装備製作系チートで異世界を自由に生きていきます

tera

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本編

501 宿直と学院七不思議・その4 水島ァ

「ポロオオオオオオン!!」

 もはやピアノの音でもなんでもない、怒りの声が音楽室に響いた。
 暗がりの中、ぼんやりの何かがピアノの正面に形作る。

「キュ!」

「あれは音の精霊の眷属だって、水島が!」

 音の精霊……、そんな精霊もいるのか。
 神様だったらウーラニア、精霊だったらセイレーン。
 音に関するもので、思い浮かぶのはそのあたりか。
 他にもいたかもしれないけど、他は知らん。
 別の存在だったら、それもそれで別になんでも良い。

「ポロォォォーーーーーッ!」

「キュィィィーーーーーッ!」

 音の精霊とイルカのおっさん。
 それぞれの音波攻撃の応酬が、音楽室に響き渡る。

 いずれにせよ。
 音楽室に居座るこいつをなんとかするしかない。

 宿直初日で音楽室がボロボロになるのは不味い。
 俺の責任問題となる。
 それだけはご勘弁願いたいのだ。

「水島! 精霊とかそういう類ならウネウネくん出すぞ!」

「キュイ!」

「そっちの方が教室ぐちゃぐちゃになるってさ!」

「確かに」

 巨大キングさんやワシたかくんの前には霞むけど、あいつもそれなりに大きい。
 考えなしに召喚したら、逆に教室を荒らしてしまうことになる。

「だったら窓開けて外に出すのは?」

「キュッ!」

「近所迷惑になるって!」

「うーむ……非常事態ならしかないと思うけど……」

 なんか魔物出て来て戦いましたって扱いなら許される。
 あ、でも。
 これで学院が一時休校とかそんな扱いになったら、2000万がお釈迦?
 いや、さすがに不測の事態だったら仕方ないと思うけどなあ……。

「キュイ!」

「秘策があるから任せてくれだって」

「あ、そう? だったら早めに──」

 ──バサバサバサバサ!
 その時、俺の顔面にナニカが大量にまとわりついて来た。

「うわっ」

「トウジ!? あ、あれは七不思議の一つ、目が光る肖像画だし!」

 顔に飛んで来た正体。
 それは音楽室の壁に飾られている肖像画たちだった。
 本当に目が光っている。
 そして、古い紙に描かれた顔が怪しく笑っている。

「あれも精霊の類?」

「たぶんそうだし!」

 いっぱいいるなあ……。

「これさ、無闇にぶった斬ったら器物破損扱いになったりするかな?」

「そんなこと言ってないでさっさと倒すし!」

「別にダメージ全く受けてないから、倒せるには倒せるけど……」

 なんか水島が最初の一撃を与えて怒り出した。
 だから、放置でも良いんじゃないかと思った。

 その七不思議とやらの言い伝えでは夜しか出ない。
 さらに今までも生徒に被害はないんだろ?

「もう面倒だから逃げようぜ」

 そんでもってドア閉めて封印だ、封印。
 もしかしたら、こいつらは単純にピアノが弾きたいだけなのかもしれない。
 古紙に描かれたおっさんの目から生徒を見守りたいだけなのかもしれない。

「いや、さすがにそれはダメだし」

「やっぱり?」

「普通に考えて、今までは運が良かっただけだし。七不思議の噂で生徒が怖がって、夜の音楽室に入らなかったから今まで何もおこならなかっただけだと思うし」

「でも宿直で普通に巡回するコースだぞ」

「人は襲わない精霊だったとしても、攻撃して刺激して怒らせちゃったのはトウジだし、そうなったらこれから宿直で回る人がもしかしたら攻撃を受けることになるかもしれないし、なんにせよ明確な敵意持ってるみたいだから、このまま放置って言うわけにはいかないし」

「うぐっ」

 珍しく長いセリフだと思ったら、至極真っ当なことを言いやがる。
 パンケーキ師匠に論破された瞬間だった。
 確かにもう引き金は引いてしまったから、ケリをつけるしかない。

「生徒たちの安全は、学院の平和は、あたしたちが守るし!」

「それ誰目線の発言なんだよ……」

「宿直!」

「まあ、得体の知れないものを放置しておくのもアレだし、きちんと倒しておくしかないか」

 インベントリから霧散の秘薬を取り出して、向かってくる紙連中に一気に振りまいた。
 どうせ精霊が取り付いたもんだったら、これで剥がれる。
 濡れてしまうけど、なんか湿気でやられてましたって言えばなんとかなるか。
 最悪弁償になっても、高価な楽器とかじゃない限りどうにでもなる。

 もっとも、楽器とか複雑な構造じゃない限り。
 こういう肖像画とか売ってるところにお邪魔して、適当な装備にカナトコするのさ。

「ポロ」「ポロロ」「ポロン」「ポロリ」

 肖像画から強制的に剥がされた音の精霊たちが、水島と音波合戦している音の精霊に集まっていく。
 ピアノを弾いていた振りをしていた精霊はどうやら周りの精霊の親玉的存在だったようだ。

「──ポロロオオオオオオオ!!」

 集まって一回り大きくなった音の精霊が叫ぶ。
 水島の相殺音波をかき消して、音楽室全域に激しい振動。
 至近距離にいた水島は、勢いに圧されてぶっ飛ばされた。

「ぐっ……!」

 膝をつく。
 まるでキングさんの雄叫びを至近距離で受けた様な気分だ。
 あれほどの破壊力はないにせよ。
 装備を貫通して、なんか体の芯に響いた気がする。

「トウジ! 大丈夫だし!?」

「まあね、とっさに耳塞いでくれてありがと」

「あたしは異常状態食らっても別に影響ないし、当然!」

 耳を塞いで効果があるのかはわからない。
 しかし、ジュノーがフードにいるだけで、それだけで。
 なんとなくバフがかかった気が……しないでもない。

「ど、どうするしトウジ!? でっかくなっちゃったし!?」

「大丈夫だろ」

 そのまま片手剣で敵を斬りつけても良いのだけど。
 水島が、俺がやると言わんばかりの表情をしている。
 そんな強い意志が伝わってくる。

「──水島ァ、秘策があるんだろ、水島ァ!」

「キュイ!」

 立ち上がった水島が、音の精霊に肉薄する。
 行く手を阻む様に、さらなる音波攻撃が水島に襲いかかるが……トゥルン。
 水島のトゥルトゥルの体表面から、なんかヌルヌルした液体が出た。

 まるで、音の中を泳ぐ様に動く水島。
 なんだあれ、なんだこいつ!
 激しく気持ち悪い動きだが、俺は嫌いじゃない。

「キュイィィ!」

 そして、手から生み出したドロドロの液体が精霊を取り囲んだ。
 さらになんだあれ!
 イルカのおっさんから出た脂汗にしか思えないのだけど。
 それによって音の精霊の音波攻撃が封じ込められていた。

「キュイ」

「音波系を遮断する体液だってさ、つまり水島の脂汗だし」

 脂汗なんだ……?
 やっぱり?

「キュイ」

「最初のエコーロケーションで、いっぱい居るのがわかったからひと塊りになるまで待ってたんだって」

「なるほど」

 やるじゃん水島。
 俺はお前はできる子だって、最初からわかっていたぞ。

「お疲れ水島」

「キュ、キュイ……」

 トゥルパァン。
 ヌルヌルの手とハイタッチしたら、水島がプルプルと震えだした。

「どうした水島!?」

「キュィィ」

「これで封じるのが精一杯だから、倒すのは頼みますだって、あと5秒持たないらしいし」

「うおおおおお! 水島ァーーー!」

 音の精霊は、俺が脂汗の玉の中に手を突っ込み滅多斬りにしてなんとかなった。








=====

 一方その頃、別箇所担当の宿直のおじさんは……。

「……ん? なんかすごい音がした様な気がするが……気のせいか……クラブ棟はおっかなくて仕方ないなあ……」

 校舎からでた生徒玄関先で、呑気に葉巻を吸っていた。
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