何も言わずメイドとして働いてこい!とポイされたら、成り上がり令嬢になりました

さち姫

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第28話演劇1

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演劇はとても楽しかった。
それに劇場も素敵で、豪華なシャンデリアが輝き、天井には美しい天使の絵が描かれている。
赤い絨毯が敷かれた階段を上り、貴賓席へと案内された。
勿論初めて案内された貴賓席だ。
限られた貴族しか使用できない、特別な席。
厚いカーテンで仕切られた、完全に独立した空間。
豪華なソファのような椅子が置かれていて、座り心地が全然違う。
小さなテーブルが前にあり、飲み物が用意されている。
それも、そばに氷に入れられたワインや果汁の瓶が何本も準備されていた。
カルヴァン様の地位の高さを、改めて実感する。
絶対にサヴォワ家では、手に入れられないチケットだ。
流石カルヴァン様、と感心する気持ちと、私がこんな場所に来ても良かったのだろうか、と不安な気持ちになった。
私なんかと来て、今更後悔してるのかもしれない。
周りを見て、場違いな女だ、と思っているかもしれない。
押し寄せる不安。
けれど、逆に貴賓室で他の方がいなかったお陰でそんな不安な顔をカルヴァン様に見られなくてよかった、と思った。
今どんな気持ちか分からないが、それでも一緒に来たのに、笑えない女を見て楽しいと思えるわけが無いもの。
席は豪華なソファという感じで、一緒に座ることになったが、そこはお互い少し離れて座った。
私は、今日のために仕立てられた淡いラベンダー色のドレスを着ている。
勿論、絶対高いという代物だ。
こんなドレス大袈裟だよ、とハザードに笑いながら言ったら、般若の顔されて、無言の圧に、何も言えなかった。
けど帰ったらちゃんとお礼言っとこう。
正しかったよハザード。ありがとう、と。
このありがとう、は絶対に間違ってない、と言える。
劇場の中を見るとかなり華美なドレスを着ている女性が多かった。
私が安易に考えで、適当なドレスを着てきてしまったら、この場所に不似合いで、
そしてカルヴァン様に迷惑がかかった。
こういうことを考えてハザードは用意してくれたんだ、と思うと、
すみません、
はおかしい。
私の気持ちは、よかった、嬉しい。
それなら、
ありがとう、
だ。
いつも無駄な事をせず、そして間違いのないハザードに、感服する。
ちなみにカルヴァン様は、深い紺色の正装に身を包んでいる。
襟元には銀の刺繍が施され、胸元には家紋の入ったブローチが輝いている。
白い手袋をはめ、黒いブーツは磨き上げられている。
紺碧の髪が整えられ、銀の瞳が神秘的に光っている。
完璧な、上級貴族の装いで、正直かっこいい、と思って少しだけだけど、ドキドキした。
だって、こんな人にエスコートされるなんて、本当に思いもしなかったもの。
「さあ、始まるぞ」
カルヴァン様が、席にゆったりと座りながら優しく言った。
言われて前を見ると、幕が上がりだした。
幕が上がると舞台には、美しい貴族の邸宅が作られていた。
物語が、始まった。
貴族に生まれた女性と、商人という庶民で生まれた男性が、偶然出会い、愛し合っていく、身分違いの恋物語。
女性役の女優は、優雅で美しく、声も澄んでいる。
男性役の男優は、力強く、情熱的。
二人の演技に、引き込まれる。
女性には、決められた婚約者がいて、家柄、家の事業の関係で、破棄することは出来ない。
男性も、あまりに身分が違いすぎて、女性を幸せにすることが出来ないのは理解しているが、愛し合っている2人。
切なく、それでいて、幸せな時間に
「もしかしたら」
と2人は必死に奮闘していく。
舞台の照明が、二人を照らす。
音楽が、切なく響く。
女性が、涙を流しながら、男性に別れを告げる場面。
男性が、それでも彼女を愛していると叫ぶ場面。
胸が、締め付けられる。
涙が、溢れてくる。
ハンカチを取り出して、そっと目元を拭く。
しかし、結局は結ばれない悲話で終わった。
二人は、最後まで愛し合いながらも、別々の道を歩む。
女性は、決められた婚約者と結婚し、男性は、遠い街へと旅立つ。
最後の場面で、二人が遠くから見つめ合う姿が、切なすぎる。
ハンカチが涙で濡れながらも、とても満足した。
素晴らしい演劇だった。
勿論大喝采で、幕がおり、また上がると舞台に出演者たちが出てきた。
それを見てまた、手が痛くなるほど拍手してしまった。
ここで泣き顔が恥ずかしいと思う状況にはならなかった。
だって・・・、くうくうと気持ち良さそうに寝ているカルヴァン様がいる。
え?
本気で、寝てるの?と呆れてしまった。
始まるぞ、の後に、
「俺こういうの興味ないから」
とすぐ言われ、寝てしまった。
冗談でしょ、と思ったのに、マジ、だった。
なんだかなあ。
やっぱり変わった人だな。
せっかく正装して、こんな素敵な席に連れてきてくれたのに、寝るなんて、つい笑ってしまった。
軽く化粧を整え、ハンカチで目元を拭いて、カルヴァン様の肩を叩いた。
「終わりましたよ」
「うん?そうか、面白かったか?」
目を擦りながら、カルヴァン様が背伸びをしながら起きた。
「はい。満足しました」
本当に、良かった。
「それは、良かった。では、出ようか」
カルヴァン様が背伸びし立ち上がった。
その瞬間、髪を軽く直し、服の皺を伸ばす。
「はい」
席を離れると、カルヴァン様の雰囲気が一瞬にして変わる。
先程までの、気軽さは姿を消し、気品溢れる出で立ちになる。
背筋が伸び、表情が引き締まる。
誰かから声をかけられると軽く微笑み、優雅に挨拶される。
「カルヴァン様、お久しぶりです」
「ああ、お久しぶりです」
流石だ。
完璧な、上級貴族の振る舞いに圧倒される。
席に座ると直ぐに「俺興味ないから」と言われたあの姿からは想像がつかない。
けど、なんだか楽になる。
完璧な人間なんていないもんね。
劇場を出ると、夕暮れのオレンジ色の光が優しく差し込んでいる。
人々が、三々五々と劇場から出てくる。
話し声が、あちこちから聞こえ、華やかな雰囲気が演劇の興奮がまだ冷めてない。
本当に楽しかった。
でも、これから行く所も私にとっても本番よ。
楽しみ、と馬車が、待っている場所に向かった。
その時だった。
・・・?
誰かに、見られている?
なにか、聞こえた?
背中に、視線を感じる。
「シャーリー?」
足を止め周りを見る私に怪訝そうにカルヴァン様が名を呼んだ。
「・・・呼ばれたような気がして・・・。気のせいですね。顔見知りはいませんもの」
周りを見回したが、知っている顔はいなかった。
貴族たちが、ぞろぞろと劇場から出てくる。
華やかなドレスや、正装の男性たち。
でも、知っている人は、誰もいない。
「そうか。では、行こう」
カルヴァン様が、私の手をとり、また歩き出した。
「はい」
馬車に乗り込む。
この後は夕食です!
とても楽しみです!!
馬車が、ゆっくりと動き出す。
窓の外には、夕暮れの街が広がっていて、石畳の道を、馬車の車輪が軽やかに進む。
街灯に、灯が灯り始めている。
美しい景色を見ながら、レストランに向かった。


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