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本編
499 宿直と学院七不思議・その2 さらばマクラス
しおりを挟む俺と水島はアシュレイ手書きの地図を片手に、一度外へと出て裏庭へと向かっていた。
ソレイル王立総合学院の裏庭の敷地は、芝や木々が植えられている。
昼はそれほどでもない、と思っていたのだけど、夜はそれなりな雰囲気を持っていた。
「頼む、水島」
「キュ」
俺の呼びかけに頷いた水島は、トゥルトゥルの頭頂部を震わせた。
これはエコーロケーションのようなものだ。
リバフィンは超音波のような技を使い敵を攻撃する。
それを見回りに役立ててもらったのだ。
魔物の体内器官を用いたエコーロケーション。
それは普通のイルカやシャチよりも優れる。
攻撃にも索敵にも、なんでもござれの器用貧乏。
それが、水島という存在だ。
まさにサモンモンスター界隈の何でも屋として機能しつつある。
「すごいぞ水島、さすがだ水島」
「キュ」
俺の言葉に、ムキっとガッツポーズを取る水島。
格好つけているが、皮下脂肪すごい水棲種族だからでっぷりしている。
だが、それが水島、それこそ水島。
巡回の索敵要員としてポチを呼ぼうかと思っていたけど必要ないね。
あいつ女子学生のマスコットとしてきゃっきゃうふふされてるからな。
しばらく学院には連れて来ない様にしてやる、嫉妬じゃないぞ。
ポチは俺だけのマスコットでいてくれたら良いんです。
「で……水島、何かいた?」
何もいなければ、裏庭の安全確認はひとまずオッケー。
「キュイ」
しかし、水島は裏庭を見据えながら指差していた。
どうやら、何かがこの裏庭にいるらしい。
「……コソ泥か?」
はたまた、夜中に忍び込んできた悪ガキどもか。
どちらにせよ。
業務としてはそう言うのを学院から追い出すこと。
万が一のことを考えつつ、慎重に裏庭に足を踏み入れることにした。
図鑑を常に表示させて、何かあれば水島チェンジと行く。
こういう時はロイ様の出番だ。
キングさんは、こういうガチでしょうもないことで呼び出したら怒るけど。
ロイ様って面倒見が良いからこういう時でも付き合ってくれるのだ。
やっぱり妻子持ちって丸くなるのかな?
スライムの世界でも、伴侶を持つと守りに入るというのだろうか。
「キュ」
「え? 潜んでいるのは人間ではない? ……ってことは魔物か」
水島がそう教えてくれた。
エコーロケーションで裏庭にいた者の大きさが判別できたらしい。
どうやら、妖精ほどの大きさの魔物が茂みの中に潜んでいる様だ。
「魔物だったらそのままドロップアイテムに変えるだけだから、楽だな」
「キュ」
「よし、行くぞ」
わざわざ相手を確認する必要がなくなったので、水島の案内とともにクイックで駆け抜けた。
先手必勝、そのままさっさと倒して巡回の続きを行う。
「水島!」
「キュイイイイイイ」
指向性を持った超音波攻撃が潜んでいると思われる茂みを揺らした。
細かい振動で、草木がワサワサと音を立てる。
「──ぴえっ!?」
その音に混じって声が聞こえた。
超音波攻撃はクリーンヒットした様で、その隙をついて処理する。
「そこか!」
「──まっ、ままま待って待って待つし待つし!」
「は?」
なんか聞き覚えのある声だと思った。
だが、俺の片手剣はそのまま勢いよく茂みごと魔物をぶった斬る。
バツンと柔らかい感覚。
茂みの草木と一緒に羽毛が周りに飛び散った。
「その声、ジュノーか!?」
慌てて切り捨てた茂みをライトで照らす。
やばい、俺間違えてジュノーをやっちまったかもしれない。
すると、横真っ二つに斬られた枕に捕まって震えるジュノーがいた。
「はわわわわ……こ、腰が抜けたし……おしっこ漏れそう……」
大丈夫だった、まだ生きてた。
まさに間一髪。
俺の片手剣はジュノーの頭の上数センチを通り抜けてただけらしい。
分体だから首チョンパしても死なないけど。
それでも間違えて手にかけてしまわず、一安心である。
「何やってんだよ! 心臓止まるかと思ったわ!」
「こ、こっちのセリフだし!」
「いや、こればっかりは俺のセリフだ。なんでいるんだよ」
ほっと胸をなで下ろして、改めてここにいる理由を聞く。
「えっと……マクラスがないと宿直中寝れないかと思って……」
「なんだその理由……」
マクラスはジュノーの身代わりになってもう半分死んでるよ。
今まさにジュノーの代わりにぶった斬ってしまったから。
ああ、俺の愛用の枕……。
そもそも、いつも奪われてるからそれが無くても寝れるんだけどな。
「キュッ、キュイッ!」
そんなやりとりをしていると、水島がペコペコと俺とジュノーに頭を下げる。
ジュノーだって分からず魔物扱いしたことを反省して謝っているらしい。
「いや良いよ水島。エコーロケーションだと、大きさくらいしか分からないんだし」
妖精くらいの大きさだと思ったのは、ジュノーがわざわざマクラスを持ってきていたからだ。
これはもう事故として処理して、何もなかったから良しとすることしよう……。
「ジュノーお前、マジで何しに来たんだよ……」
「そ、それはトウジが学院七不思議にやられないか心配だったから来たんだし!」
「ええ……」
「夜の学院は七不思議がすごく恐ろしくて、生徒のみんながもうたくさん餌食になってるって小耳に挟んだんだし!」
異世界の摩訶不思議存在であるダンジョンコアにそんなこと言われてもな……。
ダンジョンの餌食になる人間の方が多いぞ。
罠踏んでそのまま後ろ振り返ったら仲間消えてるとか普通にあるらしいしな。
次元が違う。
「つーか、邪竜とかダンジョンコアよりマシだろ?」
「それでも心配だったんだし!!」
言葉の雰囲気から、なんだがガチで心配して駆けつけてきた感が伝わってきた。
マジかよ……。
まあ心配してくれるのはありがたいってことにして、もう何も言わないことにする。
「ジュノー、よくイグニールの目を掻い潜ってここまでこれたな」
「抜かりないし。マイヤーとお風呂に入ってる隙に抜けてきたし! これがその証拠!」
と、俺の前に見せたのはくまさんパンツ。
紛れもなく、イグニールのユニークものだ。
「お前さあ……」
なんで持ってきたし。
怒られるの俺なんだけど……。
「受け取るし」
「断固拒否。後でイグニールのタンスに戻しておけよ。俺知らないからな」
「わかったし。でも水島と一緒に宿直するなら、通訳欲しくないし?」
「そりゃ確かに通訳は便利だけど……」
「だったら迷惑かけないから付いて行きたい! お願いだし!」
「はあ……わかったよ」
ここで家に帰れって言っても絶対に帰らないだろう。
気になってこっそり付いてくるくらいならば、目の届く範囲にいた方がマシだ。
いちいち連れて帰るのも面倒だしな。
「はぐれないでね」
「わかってるし! あたしがトウジを七不思議から守るし!」
「はいはい」
どうにもこうにも、最近なんだかみんな自由奔放にしてる気がする。
まあ、虐げたり強制したりするつもりはないから別に良いのだけど。
自主性は、前々から尊重していたしね。
しかしながら、良い加減そろそろストレスが……禿げそうだぞ。
=====
本日は3回更新のさんでー。
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