何も言わずメイドとして働いてこい!とポイされたら、成り上がり令嬢になりました

さち姫

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第22話私の運命は素敵ですね

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「これは、美味いな」
食後のデザート代わりに買ってきた揚げ菓子を、頬張りながらキャウリー様が手についた砂糖を舐めていた。
その姿が、なんだか子供みたいで、可愛い。
行儀が悪いと、ハザードが睨んでいたが、買ってきたのが私なので、何も言えないようだった。
ハザードの視線が、私に向く。
無言の圧。
すみません・・・。
食堂の窓から、夕暮れの光が差し込んでいる。
オレンジ色の光が、テーブルを照らしている。
ノーセットはつまみ食いが多すぎて、帰ってきてから夕食を食べられず、揚げ菓子を食べ、疲れて寝てしまった。
部屋に運ぶ時、本当に気持ちよさそうに寝ていた。
小さな寝息を立てて。
口元に、少し砂糖がついていて、可愛かった。
勿論、ハザードからは、またまた、無言の圧。
すみません・・・私が買い食いさせてしまったから・・・。
でも、ノーセットの楽しそうな顔を見たら、後悔はない。
「それは、良かったです。では、作りましょうか?」
砂糖は高くてサヴォワ家ではつくれなかったけれど、ここでは作れそう。
「お!それは、いいな。これから満身創痍になるからな。甘いものは必要だな。それと、カルヴァンに会ったそうだな」
キャウリー様が、揚げ菓子を食べながら言った。
ああ、あの、変わった人か。
「はい。誰ですかあの人。明らかに、上級貴族で・・・その・・・私とは違う世界の人みたいでしたが・・・」
世間知らずとは、さすがに言えなかった。
でも、本当にそう思った。
カルヴァン様は、私の知らない世界の人。
高貴で、遠い世界の人。
「誰、か。成程な。シャーリーは偶然会った、と言ったな。だがな、この世は偶然というのはありえない。全て必然、そうだな、運命、とでも言おうか」
キャウリー様が、真剣な顔で言った。
「必然?運命ですか?そんな大袈裟な」
偶然でしょう。
たまたま、街で会っただけ。
「そうかな?カルヴァンはスクルトの孫に当たる。そのカルヴァンが一人で、それも、街など歩くことなどない」
キャウリー様の声が、低くなる。
「スクルト様はキャウリー様の御友人の一人で、今度夜会に招いた方ですね」
「そうだ。この間、頼まれ事をする事になったと言っただろう。その頼まれた事をしつこく言ってきたのがスクルトなんだ。詳細を決めに行った時に、シャーリーの事を説明したが、いやに色々聞いてきた。今日出掛けることを教えたんだが、カルヴァンはスクルトに言われ出掛けたんだ。つまり、シャーリーと会わせる為にな」
え?
私と、会わせるため?
何故?
「大袈裟な。運よくお会いしただけです」
私は、首を振った。
そんなわけない。
私なんかに、会う価値があるわけない。
「運か・・・。そうだ、私もあの頃は思っていた・・・」
キャウリー様は遠い目をしながら、自嘲気味に笑った。
その顔が、寂しそう。
その目が、遠くを見ている。
何を見ているんだろう。
何を思い出しているんだろう。
「・・・私は昔、戦に明け暮れていた。友は次々に死んでいき、私はがむしゃらに剣を振り下ろし・・・いつしか、大将になっていた・・・。その時に思っていた。戦友の屍を踏んで、何故私は生き残ったのか、と。運よく生き残っただけで・・・いや・・・そんな昔話はいらないな」
振り払うように首を振った。
戦。
大将。
戦友の屍。
キャウリー様は、そんな過去があったのか。
だから、こんなに優しいのかもしれない。
だから、こんなに温かいのかもしれない。
たくさんの人の死を見て、
たくさんの悲しみを知って、
だから、人に優しくできるのかもしれない。
「運や偶然などという、その場しのぎの言葉で、人生を決めてはいけない。それは、他人のせいにする。まあ、運命も初めから敷いてあるレールを歩いていると言う意味では、他人事に聞こえるかもしれないな。だがな、私はあの時あのテーブルにシャーリーの父上が座ったのも運命。トランプをし負けた支払いの代わりにシャーリーがここにやって来たのも運命、今日カルヴァンに出会ったのも運命。そう言った方が、素敵に聞こえないか。私は、運命という言葉が好きだ」
キャウリー様の穏やかな微笑みに、泣きそうになった。
運命。
お父様が、トランプで負けたのも。
私が、ここに来たのも。
カルヴァン様に、会ったのも。
全部、運命。
その場しのぎの言葉じゃなくて。
誰かのせいじゃなくて。
運命。
そう思うと、全てが意味のあることに思える。
全てが、大切なことに思える。
「運命・・・。そうですね、私の運命は素敵ですね・・・」
声が、震えた。
涙が、出そうになった。
でも、我慢した。
ここに来られて、良かった。
キャウリー様に会えて、良かった。
「そうだろ?カルヴァンはあの顔だが女性との噂は全くない。スクルトに似て堅物というか真面目な奴だ」
キャウリー様が、また揚げ菓子を食べながら言った。
真面目か。よく言えば確かにそうかもしれない。鬱陶しいくらいに聞いてきたけど、気になる事を全部質問していたのかもしれない。
カルヴァン様の銀の瞳を思い出す。
真剣な目。
何かを知りたがっている目。
見下したような言い方もあったけれど、それは、私を馬鹿にしているわけではなく、多分普段の物言いなのだろう。
上級貴族は、そういうものだ。
悪気はないただ、育ちが違うだけなのだ。
「なんだ?面倒そうな顔してるな」
キャウリー様が、くすりと笑った。
「いや・・・不思議な人だなあ、と」
本当に、不思議な人。
揚げ餅を食べる時の、あの無邪気な顔。
子供みたいに、キラキラした目。
でも、確かに初めて会ったあの顔堅物そうだった。
「そうか。残念な結果のようだな」
キャウリー様が、少し残念そうに言った。
「いや・・・まだ、そういう訳ではありませんが・・・。 今日会ったばかりですので・・・」
「ご主人様いい加減になさいませ。ご自分の事を棚に上げ他人の色恋沙汰を楽しまれてどうされますか」
ハザードが、呆れたように言った。
その声が、少し笑っている。
「あ、いや・・・、つい、親友の孫だからな。すまなかったなシャーリー」
キャウリー様が、頭を掻いた。
「いえ、お気遣い感謝します」
ハザードに叱られ、しゅんとなる所が、可愛い。
この二人は主従関係にありながらも、仲がいいのだろう。
信頼し合ってて、いい関係だ。
「では、私は仕事が残っているので部屋に戻る。シャーリーまた、つまみを頼むな」
キャウリー様が、立ち上がった。
「はい、キャウリー様」
私も、立ち上がって、お辞儀をした。
キャウリー様が食堂をを出て行った。
今日は色々あったなぁ。
街に行って、
ヤマメを食べて、
揚げ餅を食べて、
カルヴァン様に会って、
面倒だったけど本当に、楽しかった。
そして、キャウリー様の言葉。
運命。
全ては、運命。
私が、ここにいるのも。
これから、何が起こるのかも。
全部、運命。
そう思うと明日は、何があるんだろう、とワクワクしてくる。
明日にワクワク出来る自分に、驚いた。
お母様が亡くなってから、明日、というのが苦痛で、辛かった。
明日は失敗しないように。
明日はちゃんとさっと出来るように。
明日は殴られないように。
明日は少しは好きになってもらえるように。
明日は私に自由ができるように。
明日は・・・
いつも、何かを願って。
いつも、怯えて。
いつも、不安で。
明日が来るのが、怖かった。
また、お姉様に罵られるんだ。
また、お義母様に冷たくされるんだ。
また、お父様に叩かれるんだ。
そう思うと、夜が来るのが怖かった。
夜が来たら、また明日が来る。
また、あの辛い一日が始まる。
だから、眠れなかった。
眠ったら、朝が来る。
朝が来たら、また地獄が始まる。
必死にもがいて。
必死に耐えて。
必死に生きていた。
ただ、生きるだけで精一杯だった。
でも、今は違う。
明日が、楽しみ。
明日が、待ち遠しい。
こんな気持ち、お母様が亡くなってから、初めて。
いや、もしかしたら、生まれて初めてかもしれない。
明日、何があるんだろう。
明日、誰と話すんだろう。
明日、何を作ろうかな。
ワクワクする。
こんな風に、明日を待つことができるなんて。
胸が、温かくなった。
また、涙が、出そうになった。
ここに来てなんだか涙脆くなった気がする。
でも、嫌じゃない。
サヴォワ家にいた頃は必死に涙を我慢していたのに、この涙は、我慢したくない。
私、少し、変わった。
辛い日々に必死にもがき生きていた自分が、
毎日を怯えて過ごしていた自分が、
明日が楽しみになっている。
もう、明日を怖がらなくてもいい。
窓の外を見ると、暗くなっていた。
星が、輝いている。
綺麗だな。
昔は、星を見る余裕もなかった。
いっつもしたばかり向いて、急いで屋敷に帰っていた。
でも、今は星を見る余裕がある。
このままずっとこの時間が続けばいい、と私は心底願った。

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