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本編

500 宿直と学院七不思議・その3 勝手になるピアノ

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 俺と水島は、ジュノーを連れてクラブ活動を主だってする別校舎へと向かった。
 腰が抜けたと言いつつ、俺のフードにちゃっかり収まったジュノーが言う。

「まず一つ目の七不思議は、このクラブ棟の音楽室にある著名音楽家の肖像画の目が夜な夜な光る……とかいう奴だし!」

「へー」

 ありがちだな、子供が考えた七不思議って感じがプンプンするぞ。

「ちゃんと聞くし! さらに安置されているピアノが誰もいないのに勝手に音色を奏でる……と言うダブルパンチだし!」

「へー」

 それもまたありがちだ。
 どこの世界でも音楽室というものは、そういった噂の宝庫らしい。

「ジュノー、そういうのはだいたい遅くまで居残り練習していた生徒って決まってんだよ」

「でも誰もいないって噂だし!」

「背の低い生徒がピアノ弾いてたら、そんな風に見えるんじゃない?」

「ぐむむー! でも光る肖像画の目はどうするし?」

「それも普通に説明できるぞ」

 俺のいた高校でも肖像画の噂はあった。
 著名音楽家の肖像画が笑ったり怒ったり悲しんだり、光を当てると目が光るとか。

「俺だって最初はちょっと怖いな……なんて思って、音楽の選択授業の時はそこはかとなく後ろに置かれた著名音楽家の肖像画が気になったりもしたけど……思ったよりもくだらない理由だったぞ」

「どういうことだし?」

「風が吹いて肖像画が揺れたら、なんとなく表情が変わった様に見えちゃうんだよ」

 そこに先入観だ。
 先輩たちから脈々と受け継がれてきた七不思議という先入観。
 それが、いつの間にか風ではためくだけの肖像画を怖いものに仕立て上げたのだ。

「だいたい全ての七不思議が、なんとなくそんな感じのゆるっとした見間違いから起こってんだ」

「目が光るのと関係なくないし?」

「それも説明できる」

「なんだし! もっと七不思議にロマンを感じろし!」

「いや……ある意味ロマンだった」

「へ?」

 光を当てると目が光る、この部分はまさに男のロマンから来ているのだ。
 それは虐げられた文化部男子だけの花園。

 体育会系文化部として有名な吹奏楽部は、体力づくりのためにジャージに着替える。
 だが男女比の差から、ヒエラルキーは女子が圧倒的に上位。
 男子部員は音楽室の隣にある音楽準備室的なカビ臭い楽器置き場で着替えることとなるのだ。

 そこで、歴代の吹奏楽部男子部員たちは考える。
 なんとか俺たちも青春したい。
 結果、ちょうど肖像画がある位置に二つだけ穴を開けて着替えを覗き見れる構造を作った。

「俺のいた学校じゃ、目が光る話の真相はそんな感じだったかな?」

「男ってバカばっかだし……」

 俺の話を聞いたジュノーは、呆れた様な顔をしていた。

「そんなもんのために枕抱えて追っかけてくるお前も十分バカだろ」

「バカ言うなし! そんなことないし!」

 ちなみに、この真相の出所はクラスの陰キャ連中。
 こそこそそんな話をしているのをたまたま聞いていた。
 俺は陰キャからも除外された孤立勢力。
 そんな男のロマンに立ち入ることもできずに終わった。

「こんな噂が広まるってことは、音楽室に誰かがいたんだろ?」

「うん、たまたま着替えてた吹奏楽クラブの部員が見たって……」

「ほら、ただの覗きじゃん」

「やだやだ、こんなのあたしが求めてきた七不思議じゃない!」

「噂の真相とかって、だいたいがそんなチンケなもんだぞ?」

 ここは異世界だから不思議が溢れ尽くして飽和してるけど。
 俺のいた世界では全ての噂がいたずらとか見間違いで済む。

 ドラゴンとか、ただの大きなトカゲが鳥に捕まって空飛んでただけ。
 竜も何かの拍子に蛇が空飛んだんだろ。
 竜巻で魚が空を飛ぶ気候的な現象だってあるんだから、あるある。

 河童とかは、たぶん滝壺で鍛錬を行う修行僧。
 重たい亀の甲羅を背負って、頭の皿の水を落とさない様に特殊な訓練を行なっていたはずだ。

「空想は空想だから良いんだよ。だから浸れるんだよ、妄想ってやつは」

「何言ってるし、いきなり。ドラゴンは空想なんかじゃないし、いるし、見たし」

 確かに。
 空想が現実ある世界なんだよな、ここは。

「キュイ」

「水島もカッパは魔物で想像じゃないよって言ってるし」

「え、カッパっているんだ……?」

「キュイ」

「遠い東の地に存在する、水辺の魔物の一大勢力らしいし」

「へ、へえ……」

 水棲どもの勢力争いなんて興味ない。
 しかし、ゾンビや精霊がいるんだから幽霊だっているだろうよ。
 逆にそれが、七不思議をただの魔物の悪さだってことに貶めている。

「仮に七不思議がガチだったとしても、倒しゃ良いだろ」

 俺はそう言いつつ、マスターキーを使って音楽室の扉を開けた。
 すると、ポロン……ポロン……。

「ぬ?」

 音楽室の奥のちょっと段差が高くなった場所に設置されているピアノから音がなっていた。

「で、でたー! 七不思議だし! 真夜中になるピアノ!」

 ポロン、ポロン。
 窓から差し込む月明かりに照らされたピアノには、誰も座っていない。
 位置的に奏者が隠れている、なんてことはなく。
 ジュノーの言う通り、ガチで誰もいないのにピアノが音を奏でていた。

「確かに誰もいないのに、鳴ってんな」

「耳を塞ぐし! この音色を聞いたら呪い殺されるって話だし!」

 フードの後ろから俺の耳を必死に塞ごうとするジュノー。

「大丈夫だよ、霧散の秘薬まだ効果続いてるから」

「それでどうにかなる様な……なるの?」

「なるよ」

 たかが七不思議の呪いなんぞ、怨嗟の鎖に比べたら圧倒的格下。
 それをものともしなかった霧散の秘薬にかかればイチコロだ。

 ポロン、ポロン。
 あれ、でもおかしいぞ。

 ピアノの音は鳴ってるのに、鍵盤は沈んでいる様子がない。

「……水島、音波攻撃とエコーロケーション」

「キュイ」

 キィィィィーン!
 ピアノの音をかき消す様な超高周波の音波が水島から発せられる。

「──ポロッ!?」

 なんかピアノの音が、ちょっとびっくりした感じの声みたいに変わった。
 こりゃ、ビンゴだな。
 七不思議の一つ、見破ったり。

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