怖かった。キャウリー様、本当に怒っているんだ。私の為に。
私のために、怒ってくれる人がいる。
それが、不思議で。
それが、嬉しい。
「そうですね・・・。昔は優しかったのですが・・・」
言葉が濁る。
本当に、昔は優しいお父様だった。お母様が亡くなってから、全てが変わってしまった。
でも、それは本当なのだろうか。
本当に、優しかったのだろうか。
それとも、お母様がいたから、優しく見えただけなのだろうか。
「だが、この現状を見る限り私には信じられない。ここでは、好きなように過ごしなさい。昨日の料理は本当に、花嫁修業になるやもしれん。そこでだ、シャーリーは私のメイドとして来たのだろう。では、私の手伝いをして欲しい」
「手伝い、ですか?」
手伝い。
役に立てる。
必要とされる。
その言葉が、嬉しかった。
「まず、夜会やパーティーに呼ばれた時、私のエスコートの相手として参加すること」
「私がですか!?歳が、違いすぎますよ!」
思わず声が大きくなってしまった。キャウリー様と私では、親子ほど歳が離れているのに。
エスコート?
私が?
夜会に?
信じられない。
「構わん。とりあえず、女性を連れていたらそれでいいんだ」
うんざりとため息をついたのはキャウリー様だけでなく、ハザードもだった。
「その言葉、シャーリー様に失礼ですよ。シャーリー様は十分お美しい令嬢でございます。元々ご主人様が、女性に興味が無いから面倒な事になるのです。場合によっては女性がおられた方が宜しいのに、お構いなくお一人で出席されるから、御友人からネチネチと後から言われますからね。ご主人様だけならまだしも、私にも、誰かいないのか?と聞かれますので、全く迷惑ですよ」
お美しい令嬢。
ハザードが、そう言ってくれた。
私を、美しいと言ってくれた。
サヴォワ家では、いつも比べられた。
お姉様は美しい。
私は、醜い。
でも、ハザードは、私を美しいと言ってくれた。
お世辞でも、初めて聞く言葉に嬉しくなった。
「そう言うなよ。これからシャーリーがいるから言われないだろう。あと、サヴォワ家に服を取りに行かせたが、恐らく義母と姉だろう。渡す服なんかありません、と追い払われたと言っていた。だから、午後から仕立て屋を呼んでいる。ドレスや小物を作りなさい。心配せずとも、その分はエスコート料と、昨夜の食事で十分だ」
やっぱり。お義母様とお姉様は、私に何も渡すつもりはなかったんだ。
でも、不思議と、悲しくなかった。
怒りも、湧いてこなかった。
ああ、やっぱり、と思っただけ。
「何から何まで、すみません・・・」
申し訳ない。
本当に申し訳ない。
「いいや、どの道、私と出る夜会などはこれまでと少し違うだろうから新調してもらった方が、私が助かる。あと、ダンスの曲も少し違うから、それは明日から練習しなさい。指導者は呼んである」
「す・・・、いいえ、分かりました」
すみません、と言いかけて止めた。ありがとうございます、と言うべきなんだ。
前向きに。
ハザードの言葉。
キャウリー様の言葉。
すみません、じゃなくて。
ありがとうございます。
そう考えてる自分に、
私、
少しずつ、
変ってる?
「ああ、それともうひとつあった。服が出来たらメイド服は夕食の準備の時だけにしなさい。私の客人が屋敷に来ることもある。メイド服を着た者をエスコートして出席するのは、私の立場がない」
「分かりました」
ごもっともだ。
確かに、キャウリー様の立場を考えれば当然のことだ。
「さて、話は終わりだ。シャーリー、ここでの生活の中で、気になる事や、心配事があれば、言える範囲でいいからハザードに言いなさい。この屋敷には執事、侍従長等はいない。ハザードが、この屋敷の主だ」
主、はキャウリー様では?と、あえて愚問はしません。
「私がもっとも古株でございますからね」
「御局様だろ?」
「否定は致しません」
背筋を綺麗に伸ばし、ツンと顎を上げた。
その姿が、どこか誇らしげで、堂々としていて、素敵だった。
「そういう事だ。だが、立場的には、ハザードよりもシャーリーが上だ。そこを踏まえ過ごしなさい」
「はい、キャウリー様。では、私はこれで失礼致します。早く屋敷を覚えたいので、少し探検しますね」
ナプキンで口を拭き、立ち上がった。
立ち上がりかけた時、ふと、さっきの話が気になった。
「キャウリー様、先程の話なのですが、どうして逃げていると分かっているのに、負の連鎖が起きないのですか?」
どうしても、聞きたかった。
その答えが、知りたかった。
「逃げていた時、後悔するだろ?もしくは言い訳するだろ?」
「します」
私は、いつも後悔していた。
いつも、言い訳していた。
「その時ひっくり返せばいいだけだ」
「ひっくり返す?」
「そうだ。つまり、後悔した時の自分の考え、言い訳した時の言葉、それをひっくり返す。そうすれば前向きの考えに変わる。負の連鎖は起こらない。私はいつもそうする」
キャウリー様の慈愛に満ちた微笑みで、簡単に言い放った言葉に、私は衝撃を受けた。
ひっくり返す。
そんな簡単なこと。
でも、思いつかなかった。
後悔したら、そのまま落ち込む。
言い訳したら、そのまま自分を責める。
でも、ひっくり返せばいい。
後悔を、学びに。
言い訳を、次への一歩に。
確かにそうだ。
その通りだ。
前向き。
前向き。
無意識に目線がハザードに向いた。
軽く微笑み、小さく頷いた。
そうか。キャウリー様とハザードは二人とも私を心配してくれているのだ。
言い方は違うが、答えは同じ、なのだ。
私を、導こうとしてくれている。
私を、変えようとしてくれている。
いいえ、違う。
私が、自分で変わるのを、待っていてくれている。
「あ、あの!私、午前中は屋敷の中を探検しながら覚えていきます。迷子になったら、それも探検だから、楽しみます」
そう言った自分に、驚いた。
迷子になったら、楽しむ。
サヴォワ家では、迷子になったら、怒られた。
道に迷ったら、叱られた。
でも、ここでは、楽しんでいい。
失敗しても、いい。
「そうですね。でも、お昼からは仕立て屋等が参りますから、程々にして帰ってきてくださいね」
「はい!」
久しぶりに大きな声で返事をし、私は食堂を出た。
廊下に出ると、朝の光が窓から差し込んでいて、とても明るかった。
この屋敷、温かい。
お腹もいっぱいで、心もいっぱい。
幸せな気持ちで、私は廊下を歩き始めた。
キャウリー様の言葉が、頭の中で響いている。
逃げている、と理解する。
そして、ひっくり返す。
前向きに。
少しずつ、私も変われるかもしれない。
そう思うと、また、胸が温かくなった。
「大人?」
大人の話。
私に、大人の話をしてくれる。
子供扱いしない。
それが、嬉しかった。
「そんな硬い話ではないから食べながらで構わない」
「はい」
キャウリー様は少し真剣な表情になった。
「まずは、シャーリーが何故ここにいるかは、ノーセットも含め他の召使い同様、同じ説明をした。シャーリーは友人の娘で伯爵家だ。少し風変わりな子で、花嫁修業の料理を勉強したく、ウィンザー家へやってきた。皆、信じてくれた」
「・・・ありがとうございます」
いい説明だ。また、少し風変わり、と言っておけば大体のことは許される。これなら、変な噂も立たないだろう。
キャウリー様は、私のことを守ってくれている。
お父様の借金のかた、なんて言わない。
恥ずかしい理由を、隠してくれている。
「父親の所業は明らかに常軌を逸している」
頬がヒクヒクと動き、冷静な声ながらも目が怖かった。キャウリー様、本当に怒っているんだ。私の為に。
私のために、怒ってくれる人がいる。
それが、不思議で。
それが、嬉しい。
「そうですね・・・。昔は優しかったのですが・・・」
言葉が濁る。
本当に、昔は優しいお父様だった。お母様が亡くなってから、全てが変わってしまった。
でも、それは本当なのだろうか。
本当に、優しかったのだろうか。
それとも、お母様がいたから、優しく見えただけなのだろうか。
「だが、この現状を見る限り私には信じられない。ここでは、好きなように過ごしなさい。昨日の料理は本当に、花嫁修業になるやもしれん。そこでだ、シャーリーは私のメイドとして来たのだろう。では、私の手伝いをして欲しい」
「手伝い、ですか?」
手伝い。
役に立てる。
必要とされる。
その言葉が、嬉しかった。
「まず、夜会やパーティーに呼ばれた時、私のエスコートの相手として参加すること」
「私がですか!?歳が、違いすぎますよ!」
思わず声が大きくなってしまった。キャウリー様と私では、親子ほど歳が離れているのに。
エスコート?
私が?
夜会に?
信じられない。
「構わん。とりあえず、女性を連れていたらそれでいいんだ」
うんざりとため息をついたのはキャウリー様だけでなく、ハザードもだった。
「その言葉、シャーリー様に失礼ですよ。シャーリー様は十分お美しい令嬢でございます。元々ご主人様が、女性に興味が無いから面倒な事になるのです。場合によっては女性がおられた方が宜しいのに、お構いなくお一人で出席されるから、御友人からネチネチと後から言われますからね。ご主人様だけならまだしも、私にも、誰かいないのか?と聞かれますので、全く迷惑ですよ」
お美しい令嬢。
ハザードが、そう言ってくれた。
私を、美しいと言ってくれた。
サヴォワ家では、いつも比べられた。
お姉様は美しい。
私は、醜い。
でも、ハザードは、私を美しいと言ってくれた。
お世辞でも、初めて聞く言葉に嬉しくなった。
「そう言うなよ。これからシャーリーがいるから言われないだろう。あと、サヴォワ家に服を取りに行かせたが、恐らく義母と姉だろう。渡す服なんかありません、と追い払われたと言っていた。だから、午後から仕立て屋を呼んでいる。ドレスや小物を作りなさい。心配せずとも、その分はエスコート料と、昨夜の食事で十分だ」
やっぱり。お義母様とお姉様は、私に何も渡すつもりはなかったんだ。
でも、不思議と、悲しくなかった。
怒りも、湧いてこなかった。
ああ、やっぱり、と思っただけ。
「何から何まで、すみません・・・」
申し訳ない。
本当に申し訳ない。
「いいや、どの道、私と出る夜会などはこれまでと少し違うだろうから新調してもらった方が、私が助かる。あと、ダンスの曲も少し違うから、それは明日から練習しなさい。指導者は呼んである」
「す・・・、いいえ、分かりました」
すみません、と言いかけて止めた。ありがとうございます、と言うべきなんだ。
前向きに。
ハザードの言葉。
キャウリー様の言葉。
すみません、じゃなくて。
ありがとうございます。
そう考えてる自分に、
私、
少しずつ、
変ってる?
「ああ、それともうひとつあった。服が出来たらメイド服は夕食の準備の時だけにしなさい。私の客人が屋敷に来ることもある。メイド服を着た者をエスコートして出席するのは、私の立場がない」
「分かりました」
ごもっともだ。
確かに、キャウリー様の立場を考えれば当然のことだ。
「さて、話は終わりだ。シャーリー、ここでの生活の中で、気になる事や、心配事があれば、言える範囲でいいからハザードに言いなさい。この屋敷には執事、侍従長等はいない。ハザードが、この屋敷の主だ」
主、はキャウリー様では?と、あえて愚問はしません。
「私がもっとも古株でございますからね」
「御局様だろ?」
「否定は致しません」
背筋を綺麗に伸ばし、ツンと顎を上げた。
その姿が、どこか誇らしげで、堂々としていて、素敵だった。
「そういう事だ。だが、立場的には、ハザードよりもシャーリーが上だ。そこを踏まえ過ごしなさい」
「はい、キャウリー様。では、私はこれで失礼致します。早く屋敷を覚えたいので、少し探検しますね」
ナプキンで口を拭き、立ち上がった。
立ち上がりかけた時、ふと、さっきの話が気になった。
「キャウリー様、先程の話なのですが、どうして逃げていると分かっているのに、負の連鎖が起きないのですか?」
どうしても、聞きたかった。
その答えが、知りたかった。
「逃げていた時、後悔するだろ?もしくは言い訳するだろ?」
「します」
私は、いつも後悔していた。
いつも、言い訳していた。
「その時ひっくり返せばいいだけだ」
「ひっくり返す?」
「そうだ。つまり、後悔した時の自分の考え、言い訳した時の言葉、それをひっくり返す。そうすれば前向きの考えに変わる。負の連鎖は起こらない。私はいつもそうする」
キャウリー様の慈愛に満ちた微笑みで、簡単に言い放った言葉に、私は衝撃を受けた。
ひっくり返す。
そんな簡単なこと。
でも、思いつかなかった。
後悔したら、そのまま落ち込む。
言い訳したら、そのまま自分を責める。
でも、ひっくり返せばいい。
後悔を、学びに。
言い訳を、次への一歩に。
確かにそうだ。
その通りだ。
前向き。
前向き。
無意識に目線がハザードに向いた。
軽く微笑み、小さく頷いた。
そうか。キャウリー様とハザードは二人とも私を心配してくれているのだ。
言い方は違うが、答えは同じ、なのだ。
私を、導こうとしてくれている。
私を、変えようとしてくれている。
いいえ、違う。
私が、自分で変わるのを、待っていてくれている。
「あ、あの!私、午前中は屋敷の中を探検しながら覚えていきます。迷子になったら、それも探検だから、楽しみます」
そう言った自分に、驚いた。
迷子になったら、楽しむ。
サヴォワ家では、迷子になったら、怒られた。
道に迷ったら、叱られた。
でも、ここでは、楽しんでいい。
失敗しても、いい。
「そうですね。でも、お昼からは仕立て屋等が参りますから、程々にして帰ってきてくださいね」
「はい!」
久しぶりに大きな声で返事をし、私は食堂を出た。
廊下に出ると、朝の光が窓から差し込んでいて、とても明るかった。
この屋敷、温かい。
お腹もいっぱいで、心もいっぱい。
幸せな気持ちで、私は廊下を歩き始めた。
キャウリー様の言葉が、頭の中で響いている。
逃げている、と理解する。
そして、ひっくり返す。
前向きに。
少しずつ、私も変われるかもしれない。
そう思うと、また、胸が温かくなった。
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