プライベート・スペクタル

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第三話 第二章

第十節

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「『幻想夜会劇団』…?」
「はぁはぁ…うぃ……」
フッドに笑みを見せつつそう返したエイプリル。余裕を見せようとした笑みだったのだが…辛いのか大粒の汗が一筋流れる。
その様子を見てフッドは軽くため息を吐いた。
「……何を言い出すかと思えば、ヘタな嘘は自分の格を下げるだけだぞ…【演目】とは【星】の花形、【おれたち】自身の生き様のようなものだ。それを騙るなんて……そもそもそんな【演目】があるのなら、そんな状況になる前に何故出し惜しみした?」
「うぃ、言葉はご尤もです…しかし出し惜しみをする気は無く。初めての実戦でして少々準備に手間取ってしまいました。次からはもう少し早く演じれると思います…ただ……」
「なんだ?」
「私の【演目】の初公演、貴方をご満足させてあげられることは確かです」
「言うじゃあないか…ブーイングをされる準備だけはしておけよ」

【演目】『樹海猟犬 闇夜食宴』

獣の数を増やしエイプリルへと差し向けたフッド。
獣の群れは爪や牙を見せエイプリルへと一斉に殺到する。
杖をクルクルと回したエイプリル。石突の部分を地面へと突き立てた。

【演目】『幻想夜会劇団 開演』

杖を立てると同時に広がっていく影。影は舞台幕の様にエイプリルの周囲を取り囲む。
「それで姿を隠したつもりか!?」
完全に覆われシルエットだけが映るようになったエイプリル。だが獣の群れは構うことなく襲い掛かる。
その時、地面すら揺らすような大音量が響き渡った。
「ッ!?」
よく聞くとその音はファンファーレ。金属製の管楽器により発せられた突然の音に襲いかかろうとした獣達は怯み動きを止めた。
そしてファンファーレが終わり上がり始めた幕。同時にエイプリルの周りに現れたのは大勢の影達の一団であった。
『…………………』『……………………』『………………………』
一団を構成するのは主に二種類の影。
管楽器や打楽器等の楽器を有する楽団と銃剣付きのマスケット銃や旗付きの槍を手にした兵団。
隊形としてはエイプリルと楽団の周りを兵団が取り囲むような形である。
幕が上がりきると再び音楽を奏で始める楽団。
兵団はそれに合わせて銃や旗をバトンの様に回しながら踊り始めた。
「何だ?ただ単純に音楽を奏でる連中を増やしただけじゃあないか…」
何か仕掛ける事も無く奏で踊り続けるエイプリルの【演目】に不満そうに鼻を鳴らしたフッド。獣達を差し向ける。
獣達も音に慣れたのか今度は怯むことなくエイプリルに再び襲いかかった。
(それに俺はお前の能力の弱点はすでに看破している。致命的ともいえる弱点をな…)
そう思いつつエイプリルの視覚から姿を消したフッド。

エイプリルの能力。『死せる忠臣の影』その最大の弱点。
それは影達が自発的な行動が難しいという事である。
影という性質モノである以上。エイプリルの指示や命令がないと動くことが出来ない影達。
先のセンサーの様にある程度は前もっての準備で何とかできることは出来るかもしれないが、攻撃のタイミングや対象という細かい部分は全てエイプリル任せという状況なのである。
同じく能力に命を与えて形作るが野生の勘の様な修正や自立行動を与えるフッドとは裁量が違う。頭脳であるエイプリルが対処出来なくなれば、いくら物量や手数が多かろうと対応が不可能になるのである。

(そんな弱点があるなら行動は自ずと決まる。先の戦いと同じ意識外からの一撃。それで事足りる……)
体術や白兵戦能力は強くなり対応範囲は増しているが、前回とは異なりこちらも【演目】を演っている多対多の乱戦状態。必ず意識の死角が出来上がる。
そこを狙えばいい。
(ほら、現にこんな風に……)
言ったそばから現れた意識の死角。フッドは合わせるように短剣を振るう。
だが、エイプリルの足元から突如として伸びた影がそれを防いだ。
更に即座に影達の剣戟と銃撃が飛んでくる。
「ッツ!!?」
あまりにも早くさらに正確な反応に驚くフッド。
(見えているのか?)と考えたが見違える訳がない。エイプリルは今ようやくこちらに意識を向けた状態である。
「……ようやくこちらに?」
視線を周囲に広げたフッド。
そこには仕掛けていた獣達が次々と倒されている姿があった。
獣が弱いわけは決してない。フッド自身の見立てだが獣の方が数は少ないが、能力面では影達よりもずっと強い。
回復能力もあるがそれに追いつかないレベルで畳み込まれている
では何故なのか……理由は即座に理解った。
なんと影達は一体に対し十数人程度の複数体で獣と相対しているのである。
近接攻撃と遠距離攻撃。それぞれがそれぞれの不足を補うような立ち回り。
一つ一つの力は劣っているが数で勝る動き、連動し連携する事で影達はまるで一つの巨大な生き物の様に獣達を食い破っていった。
「そうか今わかった。音楽か!?」
察したフッド。一つしか存在しない司令塔エイプリルのみで影達をこんなにも組織だった動きが可能なのか?解答はこれしかなかった。
【演目】が演じられてから常に演奏され続ける音楽。【星】としての聴覚と視覚によりその音楽に合わせて影達が連動している事が理解出来た。
おそらく音楽隊が一つの指揮者として音楽を演奏する事で多数をあのように連動・連携させることを可能にしているのである。
「もしそうだとしても……なんだこの【演目】!?」
(タネを理解は出来たが、それだけでは到底思えない。もう何点か秘密がある!)
数を減らしていく獣達に思わず叫んだフッド。新たに獣達を生み出し戦力を補充しているが、間に合わせている程度で押し返すことも出来ない。

【演目】『幻想夜会劇団 第一幕』

突如ガラリと変わった曲調。
すると先程までと異なり影達は一斉に攻勢へと転じる。
更に先程までの影達の動きが違う。膂力や速度といった基礎性能が軒並み向上している。
(数十秒前の前曲の時の影達の動きじゃあないッ!?この性能はどう見ても下位・ないし中位クラスの【星】に匹敵する性能ッ!?)
何とか維持していた戦況であったが、曲調の変化と共にあっという間に覆され獣達はあっという間に全滅した。
「10日程度だぞ……こんな短時間で何故ここまで変わる!?」
以前とは違い過ぎる程の練度に思わず三笠へと問いかけたフッド。
「戦いの最中に仮にも敵側に声をかけるかねぇ…そこまで余裕が無いのかい?」
「…ッ!?」
「でも成長してくれたあの子の姿に私も嬉しいからね…一生懸命なエイプリルちゃんじゃあ今説明するのは難しいだろうし、私が説明してあげるさ」
そう言って説明を始めた三笠。

【演目】『幻想夜会劇団』。
今までに中々存在しないタイプの新進気鋭の【演目】。
大和や門司達の様なこれまでの【演目】みたいな、中に様々な技があるモノとは違い。それ自体が一つの技という全く新しい形の【演目】。

技が劇のようであり、開演から物語をなぞる様に次々と【演目】が進んで行くのである。
「まず初めの開演。それにより…影達の精密性や連携性が向上される。そして第一幕には影達の基礎能力の強化だね……」
そう言う形で劇が二幕、三幕と進んで行く毎に物語の盛り上がりの様に【演目】は強化され続けていくのである。
「紆余曲折、波乱万丈。陽気に楽しく先に進んで行くような【演目】。次世代に昇る【星】としてふさわしいモノだとは思わないかい?」

「……くそ!糞ッ!!糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞ッッ!!ファァアアアック!!!だから嫌だったんだ!こういう事になりかねないから、さっさととどめを刺せって!!」
自分の敗北を悟ったフッド。気まぐれによってこうなってしまったトワを恨むように呪詛の言葉を叫び放つ。
その叫びは影達の大波にその身が呑まれるまで止まる事は無かった。

【星団】『創世神』ⅤS『魔女の旅団』先鋒戦。エイプリルVSフッドのコレが決着であった。
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