何も言わずメイドとして働いてこい!とポイされたら、成り上がり令嬢になりました

さち姫

文字の大きさ
22 / 72

第22話私の運命は素敵ですね

しおりを挟む
「これは、美味いな」
食後のデザート代わりに買ってきた揚げ菓子を、頬張りながらキャウリー様が手についた砂糖を舐めていた。
その姿が、なんだか子供みたいで、可愛い。
行儀が悪いと、ハザードが睨んでいたが、買ってきたのが私なので、何も言えないようだった。
ハザードの視線が、私に向く。
無言の圧。
すみません・・・。
食堂の窓から、夕暮れの光が差し込んでいる。
オレンジ色の光が、テーブルを照らしている。
ノーセットはつまみ食いが多すぎて、帰ってきてから夕食を食べられず、揚げ菓子を食べ、疲れて寝てしまった。
部屋に運ぶ時、本当に気持ちよさそうに寝ていた。
小さな寝息を立てて。
口元に、少し砂糖がついていて、可愛かった。
勿論、ハザードからは、またまた、無言の圧。
すみません・・・私が買い食いさせてしまったから・・・。
でも、ノーセットの楽しそうな顔を見たら、後悔はない。
「それは、良かったです。では、作りましょうか?」
砂糖は高くてサヴォワ家ではつくれなかったけれど、ここでは作れそう。
「お!それは、いいな。これから満身創痍になるからな。甘いものは必要だな。それと、カルヴァンに会ったそうだな」
キャウリー様が、揚げ菓子を食べながら言った。
ああ、あの、変わった人か。
「はい。誰ですかあの人。明らかに、上級貴族で・・・その・・・私とは違う世界の人みたいでしたが・・・」
世間知らずとは、さすがに言えなかった。
でも、本当にそう思った。
カルヴァン様は、私の知らない世界の人。
高貴で、遠い世界の人。
「誰、か。成程な。シャーリーは偶然会った、と言ったな。だがな、この世は偶然というのはありえない。全て必然、そうだな、運命、とでも言おうか」
キャウリー様が、真剣な顔で言った。
「必然?運命ですか?そんな大袈裟な」
偶然でしょう。
たまたま、街で会っただけ。
「そうかな?カルヴァンはスクルトの孫に当たる。そのカルヴァンが一人で、それも、街など歩くことなどない」
キャウリー様の声が、低くなる。
「スクルト様はキャウリー様の御友人の一人で、今度夜会に招いた方ですね」
「そうだ。この間、頼まれ事をする事になったと言っただろう。その頼まれた事をしつこく言ってきたのがスクルトなんだ。詳細を決めに行った時に、シャーリーの事を説明したが、いやに色々聞いてきた。今日出掛けることを教えたんだが、カルヴァンはスクルトに言われ出掛けたんだ。つまり、シャーリーと会わせる為にな」
え?
私と、会わせるため?
何故?
「大袈裟な。運よくお会いしただけです」
私は、首を振った。
そんなわけない。
私なんかに、会う価値があるわけない。
「運か・・・。そうだ、私もあの頃は思っていた・・・」
キャウリー様は遠い目をしながら、自嘲気味に笑った。
その顔が、寂しそう。
その目が、遠くを見ている。
何を見ているんだろう。
何を思い出しているんだろう。
「・・・私は昔、戦に明け暮れていた。友は次々に死んでいき、私はがむしゃらに剣を振り下ろし・・・いつしか、大将になっていた・・・。その時に思っていた。戦友の屍を踏んで、何故私は生き残ったのか、と。運よく生き残っただけで・・・いや・・・そんな昔話はいらないな」
振り払うように首を振った。
戦。
大将。
戦友の屍。
キャウリー様は、そんな過去があったのか。
だから、こんなに優しいのかもしれない。
だから、こんなに温かいのかもしれない。
たくさんの人の死を見て、
たくさんの悲しみを知って、
だから、人に優しくできるのかもしれない。
「運や偶然などという、その場しのぎの言葉で、人生を決めてはいけない。それは、他人のせいにする。まあ、運命も初めから敷いてあるレールを歩いていると言う意味では、他人事に聞こえるかもしれないな。だがな、私はあの時あのテーブルにシャーリーの父上が座ったのも運命。トランプをし負けた支払いの代わりにシャーリーがここにやって来たのも運命、今日カルヴァンに出会ったのも運命。そう言った方が、素敵に聞こえないか。私は、運命という言葉が好きだ」
キャウリー様の穏やかな微笑みに、泣きそうになった。
運命。
お父様が、トランプで負けたのも。
私が、ここに来たのも。
カルヴァン様に、会ったのも。
全部、運命。
その場しのぎの言葉じゃなくて。
誰かのせいじゃなくて。
運命。
そう思うと、全てが意味のあることに思える。
全てが、大切なことに思える。
「運命・・・。そうですね、私の運命は素敵ですね・・・」
声が、震えた。
涙が、出そうになった。
でも、我慢した。
ここに来られて、良かった。
キャウリー様に会えて、良かった。
「そうだろ?カルヴァンはあの顔だが女性との噂は全くない。スクルトに似て堅物というか真面目な奴だ」
キャウリー様が、また揚げ菓子を食べながら言った。
真面目か。よく言えば確かにそうかもしれない。鬱陶しいくらいに聞いてきたけど、気になる事を全部質問していたのかもしれない。
カルヴァン様の銀の瞳を思い出す。
真剣な目。
何かを知りたがっている目。
見下したような言い方もあったけれど、それは、私を馬鹿にしているわけではなく、多分普段の物言いなのだろう。
上級貴族は、そういうものだ。
悪気はないただ、育ちが違うだけなのだ。
「なんだ?面倒そうな顔してるな」
キャウリー様が、くすりと笑った。
「いや・・・不思議な人だなあ、と」
本当に、不思議な人。
揚げ餅を食べる時の、あの無邪気な顔。
子供みたいに、キラキラした目。
でも、確かに初めて会ったあの顔堅物そうだった。
「そうか。残念な結果のようだな」
キャウリー様が、少し残念そうに言った。
「いや・・・まだ、そういう訳ではありませんが・・・。 今日会ったばかりですので・・・」
「ご主人様いい加減になさいませ。ご自分の事を棚に上げ他人の色恋沙汰を楽しまれてどうされますか」
ハザードが、呆れたように言った。
その声が、少し笑っている。
「あ、いや・・・、つい、親友の孫だからな。すまなかったなシャーリー」
キャウリー様が、頭を掻いた。
「いえ、お気遣い感謝します」
ハザードに叱られ、しゅんとなる所が、可愛い。
この二人は主従関係にありながらも、仲がいいのだろう。
信頼し合ってて、いい関係だ。
「では、私は仕事が残っているので部屋に戻る。シャーリーまた、つまみを頼むな」
キャウリー様が、立ち上がった。
「はい、キャウリー様」
私も、立ち上がって、お辞儀をした。
キャウリー様が食堂をを出て行った。
今日は色々あったなぁ。
街に行って、
ヤマメを食べて、
揚げ餅を食べて、
カルヴァン様に会って、
面倒だったけど本当に、楽しかった。
そして、キャウリー様の言葉。
運命。
全ては、運命。
私が、ここにいるのも。
これから、何が起こるのかも。
全部、運命。
そう思うと明日は、何があるんだろう、とワクワクしてくる。
明日にワクワク出来る自分に、驚いた。
お母様が亡くなってから、明日、というのが苦痛で、辛かった。
明日は失敗しないように。
明日はちゃんとさっと出来るように。
明日は殴られないように。
明日は少しは好きになってもらえるように。
明日は私に自由ができるように。
明日は・・・
いつも、何かを願って。
いつも、怯えて。
いつも、不安で。
明日が来るのが、怖かった。
また、お姉様に罵られるんだ。
また、お義母様に冷たくされるんだ。
また、お父様に叩かれるんだ。
そう思うと、夜が来るのが怖かった。
夜が来たら、また明日が来る。
また、あの辛い一日が始まる。
だから、眠れなかった。
眠ったら、朝が来る。
朝が来たら、また地獄が始まる。
必死にもがいて。
必死に耐えて。
必死に生きていた。
ただ、生きるだけで精一杯だった。
でも、今は違う。
明日が、楽しみ。
明日が、待ち遠しい。
こんな気持ち、お母様が亡くなってから、初めて。
いや、もしかしたら、生まれて初めてかもしれない。
明日、何があるんだろう。
明日、誰と話すんだろう。
明日、何を作ろうかな。
ワクワクする。
こんな風に、明日を待つことができるなんて。
胸が、温かくなった。
また、涙が、出そうになった。
ここに来てなんだか涙脆くなった気がする。
でも、嫌じゃない。
サヴォワ家にいた頃は必死に涙を我慢していたのに、この涙は、我慢したくない。
私、少し、変わった。
辛い日々に必死にもがき生きていた自分が、
毎日を怯えて過ごしていた自分が、
明日が楽しみになっている。
もう、明日を怖がらなくてもいい。
窓の外を見ると、暗くなっていた。
星が、輝いている。
綺麗だな。
昔は、星を見る余裕もなかった。
いっつもしたばかり向いて、急いで屋敷に帰っていた。
でも、今は星を見る余裕がある。
このままずっとこの時間が続けばいい、と私は心底願った。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

私の作るおにぎりが、騎士団の士気を異常に上げています(犯人は副団長)

星乃和花
恋愛
おにぎりを配っただけで、騎士団の士気が異常値になりました。 団長は警戒、監察部は呪術検査、国まで動きかけるのに――副団長だけが平然と断言。 副団長「彼女のご飯は軍事物資です」 私「えっ重い」 胃袋で落ちた策略家副団長の“最適化溺愛”に巻き込まれ、気づけば専属補給係(=婚約)寸前!? ほのぼの爆笑&甘々の騎士団ラブコメです。 (月水金21:00更新ー本編16話+後日談6話)

私と義弟の安全は確保出来たので、ゆっくり恋人を探そうと思います

織り子
恋愛
18歳で処刑された大公家の令嬢、セレノア・グレイス。 目を覚ますと――あの日の6年前に戻っていた。 まだ無邪気な弟ルシアン、笑う両親。 再び訪れる“反逆の運命”を知るのは、彼女だけ。 ――大公家に産まれた時点で、自由な恋愛は諦めていた。だが、本当は他の令嬢達の話を聞くたびにうらやましかった。人生1度きり。もう少し花のある人生を送りたかった。一度でいいから、恋愛をしてみたい。 限られた6年の中で、セレノアは動き出す。 愛する家族を守るため、未来を変えるために。 そして本当の願い(恋愛)を叶えるために。

エミリーと精霊

朝山みどり
恋愛
誰もが精霊と契約する国。エミリーの八歳の誕生日にやって来たのは、おもちゃのようなトカゲだった。 名門侯爵家の娘としてありえない恥。家族はエミリーをそう扱った。だからエミリーは居場所を得るために頑張った。役に立とうとした。

家族の靴を磨いていた私が、実は【神の加護を磨き上げた聖女】だった件。隣国の冷徹皇帝に「君の献身は世界を救う」と誘拐、24 執着されています

唯崎りいち
恋愛
「お前は一生、靴でも磨いていろ」 家族に虐げられ、靴を磨き続けた私。 実はその靴、磨くたびに『神の加護』が宿る聖具になっていました。 噂を聞きつけた隣国の冷徹皇帝に、出会い頭にさらわれて―― 「君は俺のものだ。24時間、指一本触れさせない」 靴を履かせてもらえず、移動は常に皇帝の腕の中!? 磨き上げた加護のせいで、皇帝の執着が神レベルに育ってしまう溺愛物語。

一度目で黒狼公に討たれた私ですが、二度目の夜はお父様のそばでしか眠れません

師走
恋愛
八歳の冬、リリア・ヴァルグレイは父に殺された。 王国最強の討魔貴族――黒狼公レオンハルト・ヴァルグレイ。 人にも魔にも容赦のないその男は、黒花の災厄に呑まれかけた実の娘を、自らの手で討ったのだ。 けれど次に目を覚ました時、リリアは赤ん坊に戻っていた。 もう二度と、お父様に剣を向けられたくない。 そう願うのに、夜になるとまた黒花の囁きが忍び寄る。甘くやさしいその声は、孤独な心に触れて、静かに破滅へと導こうとする。 そして、その囁きがぴたりと止むのは――世界でいちばん怖いお父様のそばだけだった。 一度目の父は、同じ城で暮らしていても遠い人だった。 リリアを見ない。抱かない。呼びもしない。 そのくせ二度目の父は、相変わらず冷たいまま、なぜか夜ごとリリアを放っておいてくれない。侍女を替え、部屋を守らせ、怯えて眠れない娘を黙って自分の近くへ置いてしまう。 人にはあれほど容赦がないのに、リリアにだけ少しずつおかしくなっていく。 怖い。近づきたくない。 それでも、その腕の中でしか眠れない。 またあの冬が来る。 また同じように、黒花はリリアを呑み込もうとするかもしれない。 今度こそ囁きに負けないために。今度こそ父に剣を抜かせないために。 一度目で父に討たれた娘は、二度目の人生でもっとも恐ろしいその人のそばへ、自分の意志で手を伸ばしていく。 小説家になろう様でも掲載中

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

さようなら、私を「枯れた花」と呼んだ貴方。~辺境で英雄を救って聖女と呼ばれたので、没落した元婚約者の謝罪は受け付けません~

阿里
恋愛
「お前のような見栄えの悪い女は、俺の隣にふさわしくない」 婚約者アレクに捨てられ、辺境へ追いやられたセレナ。 けれど、彼女が森で拾ったのは、アレクなど足元にも及ばないほど強くて優しい、呪われた英雄ライアンだった。 セレナの薬草が奇跡を起こし、王都を救う特効薬となったとき、かつて自分を捨てた男との再会が訪れる。 「やり直そう」と縋り付くアレクに、セレナは最愛の人と寄り添いながら静かに微笑む。 ――あなたが捨てたのは、ただの影ではなく、あなたの未来そのものだったのですよ。

夫に用無しと捨てられたので薬師になって幸せになります。

光子
恋愛
この世界には、魔力病という、まだ治療法の見つかっていない未知の病が存在する。私の両親も、義理の母親も、その病によって亡くなった。 最後まで私の幸せを祈って死んで行った家族のために、私は絶対、幸せになってみせる。 たとえ、離婚した元夫であるクレオパス子爵が、市民に落ち、幸せに暮らしている私を連れ戻そうとしていても、私は、あんな地獄になんか戻らない。 地獄に連れ戻されそうになった私を救ってくれた、同じ薬師であるフォルク様と一緒に、私はいつか必ず、魔力病を治す薬を作ってみせる。 天国から見守っているお義母様達に、いつか立派な薬師になった姿を見てもらうの。そうしたら、きっと、私のことを褒めてくれるよね。自慢の娘だって、思ってくれるよね―――― 不定期更新。 この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

処理中です...