何も言わずメイドとして働いてこい!とポイされたら、成り上がり令嬢になりました

さち姫

文字の大きさ
26 / 33

第26話キャウリー目線

しおりを挟む
「それで、教えて貰えるか」
二人をあえて外に出し、答えを求める。
サロンの空気が、一変した。
さっきまでの和やかな雰囲気が消え、冷え冷えとした緊張が漂う。
キャンドルの炎が、揺れる。
その質問に、嫌な、否、久しぶりに見る陰険な笑いを見せ、スクルトはワインを一口飲んだ。
グラスを置く音が、静寂に響く。
「博打好きが起こしたこの件、下り坂もいい所だぜ」
スクルトが獲物を見つけた高揚感のような、低く凄みを孕んだ声で言う。
「投資好きらしいがよ、先を見据えて動いてるつもりだろうが、いかんせん、投資ってのは程々が肝心なんだよ。ハマっちまったらもう終わりだ。転がり落ちるだけだぜ。まさにその典型だな」
薄ら笑いを浮かべながら、楽しそうに言うが、目が狡猾な鋭さを見せる。
「スクルト・・・もう少し柔らかい物腰で言って貰えるか?威圧感を出して言うのはやめてくれ。つまり、かなり赤字の財政なんだな」
私が、ため息をつきながら言った。
「おや、それこそがスクルト殿の本領ではございませんか。彼の頃暗躍の任を担っておられたのですから。故にして、宰相という職は彼の天職と言えましょう」
ウイニーが、一言一言を噛みしめるように言った。
その目が、冷たい。
「ウイニー、お前が言うと、全て罪人に聞こえる」
「罪人でございます」
一言でバッサリ切るところが、ウイニーだ。
優しい笑顔の下に、氷のような冷たさ。
奥方達は、既に奥方だけで隅に固まり、雑談に興じている。
よくできた奥方ばかりだ。
いや、そうでなければ、こいつらの奥方には、なれないな。
私は、例外としておこう。
「つまり、没落は目に見えているのか?」
私が、円卓の中央を見ながら聞いた。
「スクルトから見せてもらった調査だと、このまま行けば確実に没落だ。ただ、持っている事業は悪くない。上手く回せば化ける可能性はある」
ベジットが、細い指でワイングラスを回しながら言った。
「私なら簡単だがな」
そう言って、薄ら笑いを見せた。
その笑みが、不気味だ。
「それとよ、娘が美人だって噂が飛んでるんだ。シャーリーの双子の姉だろ?シャーリーを見りゃ分かるぜ、噂は本当だ。いっそその姉を餌にしてよ、金持ち貴族から金を引っ張るってのが手っ取り早いだろうな」
スクルトが、獲物を品定めするような目で言った。
「・・・スクルト、お前が言うと何故か下品にしか聞こえん」
私が、眉をひそめた。
「はっ。それも手だろうが。お前が甘ちゃん過ぎんだよ。ただよ、男を手玉に取るにはそれなりのあざとさが要るんだ。まあ、そんなもん持ち合わせちゃいねえだろうがな。だが上手く使えばいい手駒になるな」
スクルトが、鼻で笑う。
「それとヨークシャー伯爵家の次男が姉とシャーリーとも仲がいいって聞いた」
スクルトの言葉に、それは頼んでいないが、恐らくシャーリーの男関係が気になったのだろうな。
それ以上何も言わないという事は、何も無かったのだろう。
そうでなければ、カルヴァンには勧めんだろう。
「ヨークシャー・・・伯爵家・・・でございますか。確か・・・その名は・・・私の・・・招待客の・・・一人に・・・おりましたな」
グリニジが、シャーリーお手製のつまみを気に入ったようで、また食べている。
テーブルの上には、シャーリーが作ったつまみが並んでいる。
揚げ餅。
醤油と砂糖で甘辛く味付けした、カリカリの揚げ餅。
海苔を巻いて、ごまを振ってある。
シンプルだが、止まらない美味さだ。
小さく切ったセロリとラディッシュを、レモンと塩でマリネしたもの。
軽く漬けただけの、さっぱりとした一品。
歯ごたえが残っていて、酒の合間に丁度いい。
オリーブをガーリックとハーブ、オリーブオイルで和えたもの。
ほんのりと香草の香りがあり、芳醇。
枝豆のペペロンチーノ風。
茹でた枝豆に、ニンニクと唐辛子、オリーブオイルを絡めたもの。
これが、ワインに合う。
クリームチーズをハーブ入りのオイルに漬け込んだもの。
濃厚で、深い味わい。
クラッカーに塗っても美味い。
どれも、時間をかけずに作れる、懐かしい家庭的なつまみ。
酒が進む。
グリニジは、三回目のお代わりだ。
食べ過ぎだし、飲みすぎだろうが。
「親密なる関係にございますか?」
ウイニーが、片眉をあげながら質問した。
「いや・・・何かの折に・・・知り合った・・・程度で。大した家では・・・なかったと・・・記憶してる」
グリニジは然程考えることも無く答えた。だが、招待客に入れた場合、余程のことが無い限り、外されることは無い。
「なるほどな。あとは、ハザードからの報告がある」
私が、皆を見回し、背後に控えるハザードと目が合ったが、無表情に返されただけだった。
顔を皆に戻した。
「ハザードを使ったのかよ?お前が、わざわざ?」
スクルトが、興味深そうに目を細めた。
「ああ」
私は、ワイングラスを置いた。
「シャーリーは、あの家で虐待されていた。物扱いだ。食事も満足に与えられず、部屋は物置同然。姉と比較され、罵倒され、存在を否定され続けていた」
誰もが、黙って聞いていた。
「そして、新しい母親。あの女は、実は亡くなった母の頃から、サヴォワ伯爵と付き合っていた」
「ふうん・・・よくある・・・話ですな。つまり・・・不倫相手だった・・・という・・・ことで・・・ございますか」
グリニジが、ゆっくりと、冷たく言った。
「ああ。そして、あの女は計算高い。いずれ自分が産む子供を、サヴォワ伯爵に可愛がってもらうために、既に虐められていたシャーリーの存在を利用した。シャーリーをさらに虐げることで、自分の立場を固め、いずれ産まれる自分の子供への愛情を独占しようとしたんだ」
「如何なる時代においても己の私欲に駆られた者は他者を踏み躙ってまでも我欲を貫徹せんとするものでございますな」
ウイニーの言葉に誰もが嫌悪感を露わにした。
「つまり、捨て駒、だ」
己で言い放ってから、ああ、そうか、と得心した。
だから、私は気になったのだ。
あの子は、ハザードと似た境遇をもっていた。
実の親に、モノ扱いされ、捨て駒にされ、それなのに、愛情を求めていた。
どれだけ不遇に扱われても、親は、親だ。
そこに子は、消え入りそうな糸でも、必死に食らいつく。
だが、
既に出来上がった人間の思想は、相手が血が繋がろうが関係ない。
親は、
安易に、
子を捨てる。
ハザードはシャーリーを見て、何か感じたのかもしれない。
だから、彼女の肩を持ち優しかったのかもしれない。
ハザードは、シャーリーの中に、かつての自分を見たんだろう。
そう思うと、胸が痛くなる。
ハザードは今は幸せなのだろうか、とまた詮無いことを思う己が嫌になる。
「それでよ、どうすんだ」
促すようにスクルトが言いながら、チラリとハザードを見た。
誰もが、そこに何を意味するのか知っていた。
「似てるんだろ?そうなりゃよ、ひとたび情が移ると離せねえんだろうが」
まるで、全てを見透かすような瞳が一斉に私に降りかかる。
「そこは否定はしない。それに、この短い間で、シャーリーが人間として優れている事は理解した。それに屋敷の召使い達全員が、シャーリーを、好いている」
何よりも、私がシャーリーの料理を気に入っている。
この揚げ餅も、シャーリーが作ったものだ。
「左様にございますな。甘やかされ育った貴族など悪虫以外に何の利用価値もございません。外界の実相を知悉する貴族は稀少でございますからな」
ウイニーの丁寧だが嫌味を込めた言葉に、私も同じ気持ちだ。
王族、上級貴族が外の世界を知っていれば、戦は起こらなかった。
沈黙が、降りる。
重い、沈黙。
誰もが、同じことを思っているのだろう。
キャンドルの炎が、また揺れた。
「皆様、とりあえず、シャーリー様の気持ちを確認する事が大事でございます」
ハザードが静かに声を上げた。
「あんたがそれを言うのかよ?捨てる親はその程度だ、と知ってる筈だろうが」
スクルトが冷たく切り捨てた。
だが、ハザードは無表情のままだ。
「仰る通りでございます。しかし子はいつまでも、情は捨てられません。だからこそどう動くかをご自分で決めるのです」
ハザードの言葉の内容が重たい。
「ハザードの言う通り、シャーリーがどの答えを出すのか、協力は仰ぎたい」
私が、静かに言った。
「構わねえぜ。ただよ、久しぶりに楽しくなりそうだな」
スクルトが、くくっと喉を鳴らし、なんとも恐ろしい笑みを浮かべた。
その笑みが、まるで獣のよう。
「同様にございます。如何なる答弁であろうとも報復は必要不可欠かと存じます」
ニコニコと柔和な笑みの下の、凍てつく眼差しのウイニーに、誰もが静かに頷いた。
その目が、怖い。
本当に、怖い。
優しい顔をして、一番恐ろしい。
「では・・・サヴォワ伯爵に・・・サイコロを・・・投げて・・・やりましょうか」
グリニジが、ゆっくりと、冷たく言った。
「ああ。法の範囲内で、な」
ベジットが、薄く笑った。
「当然だ」
イエガーが、頷いた。
円卓の周りの空気が、冷たい。
まるで、氷の部屋にいるような。
これが、この五人の本当の姿。
戦場を生き抜いた、五人の姿。
「では、決まりだな」
私が、言った。
「ああ」
全員が、頷いた。
その目が、同じ色をしていた。
冷たく、鋭く、容赦ない。
私の敵は、皆の敵だ。
「では、そのお礼としてこれを」
ハザードが静かに、皆に紙切れを渡し出した。
皆が訝しげの顔で紙切れを広げ、皆が驚きの顔になった。
「おいおい、お前どこから仕入れやがった」
スクルトが唸る。
「造作もない事でざいます。お礼には不十分でございましょうか?」
ハザードが静かに微笑むと、皆が十分だ、と心底楽しい、いや、嫌な笑いを出した。
後で内容を聞いたが、
スクルトには、隣国の王子の醜聞。王位継承を巡る陰謀と、宰相として知っておくべき外交上の弱点。これがあれば、次の交渉で優位に立てる。
ウイニーには、王宮内の不正な宗教団体のリスト。祭祀大臣として、表向きは慈善を謳いながら裏で貴族から金を巻き上げている偽教団の証拠。これで一掃できる。
ベジットには、複数の貴族の隠し資産と脱税の証拠。財務大臣として、長年追っていた悪質な脱税貴族たちの海外口座情報。これで財政を正せる。
グリニジには、過去に無罪となった貴族の冤罪事件の真犯人情報。法務大臣として、司法の汚点となっていた未解決事件の決定的証拠。これで正義を取り戻せる。
全てが、それぞれの立場で喉から手が出るほど欲しかった情報だった。
ふっ。
一番恐ろしいのは、やはり君だな、ハザード。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

氷狼魔術師長様と私の、甘い契約結婚~実は溺愛されていたなんて聞いていません!~

雨宮羽那
恋愛
 魔術国家アステリエで事務官として働くセレフィアは、義理の家族に給料を奪われ、婚期を逃した厄介者として扱われていた。  そんなある日、上司である魔術師長・シリウスが事務室へやってきて、「私と結婚してください」と言い放った!  詳しく話を聞けば、どうやらシリウスにも事情があるようで、契約結婚の話を持ちかけられる。  家から抜け出るきっかけだと、シリウスとの結婚を決意するセレフィア。  同居生活が始まるが、シリウスはなぜかしれっとセレフィアを甘やかしてくる!? 「これは契約結婚のはずですよね!?」  ……一方セレフィアがいなくなった義理の家族は、徐々に狂い始めて……? ◇◇◇◇  恋愛小説大賞に応募予定作品です。  お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます( . .)"  モチベになるので良ければ応援していただけると嬉しいです! ※この作品は「小説家になろう」様にも掲載しております。

元男装傭兵、完璧な淑女を演じます。――嫁ぎ先はかつての団長でした!?

中野森
恋愛
貧乏男爵家の長女クラリスは、弟の学費を稼ぐために男装して傭兵団へ入団した。 副団長にまで上り詰め、団長をはじめとした仲間から信頼を得るが、決して正体は明かさなかった。 やがて戦争が終わり、傭兵団は解散となる。 出稼ぎするために流した嘘の悪評により、修道院入りを覚悟していたクラリスだったが、帰郷した彼女を待っていたのは父からの「嫁ぎ先が決まった」という一言だった。 慌ただしく始まる淑女教育、そして一度も未来の夫と顔合わせすることなく迎えた結婚式当日。 誓いの言葉を促され隣からきこてくる声に、クラリスは凍りつく。 ……嘘でしょ、団長!? かつての想い人でもある傭兵仲間が今は夫となり、妻の正体には気づいていない――気づかれてはいけないのだ、絶対に! 本作品はゆるふわ設定、ご都合主義、細かいことは気にしたら負け! ※この小説は、ほかの小説投稿サイトにも投稿しています。

追放された王女は、冷徹公爵に甘く囲われる

vllam40591
恋愛
第三王女エリシアは、魔力も才覚もない「出来損ない」として、 婚約破棄と同時に国外追放を言い渡された。 王家に不要とされ、すべてを失った彼女を保護したのは、 王家と距離を置く冷徹無比の公爵――ルシアン・ヴァルグレイヴ。 「返すつもりだった。最初は」 そう告げられながら、公爵邸で始まったのは 優しいが自由のない、“保護”という名の生活だった。 外出は許可制。 面会も制限され、 夜ごと注がれるのは、触れない視線と逃げ場のない距離。 一方、エリシアを追放した王家は、 彼女の価値に気づき始め、奪い返そうと動き出す。 ――出来損ないだったはずの王女を、 誰よりも手放せなくなったのは、冷徹公爵だった。 これは、捨てられた王女が 檻ごと選ばれ、甘く囲われていく物語。

リトライさせていただきます!〜死に戻り令嬢はイケメン神様とタッグを組んで人生をやり直す事にした。今度こそ幸せになります!!〜

ゆずき
恋愛
公爵家の御令嬢クレハは、18歳の誕生日に何者かに殺害されてしまう。そんなクレハを救ったのは、神を自称する青年(長身イケメン)だった。 イケメン神様の力で10年前の世界に戻されてしまったクレハ。そこから運命の軌道修正を図る。犯人を返り討ちにできるくらい、強くなればいいじゃないか!! そう思ったクレハは、神様からは魔法を、クレハに一目惚れした王太子からは武術の手ほどきを受ける。クレハの強化トレーニングが始まった。 8歳の子供の姿に戻ってしまった少女と、お人好しな神様。そんな2人が主人公の異世界恋愛ファンタジー小説です。 ※メインではありませんが、ストーリーにBL的要素が含まれます。少しでもそのような描写が苦手な方はご注意下さい。

前世で追放された王女は、腹黒幼馴染王子から逃げられない

ria_alphapolis
恋愛
前世、王宮を追放された王女エリシアは、 幼馴染である王太子ルシアンに見捨てられた―― そう思ったまま、静かに命を落とした。 そして目を覚ますと、なぜか追放される前の日。 人生、まさかの二周目である。 「今度こそ関わらない。目立たず、静かに生きる」 そう決意したはずなのに、前世では冷酷無比だった幼馴染王子の様子がおかしい。 距離、近い。 護衛、多い。 視線、重い。 挙げ句の果てに告げられたのは、彼との政略結婚。 しかもそれが――彼自身の手で仕組まれたものだと知ってしまう。 どうやらこの幼馴染王子、 前世で何かを盛大に後悔したらしく、 二度目の人生では王女を逃がす気が一切ない。 「愛されていなかった」と思い込む王女と、 「二度と手放さない」と決めた腹黒王子の、 少し物騒で、わりと甘い執着政略結婚ラブストーリー。

婚約破棄された私が辺境で薬師になったら、元婚約者が後悔し始めました

たくわん
恋愛
病弱で役立たずと侮られ、婚約破棄されて辺境の寒村に追放された侯爵令嬢リディア。しかし、彼女には誰も知らない天才的な薬学の才能があった。絶望の淵から立ち上がったリディアは、持ち前の知識で村人たちの命を救い始める。やがて「辺境の奇跡の薬師」として名声を得た彼女の元に、隣国の王子レオンハルトが研究協力を求めて現れて――。

番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

無能な私を捨ててください!と婚約破棄を迫ったら溺愛?

萩月
恋愛
公爵令嬢のルルナには悩みがあった。それは、魔力至上主義のこの国で、成人を過ぎても一切の魔力が開花していない「無能令嬢」であること。 完璧超人の第一王子・アリスティアの婚約者として相応しくないと絶望した彼女は、彼を汚点から守るため、ある決意をする。 「そうだ、最低最悪の悪役令嬢になって、彼に愛想を尽かされて婚約破棄されよう!」

処理中です...