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第20話街へ1
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あ!!ヤマメの塩焼きだ!!
綺麗に串に刺されて、炭火でパチパチと焼かれている。
煙が立ち上って、香ばしい匂いがここまで漂ってくる。
おじさんが、パタパタとうちわで仰ぐと、より一層煙と一緒にいい香りが流れてくる。
たまらない。
「シャーリーどこ行くの?」
ノーセットの声が、後ろから聞こえた。
でも、もう、体が勝手に動いている。
フラフラと匂いの方へ引き寄せられ、露天の前に立った。
「いらっしゃい!今、ちょうど焼けたところだよ!」
おじさんが、笑顔で声をかけながら、手際よくヤマメをひっくり返していく。
炭火の上で、ヤマメが綺麗に並んでいる。
皮がパリッと焼けて、少し焦げ目がついていて、その焦げ目が、また美味しそう。
「確かにいい頃合いだね。ねえ、バイン」
「間違いないです」
バインが、即答しながらも、その目が、ヤマメを見つめている。
「私は食べるけど、ノーセットはどうする?」
振り返ると、ノーセットが不思議そうな顔で首を傾げた。
「え!?これを?」
ノーセットは酷く驚き、私とヤマメを見比べ、また私を見た。
その顔が、信じられない、という表情。
「そうだよ、これを、だよ。私は食べるけど、どうする?」
「じゃあ・・・僕も・・・」
ノーセットが、恐る恐る答えた。
「じゃあ三本ください」
おじさんに言うと、おじさんが嬉しそうに笑った。
「はい、どうぞ。一番いい焼き具合だ。これ以上遅かったら焦げてるかもな」
豪快に笑いながら、串に刺されたヤマメを三本、紙に包んで渡してくれた。
熱い。
でも、その熱さが、また嬉しい。
焼きたての証拠だ。
「ありがとう、これお金」
小銭を渡すと、おじさんが受け取った。
「はい、ありがとさん。また来ておくれよ」
「ノーセット、あそこで座って食べよう」
少し離れた場所に、ベンチがあった。
そこを指さすと、ノーセットが頷いた。
「・・・うん・・・」
とても不安そうな顔で私についてきた。
約束の週末になり、一緒に街に散歩がてら、蛙取りにやってきた。
やっと知ったが、私のいたサヴォワ家の屋敷からキャウリー様の屋敷までは二時間もかかる場所だった。馬車に乗ってやってきている間は、とても不安で、時間も、その景色も見る余裕もなかったが、結構遠いし、知らない街だ。
それに、とても大きな街で、サヴォワ家の近くの街とは、全く違う。
広い石畳の通りが、どこまでも続いている。
両側には、立派な建物が並んでいる。
商店、喫茶店、パン屋、肉屋、八百屋。
色々な店が、軒を連ねている。
人も、たくさんいる。
商人、職人、貴族、召使い。
様々な人が、行き交っている。
声も、賑やかで、なんだかワクワクする。
「いらっしゃい!」
「新鮮な野菜だよ!」
「焼きたてのパンはいかが!」
露天も、たくさん並んでいる。
食べ物、雑貨、布、小物。
色とりどりの品物が、所狭しと並べられている。
匂いも、様々。
パンの香ばしい匂い。
肉の焼ける匂い。
花の甘い香り。
香辛料の刺激的な香り。
全部が混ざり合って、街特有の匂いになっている。
サヴォワ家の近くの街は、もっと小さかった。
店も少なかったし、人も少なかった。
静かで、落ち着いていた。
でも、ここは違う。
活気がある。
生き生きとしている。
まるで、街全体が呼吸しているみたい。
圧倒される。
でも、嫌いじゃない。
こんな大きな街、初めて。
街に出るならと、ハザードに少しお金まで貰って、私たちの護衛としてバインが一緒に来た。
バインは、昨夜厨房にいた知らない男の人、と思ってた男性だった。
護衛、と聞いて驚いたけど、実は屋敷の警備を担当している人らしく、ハザード曰く、まあまあの腕を持っているので心配しなくてもいい、と言われた。
すぐに理解できた。
ノーセットがいるからだ。
本来貴族なら、護衛や召使いという側付きがいるものだ。
それは、知っている。
でも、私には必要ない、といつも言われてたし、私も必要ないと思ってた。
綺麗なシャーサーには召使いがいつも側にいて、外出する時は護衛がいた。
羨ましい、とは思わなかった。
邪魔、というよりも、私にはその価値がなかったからだ。
でも、ノーセットには、その価値がある。
キャウリー様の大切な跡取りだもんね。
この家の未来。
だから、護衛がつくの当たり前だよね。
ベンチに座ると、私は三本のヤマメを持った。
「はい。どうぞ」
まず、バインに一本渡した。
バインが、少し驚いた顔をした。
「いいんですか?」
「当たり前でしょう。こういうのは皆で食べた方が美味しんだよ」
「ありがとうございます」
バインが、嬉しそうに受け取った。
次に、ノーセットに一本渡す。
ノーセットは、串を受け取ったけど、持ったまま固まっている。
その顔が、不安そう。
その目が、ヤマメを見つめている。
「大丈夫だよ。美味しいから」
「でも・・・これ、魚の・・・頭も、尻尾も、全部ついてる・・・」
ノーセットが、小さな声で言った。
そうか。
ノーセットは、こういう食べ方をしたことがないんだ。
貴族の食卓に出る魚は、綺麗に身だけにされている。
頭も、骨も、尻尾も、全部取り除かれている。
でも、これは違う。
丸ごと、全部。
「うん。でも、これがいいんだよ。頭も、骨も、尻尾も、全部美味しいから」
私は、自分のヤマメを横に持って、見せた。
「ほら、こうやって食べるんだよ」
パクリ。
ヤマメの身を、一口かじる。
ううううう!!
美味しい!!
いい焼き加減に、ほろりと崩れる身が口いっぱいに広がる。
いい塩加減で、唾液が出てくるのが、食欲をそそる。
ヤマメの旨味が、ギュッと凝縮されている。
皮の香ばしさが、パリッ、と聞こえるのがたまらない。
また、パクリ。
「・・・美味しい?」
ノーセットが、恐る恐る聞いてきた。
「うん!すっごく美味しい!」
私が答えると、バインも食べ始めた。
「勿論、美味いです!!」
バインが、目を見開いた。
その顔が、幸せそう。
ノーセットが、私とバインを見比べ、そして、意を決したように、ヤマメを口に持っていった。
恐る恐る、小さく、一口。
噛む。
その顔が、驚きに変わる。
その目が、大きく見開かれる。
「・・・美味しい・・・」
小さな声で、呟いた。
「でしょ?」
「うん・・・美味しい・・・すごく、美味しい・・・!」
ノーセットが、もう一口。
今度は、大きく。
もぐもぐと、幸せそうに噛んでいる。
その顔が、笑顔になった。
「美味しい!!こんなの、初めて!!」
ノーセットが、声を上げた。
良かった。
私は、また自分のヤマメを食べる。
そして、尻尾の部分。
ここが、また最高。
カリッと、かじる。
パリッという食感。
尻尾の部分が、いい感じに焼けてて、パリパリ。
「そこ、俺も好きです」
バインが、尻尾をかじりながら言った。
「やっぱり?本当は頭ももう少し焼いてくれたら、頭も食べられるのだけど」
少し足りないな。
頭まで、カリカリに焼いてくれたら、完璧なのに。
「通ですね。でも俺も一緒です」
「だよね」
私とバインは、顔を見合わせて笑った。
ノーセットを見ると、いつの間にかパクパクと美味しそうに、食べていた。
もう、不安そうな顔は消えている。
ただ、幸せそうに、夢中で食べている。
口の周りに、少し塩がついてるけど、気にしていない。
ただ、美味しい、美味しい、と食べている。
その顔が、可愛い。
良かった。
私とバインは先に食べ終わり、少しこぼしながらも食べるノーセットが微笑ましかった。
「ふう。美味しかった!!こんなの食べたことないよ」
ノーセットが、満足そうに言った。
その顔が、キラキラしている。
「ふふっ。良かった。今日どうする?蛙取りは今度にして、食べ歩きするか、それとも蛙取りに行く?」
「勿論!!食べ歩き!!!」
ノーセットが、元気よく手を上げた。
はい、と即答する姿に、おしっ!と思う。
「では、次は甘いもの食べよう。あれにしよう!」
指をさした先には、また別の露天が並んでいる。
この通りだけでも、どれだけあるんだろう。
全部回ったら、一日じゃ足りないかもしれないな、と言うぐらいぎっしりと並んでる。
「なに?」
「揚げ餅だよ」
「また、いいチョイスですね」
バインが、嬉しそうに言った。
「揚げ餅?」
ノーセットが、首を傾げた。
「待ってて」
私は、また露天に向かった。
人の波を掻き分けて。
ぶつからないように、気をつけて。
この街は、本当に人が多い。
揚げ餅の屋台。
おばさんが、油で餅を揚げている。
ジュウジュウという音。
甘い醤油の香り。
たまらない。
「三つください」
「はいはい、ちょうど揚がったところだよ。運がいいねえ」
おばさんが、揚げたての餅に串を三本刺し紙に包んでくれた。
熱々。
手に持つと、温かい。
お金を払って、ベンチに戻った。
「はい」
バインとノーセットに、一つずつ渡す。
「ありがとうございます」
バインが、受け取った。
「何?これ」
ノーセットが、紙に包まれた揚げ餅を見つめている。
「揚げた餅だよ。甘じょっぱくて、美味しいよ。冷めると固くなるから早く食べた方がいいよ」
そう言いながら私はもう、揚げ餅に刺さっている串を持ち、一口パクリ。
サクッ。
外がカリッとしていて、中がもちもち。
じゅわあああ、と甘じょっぱい味が口に広がる。
それでいて後を引く少しピリ辛で、揚げたところはサクサク、でも中の少しとろりとしたところが混ざって、
うまっ!!
です。
それも、ちょうど揚げたてを買えたのも、ラッキーだった。
醤油の甘みと、唐辛子のピリッとした辛味。
その組み合わせが、絶妙。
餅の、もちもちとした食感。
揚げた衣の、サクサクとした食感。
両方が、口の中で混ざり合う。
幸せ・・・。
「シャーリーってば、本当に美味しそうに食べるよね」
ノーセットが、笑いながら言った。
「本当に。見ててこっちが幸せになります」
バインも、笑っている。
「いや、美味しいもの!」
私が答えると、二人は顔を見合わせた。
そして、急いで食べ始めた。
バインが、一口。
「ほおおおお・・・」
目を閉じて、満足そうな顔。
ノーセットも、一口。
「うわっ、美味しい!甘いのに、辛い!!でも、美味しい!!」
興奮して、声を上げた。
そして、また一口。
「もちもちしてるのに、外はサクサク!」
ノーセットの顔が、幸せそう。
二人とも、夢中で食べている。
その顔が、本当に幸せそう。
そうそう、それだよ。うまうまだもんね。
私も、また一口。
美味しいものを、美味しいと言える。
美味しいものを、一緒に食べられる。
それが、こんなに幸せなことだなんて。
サヴォワ家では、こんな風に食べることはなかった。
いつも、お義母様とお姉様の顔色を伺って。
いつも、冷めた食事を、黙って食べて。
でも、ここは違う。
「美味しいね」
「美味しいです」
ノーセットとバインが、笑顔で言う。
「うん、美味しい」
私も、笑顔で答える。
これが、幸せなんだ。
周りを見渡すと、たくさんの人が行き交っている。
みんな、何かを買ったり、食べたり、笑ったり。
この大きな街の、小さな一角で。
私たち三人も、同じように笑っている。
綺麗に串に刺されて、炭火でパチパチと焼かれている。
煙が立ち上って、香ばしい匂いがここまで漂ってくる。
おじさんが、パタパタとうちわで仰ぐと、より一層煙と一緒にいい香りが流れてくる。
たまらない。
「シャーリーどこ行くの?」
ノーセットの声が、後ろから聞こえた。
でも、もう、体が勝手に動いている。
フラフラと匂いの方へ引き寄せられ、露天の前に立った。
「いらっしゃい!今、ちょうど焼けたところだよ!」
おじさんが、笑顔で声をかけながら、手際よくヤマメをひっくり返していく。
炭火の上で、ヤマメが綺麗に並んでいる。
皮がパリッと焼けて、少し焦げ目がついていて、その焦げ目が、また美味しそう。
「確かにいい頃合いだね。ねえ、バイン」
「間違いないです」
バインが、即答しながらも、その目が、ヤマメを見つめている。
「私は食べるけど、ノーセットはどうする?」
振り返ると、ノーセットが不思議そうな顔で首を傾げた。
「え!?これを?」
ノーセットは酷く驚き、私とヤマメを見比べ、また私を見た。
その顔が、信じられない、という表情。
「そうだよ、これを、だよ。私は食べるけど、どうする?」
「じゃあ・・・僕も・・・」
ノーセットが、恐る恐る答えた。
「じゃあ三本ください」
おじさんに言うと、おじさんが嬉しそうに笑った。
「はい、どうぞ。一番いい焼き具合だ。これ以上遅かったら焦げてるかもな」
豪快に笑いながら、串に刺されたヤマメを三本、紙に包んで渡してくれた。
熱い。
でも、その熱さが、また嬉しい。
焼きたての証拠だ。
「ありがとう、これお金」
小銭を渡すと、おじさんが受け取った。
「はい、ありがとさん。また来ておくれよ」
「ノーセット、あそこで座って食べよう」
少し離れた場所に、ベンチがあった。
そこを指さすと、ノーセットが頷いた。
「・・・うん・・・」
とても不安そうな顔で私についてきた。
約束の週末になり、一緒に街に散歩がてら、蛙取りにやってきた。
やっと知ったが、私のいたサヴォワ家の屋敷からキャウリー様の屋敷までは二時間もかかる場所だった。馬車に乗ってやってきている間は、とても不安で、時間も、その景色も見る余裕もなかったが、結構遠いし、知らない街だ。
それに、とても大きな街で、サヴォワ家の近くの街とは、全く違う。
広い石畳の通りが、どこまでも続いている。
両側には、立派な建物が並んでいる。
商店、喫茶店、パン屋、肉屋、八百屋。
色々な店が、軒を連ねている。
人も、たくさんいる。
商人、職人、貴族、召使い。
様々な人が、行き交っている。
声も、賑やかで、なんだかワクワクする。
「いらっしゃい!」
「新鮮な野菜だよ!」
「焼きたてのパンはいかが!」
露天も、たくさん並んでいる。
食べ物、雑貨、布、小物。
色とりどりの品物が、所狭しと並べられている。
匂いも、様々。
パンの香ばしい匂い。
肉の焼ける匂い。
花の甘い香り。
香辛料の刺激的な香り。
全部が混ざり合って、街特有の匂いになっている。
サヴォワ家の近くの街は、もっと小さかった。
店も少なかったし、人も少なかった。
静かで、落ち着いていた。
でも、ここは違う。
活気がある。
生き生きとしている。
まるで、街全体が呼吸しているみたい。
圧倒される。
でも、嫌いじゃない。
こんな大きな街、初めて。
街に出るならと、ハザードに少しお金まで貰って、私たちの護衛としてバインが一緒に来た。
バインは、昨夜厨房にいた知らない男の人、と思ってた男性だった。
護衛、と聞いて驚いたけど、実は屋敷の警備を担当している人らしく、ハザード曰く、まあまあの腕を持っているので心配しなくてもいい、と言われた。
すぐに理解できた。
ノーセットがいるからだ。
本来貴族なら、護衛や召使いという側付きがいるものだ。
それは、知っている。
でも、私には必要ない、といつも言われてたし、私も必要ないと思ってた。
綺麗なシャーサーには召使いがいつも側にいて、外出する時は護衛がいた。
羨ましい、とは思わなかった。
邪魔、というよりも、私にはその価値がなかったからだ。
でも、ノーセットには、その価値がある。
キャウリー様の大切な跡取りだもんね。
この家の未来。
だから、護衛がつくの当たり前だよね。
ベンチに座ると、私は三本のヤマメを持った。
「はい。どうぞ」
まず、バインに一本渡した。
バインが、少し驚いた顔をした。
「いいんですか?」
「当たり前でしょう。こういうのは皆で食べた方が美味しんだよ」
「ありがとうございます」
バインが、嬉しそうに受け取った。
次に、ノーセットに一本渡す。
ノーセットは、串を受け取ったけど、持ったまま固まっている。
その顔が、不安そう。
その目が、ヤマメを見つめている。
「大丈夫だよ。美味しいから」
「でも・・・これ、魚の・・・頭も、尻尾も、全部ついてる・・・」
ノーセットが、小さな声で言った。
そうか。
ノーセットは、こういう食べ方をしたことがないんだ。
貴族の食卓に出る魚は、綺麗に身だけにされている。
頭も、骨も、尻尾も、全部取り除かれている。
でも、これは違う。
丸ごと、全部。
「うん。でも、これがいいんだよ。頭も、骨も、尻尾も、全部美味しいから」
私は、自分のヤマメを横に持って、見せた。
「ほら、こうやって食べるんだよ」
パクリ。
ヤマメの身を、一口かじる。
ううううう!!
美味しい!!
いい焼き加減に、ほろりと崩れる身が口いっぱいに広がる。
いい塩加減で、唾液が出てくるのが、食欲をそそる。
ヤマメの旨味が、ギュッと凝縮されている。
皮の香ばしさが、パリッ、と聞こえるのがたまらない。
また、パクリ。
「・・・美味しい?」
ノーセットが、恐る恐る聞いてきた。
「うん!すっごく美味しい!」
私が答えると、バインも食べ始めた。
「勿論、美味いです!!」
バインが、目を見開いた。
その顔が、幸せそう。
ノーセットが、私とバインを見比べ、そして、意を決したように、ヤマメを口に持っていった。
恐る恐る、小さく、一口。
噛む。
その顔が、驚きに変わる。
その目が、大きく見開かれる。
「・・・美味しい・・・」
小さな声で、呟いた。
「でしょ?」
「うん・・・美味しい・・・すごく、美味しい・・・!」
ノーセットが、もう一口。
今度は、大きく。
もぐもぐと、幸せそうに噛んでいる。
その顔が、笑顔になった。
「美味しい!!こんなの、初めて!!」
ノーセットが、声を上げた。
良かった。
私は、また自分のヤマメを食べる。
そして、尻尾の部分。
ここが、また最高。
カリッと、かじる。
パリッという食感。
尻尾の部分が、いい感じに焼けてて、パリパリ。
「そこ、俺も好きです」
バインが、尻尾をかじりながら言った。
「やっぱり?本当は頭ももう少し焼いてくれたら、頭も食べられるのだけど」
少し足りないな。
頭まで、カリカリに焼いてくれたら、完璧なのに。
「通ですね。でも俺も一緒です」
「だよね」
私とバインは、顔を見合わせて笑った。
ノーセットを見ると、いつの間にかパクパクと美味しそうに、食べていた。
もう、不安そうな顔は消えている。
ただ、幸せそうに、夢中で食べている。
口の周りに、少し塩がついてるけど、気にしていない。
ただ、美味しい、美味しい、と食べている。
その顔が、可愛い。
良かった。
私とバインは先に食べ終わり、少しこぼしながらも食べるノーセットが微笑ましかった。
「ふう。美味しかった!!こんなの食べたことないよ」
ノーセットが、満足そうに言った。
その顔が、キラキラしている。
「ふふっ。良かった。今日どうする?蛙取りは今度にして、食べ歩きするか、それとも蛙取りに行く?」
「勿論!!食べ歩き!!!」
ノーセットが、元気よく手を上げた。
はい、と即答する姿に、おしっ!と思う。
「では、次は甘いもの食べよう。あれにしよう!」
指をさした先には、また別の露天が並んでいる。
この通りだけでも、どれだけあるんだろう。
全部回ったら、一日じゃ足りないかもしれないな、と言うぐらいぎっしりと並んでる。
「なに?」
「揚げ餅だよ」
「また、いいチョイスですね」
バインが、嬉しそうに言った。
「揚げ餅?」
ノーセットが、首を傾げた。
「待ってて」
私は、また露天に向かった。
人の波を掻き分けて。
ぶつからないように、気をつけて。
この街は、本当に人が多い。
揚げ餅の屋台。
おばさんが、油で餅を揚げている。
ジュウジュウという音。
甘い醤油の香り。
たまらない。
「三つください」
「はいはい、ちょうど揚がったところだよ。運がいいねえ」
おばさんが、揚げたての餅に串を三本刺し紙に包んでくれた。
熱々。
手に持つと、温かい。
お金を払って、ベンチに戻った。
「はい」
バインとノーセットに、一つずつ渡す。
「ありがとうございます」
バインが、受け取った。
「何?これ」
ノーセットが、紙に包まれた揚げ餅を見つめている。
「揚げた餅だよ。甘じょっぱくて、美味しいよ。冷めると固くなるから早く食べた方がいいよ」
そう言いながら私はもう、揚げ餅に刺さっている串を持ち、一口パクリ。
サクッ。
外がカリッとしていて、中がもちもち。
じゅわあああ、と甘じょっぱい味が口に広がる。
それでいて後を引く少しピリ辛で、揚げたところはサクサク、でも中の少しとろりとしたところが混ざって、
うまっ!!
です。
それも、ちょうど揚げたてを買えたのも、ラッキーだった。
醤油の甘みと、唐辛子のピリッとした辛味。
その組み合わせが、絶妙。
餅の、もちもちとした食感。
揚げた衣の、サクサクとした食感。
両方が、口の中で混ざり合う。
幸せ・・・。
「シャーリーってば、本当に美味しそうに食べるよね」
ノーセットが、笑いながら言った。
「本当に。見ててこっちが幸せになります」
バインも、笑っている。
「いや、美味しいもの!」
私が答えると、二人は顔を見合わせた。
そして、急いで食べ始めた。
バインが、一口。
「ほおおおお・・・」
目を閉じて、満足そうな顔。
ノーセットも、一口。
「うわっ、美味しい!甘いのに、辛い!!でも、美味しい!!」
興奮して、声を上げた。
そして、また一口。
「もちもちしてるのに、外はサクサク!」
ノーセットの顔が、幸せそう。
二人とも、夢中で食べている。
その顔が、本当に幸せそう。
そうそう、それだよ。うまうまだもんね。
私も、また一口。
美味しいものを、美味しいと言える。
美味しいものを、一緒に食べられる。
それが、こんなに幸せなことだなんて。
サヴォワ家では、こんな風に食べることはなかった。
いつも、お義母様とお姉様の顔色を伺って。
いつも、冷めた食事を、黙って食べて。
でも、ここは違う。
「美味しいね」
「美味しいです」
ノーセットとバインが、笑顔で言う。
「うん、美味しい」
私も、笑顔で答える。
これが、幸せなんだ。
周りを見渡すと、たくさんの人が行き交っている。
みんな、何かを買ったり、食べたり、笑ったり。
この大きな街の、小さな一角で。
私たち三人も、同じように笑っている。
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