プライベート・スペクタル

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第二章

第九節

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「しかし…私が言うのもなんですが、そのようなもので良かったのですか?」
「うぃ…好きなので……」
かくして見ず知らずの男性にご飯をご馳走してもらうことになったエイプリル。
夜の繁華街、数多の飲食店が並ぶなか彼女が選んだのは…コンビニで売られていた総菜コロッケであった。
購入し繁華街内にある公園へと向かう二人。どこか適当なベンチを見繕い座って食べ始める。
「…うぃ、おいしいです(もぐもぐ…)」
少し笑みを浮かべ食べ進めるエイプリル。大和と共に購入したものには劣るような気もするが、良しとして食べ進める。
「良い食べっぷりですね…こちらもご馳走したかいがあった」
「貴方は食べないのですか?」
「私は大丈夫ですよ…いえいえ満腹というわけでもコンビニのものだからという意味でもありません。しかし良かった…」
「何がです?」
「貴方がソレを口へ一口また一口と運ぶたびに私の中の罪悪感というモノが薄れていきますので…」
「…?(もぐもぐ)」
言葉の最後の部分が理解できなかったエイプリル。ぶつかって倒してしまったという事なのだろうかと勝手に解釈する。
「ああそういえば名乗っておりませんでしたね。私は太蔵たいぞう。フリーランスで仕事を請け負っている者です」
「うぃ…太蔵さん。エイプリルです」
「エイプリルさんですか……変わった名前ですね、ひょっとして海外の方ですか?でしたら日本語が大変にお上手で…」
「……う、うぃ…ありがとうございます」

ここまで語ることは無かったが【星】について一点。
彼、彼女ら【星】は覚醒の瞬間から言語の壁がというモノが完全に崩壊する。
例として日本人が日本語で英語圏の人間に話しかけ、相手が英語で応じたという仮定で考えるとしよう。
互いに言葉が通じることは無い状況、だがどちらか一方が【星】の場合、日本人には相手の英語が流暢な日本語に聞こえ、逆に英語圏の人間には日本語が流暢な英語のように聞こえる。
まるで映画の吹き替えのような、こちらがどんな言語を用いようと相手には通じるし相手もまた然りというわけである。

男性、太蔵の賛辞に何の労も得ずに身に付いたモノであるが故にエイプリル気マズイ表情で応じる。
「……しかし…何かあったのですか?貴方のような幼い娘がたった一人でこんな場所を歩き回るとは……」
「それは…何でもないです」
無関係な一般人であろう太蔵に【星】の事を言っても仕方がないと思うのと、本当に何もないのでそう返すエイプリル。
「そうですか」と太蔵も納得した。
「………良いですね…すごく良いですよ……」
また訳の分からないことを呟く太蔵。その言動に今になってエイプリルは気味の悪さのようなものを感じ始める。
(そういえば、この人の格好……特に外套部分なんてどこかで見たような……確か……師匠と戦った『爆炎』さんとよく似た…………ッツ!!?)
感じた感覚はどんどんと膨らんでいく。
そんなエイプリルに太蔵はずいっと顔を近づける。
「それではエイプリルさん。単刀直入によろしいですか?」
「う、うぃ……」
「今、この瞬間、貴方は一人でこの場所にやって来たのですねッ!?」
「そうですが………」
「周囲に知り合いは一人もいないという事ですねッ!?」
本当にマズイ……今になってわかる。

「『龍王』や『鬼神』はいないという事ですねッ!!?」

この男は【こちらがわ】の存在だと…。
そしてこんな状況で尋ねてくる以上、敵なのだと……。
「ッツ!?」
即座に距離を取るエイプリル。杖を構える。
だが、そんなエイプリルを見つつも彼は安堵の表情を浮かべる。
「ああ良かった…君のその言葉で肩の荷というモノが完全に降ろせたよ…あの怪物共と戦うなんて殊勝な蛮行『爆炎』がやればいい…ああ本当に良かった」
「貴方の目的は…一体どうして私に近づいたんです!?」
「話さないと駄目ですか?『爆炎』の言葉だけで敵だという事が分かるはずです……そして敵では……」
「【星具】ですか…」
「ええはい、そうですよ【星具】…そちらを寄越して下さい…それを簡単にするために『龍王』や『鬼神』ではなく弱い貴方を狙っているんですから………」
「……ッ…」
「しかし、本当に良かった。数時間前に起きた『爆炎』と『龍王』の戦い。そこで貴方の姿を目にし、突くならここだ…と即座に悟りました。ですが、かなりの時間待たなければ覚悟はしましたが…僅かな時間でマヌケにもノコノコ出て来て下さるとは……」
「という事はぶつかったのは……」
「ええはい勿論ワザと…ですよ……私の第一印象を良いモノにしたいということで罪滅ぼしのコロッケも奢らせていただきました」
「最低ですね……」
「ええはい…その言葉待ち望んでおりましたとも」
イヤらしい笑みを浮かべる太蔵。
(おそらく負ければ、【星具】を引き渡す為の交渉の材料に使われる…)
自分の軽率な行動でこんなピンチを招いてしまった事に歯噛みをするエイプリル。何としてもここで彼を倒さなければならなかった。
(ですが、今の未熟な私に可能なのでしょうか…?誰かが後ろで見守ってくれるはずもない、一対一の戦いが今回初めての私に……)
『大丈夫だ将軍……』
また聞こえた声。だが、そんな事よりも今は目の前の太蔵だとエイプリルは杖を固く握りしめる。
「ではでは」
楽しそうにそう言って外套の内から己が武器を取り出す太蔵。手にしたものはスコップまたはショベルと呼ばれる両手持ちの穴掘り用の用具であった。
「知っておりますか?昔の戦争で塹壕や穴倉の中で一番人を殺したのはこれなのですよ…とッ!!」
言ってエイプリルに向かう太蔵。【星】の超人的な脚力で弾むように高速で接近しスコップを振るう。
何とか杖で受けるエイプリル。だが、膂力や体格差により容易く吹き飛ばされる。
「あうッ!……んんん……」
ゴロゴロと転がるエイプリル。
何とか立ち上がるが、その時にはすでに太蔵が追撃の為に跳躍していた。
「シャァ!」
突き刺す様に振り下ろされるスコップ。エイプリルは後方に跳ぶ形で躱す。
すると地面に刺さった次の瞬間、刺さった地面に大穴が穿たれた。
半径1メートル程度。まるで文具のパンチで開けたようなキレイな穴である。
「コレは【演目】ですかッ!?」
「ええはい、そうですよッ!」

【演目】『掘っては潰すディグダグ

「私自慢のこのスコップ。コレで開けた穴を巨大化させる…それが私の【演目】『掘っては潰すディグダグ』ですッ!」
「無茶苦茶ですね…」
「ええはい…何も知らない第三者から見たらそうでしょう。ですが貴方は【星】。ならそのような感想は恥知らずと知りなさい」
「…考えておきましょう」
「まあそう悲観的にならないで良いですよ…人質にする故、致命傷とするような穴は空けませんし……それにこの柄に刻まれた傷の回数のみしか一日に使用出来ませんからね」
格下と戦闘しているという余裕か……はたまた優越感か、スコップを掲げながらそう高説を垂れる太蔵。それを聞かずにエイプリルは杖を振りかぶる。
「やぁああああああッ!」
杖を振るうエイプリル。だが、太蔵に易々と受け止められると逆に殴り飛ばされた。
「あうッ!」
「そんなか弱そうな悲鳴を上げないで下さい。まるでこちらが悪モノのように見えるじゃありませんか!」
「ううっ…」
「まあ…これ以上こちらに醜聞を広められても困りますからね……そろそろ終わりにしましょう」
未だ起き上がれないエイプリルに笑みを浮かべる太蔵。カラカラとスコップを引き摺り恐怖を煽りながら彼女の元まで歩く。
(やはり…勝てないのですか……このような輩が相手でも……)
蹲るエイプリル。自分の弱さを改めて自覚し、そして呪う。
そして呪いの後に出たのは謝罪の言葉であった。
(すみません師匠…門司さん…睦美さん……チェルシーさん……すみません、すみません……)
謝り続けるエイプリル。目をぎゅっと閉じる。
とその時……。
『…軍ッ…将軍ッ…!!』
何処からか聞こえる声。
三度聞こえた同じ声。はじめはおぼろげな声がどんどんと輪郭を帯びていく。
『聞こえるか!将軍ッ!!』
そしてはっきりと聞こえた時エイプリルは顔を上げた。
「一体誰です?……それより将軍とは……?」
『そんなことは後からいくらでも説明してやる。このまま呑気に問答していたら迫って来ている卑劣スコップにアンタはやられちまからな……それよりもまずはお願いがあるんだよ』
「うぃ……私に?…生憎ですが今は……」
『自分を卑下するな将軍!お願いと言っても至って簡単だ!一瞬で出来る!!』
「……でしたらどのような…?」
『叫べ!アンタが俺達を認識出来たという事は…頭の中にある言葉が浮かんだはずだ、その浮かんだ言葉を叫ぶんだッ!!』
「叫ぶだけ…ですか…?」
『ああ叫ぶだけだッ!それで今のクソッタレな状況を変えられるッ!!』
「叫ぶと今の状況が、どうにか…なるの…ですか?」
『どうにかなる。いや俺達がどうにかしてやる!』
「………うぃ…」

「おや動かなくなりましたね…申し訳ないですが死なないで下さいよ。人質としての価値が下がりますから…」
そうエイプリルの眼前まで迫った太蔵。引き摺っていたスコップをゆっくりと振り上げる。
「でしたらそろそろ……お終いですッ!!」
『叫べッ!』
「……ッ、来て下さい!『死せる忠臣達の影シャドウ・レギオン』ッッ!!」
叫ぶエイプリル。振り下ろされるスコップ。
だが、スコップはエイプリルの肉体に触れることなく動きを止めた。
「なッ!!?」
予想外の事態に初めて驚愕の声を上げた太蔵。
見るとスコップは何かに掴まれる形で止められており、その何かとはエイプリルの影から現れた手のようなものであった。
更にエイプリルの影から何かが現れる。
それは狗の顔であり、太蔵がそう認識した時には彼の手首へと噛みついていた。
「なあッ!!」
『GURUUUUUUUUUUU……!!』
唸り声をあげながら、噛みつく牙を緩めることが無い狗の顔。
逆に万力の如く力を込め、太蔵の手首を噛み千切った。
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