文字の大きさ
大
中
小
198 / 650
本編
499 宿直と学院七不思議・その2 さらばマクラス
俺と水島はアシュレイ手書きの地図を片手に、一度外へと出て裏庭へと向かっていた。
ソレイル王立総合学院の裏庭の敷地は、芝や木々が植えられている。
昼はそれほどでもない、と思っていたのだけど、夜はそれなりな雰囲気を持っていた。
「頼む、水島」
「キュ」
俺の呼びかけに頷いた水島は、トゥルトゥルの頭頂部を震わせた。
これはエコーロケーションのようなものだ。
リバフィンは超音波のような技を使い敵を攻撃する。
それを見回りに役立ててもらったのだ。
魔物の体内器官を用いたエコーロケーション。
それは普通のイルカやシャチよりも優れる。
攻撃にも索敵にも、なんでもござれの器用貧乏。
それが、水島という存在だ。
まさにサモンモンスター界隈の何でも屋として機能しつつある。
「すごいぞ水島、さすがだ水島」
「キュ」
俺の言葉に、ムキっとガッツポーズを取る水島。
格好つけているが、皮下脂肪すごい水棲種族だからでっぷりしている。
だが、それが水島、それこそ水島。
巡回の索敵要員としてポチを呼ぼうかと思っていたけど必要ないね。
あいつ女子学生のマスコットとしてきゃっきゃうふふされてるからな。
しばらく学院には連れて来ない様にしてやる、嫉妬じゃないぞ。
ポチは俺だけのマスコットでいてくれたら良いんです。
「で……水島、何かいた?」
何もいなければ、裏庭の安全確認はひとまずオッケー。
「キュイ」
しかし、水島は裏庭を見据えながら指差していた。
どうやら、何かがこの裏庭にいるらしい。
「……コソ泥か?」
はたまた、夜中に忍び込んできた悪ガキどもか。
どちらにせよ。
業務としてはそう言うのを学院から追い出すこと。
万が一のことを考えつつ、慎重に裏庭に足を踏み入れることにした。
図鑑を常に表示させて、何かあれば水島チェンジと行く。
こういう時はロイ様の出番だ。
キングさんは、こういうガチでしょうもないことで呼び出したら怒るけど。
ロイ様って面倒見が良いからこういう時でも付き合ってくれるのだ。
やっぱり妻子持ちって丸くなるのかな?
スライムの世界でも、伴侶を持つと守りに入るというのだろうか。
「キュ」
「え? 潜んでいるのは人間ではない? ……ってことは魔物か」
水島がそう教えてくれた。
エコーロケーションで裏庭にいた者の大きさが判別できたらしい。
どうやら、妖精ほどの大きさの魔物が茂みの中に潜んでいる様だ。
「魔物だったらそのままドロップアイテムに変えるだけだから、楽だな」
「キュ」
「よし、行くぞ」
わざわざ相手を確認する必要がなくなったので、水島の案内とともにクイックで駆け抜けた。
先手必勝、そのままさっさと倒して巡回の続きを行う。
「水島!」
「キュイイイイイイ」
指向性を持った超音波攻撃が潜んでいると思われる茂みを揺らした。
細かい振動で、草木がワサワサと音を立てる。
「──ぴえっ!?」
その音に混じって声が聞こえた。
超音波攻撃はクリーンヒットした様で、その隙をついて処理する。
「そこか!」
「──まっ、ままま待って待って待つし待つし!」
「は?」
なんか聞き覚えのある声だと思った。
だが、俺の片手剣はそのまま勢いよく茂みごと魔物をぶった斬る。
バツンと柔らかい感覚。
茂みの草木と一緒に羽毛が周りに飛び散った。
「その声、ジュノーか!?」
慌てて切り捨てた茂みをライトで照らす。
やばい、俺間違えてジュノーをやっちまったかもしれない。
すると、横真っ二つに斬られた枕に捕まって震えるジュノーがいた。
「はわわわわ……こ、腰が抜けたし……おしっこ漏れそう……」
大丈夫だった、まだ生きてた。
まさに間一髪。
俺の片手剣はジュノーの頭の上数センチを通り抜けてただけらしい。
分体だから首チョンパしても死なないけど。
それでも間違えて手にかけてしまわず、一安心である。
「何やってんだよ! 心臓止まるかと思ったわ!」
「こ、こっちのセリフだし!」
「いや、こればっかりは俺のセリフだ。なんでいるんだよ」
ほっと胸をなで下ろして、改めてここにいる理由を聞く。
「えっと……マクラスがないと宿直中寝れないかと思って……」
「なんだその理由……」
マクラスはジュノーの身代わりになってもう半分死んでるよ。
今まさにジュノーの代わりにぶった斬ってしまったから。
ああ、俺の愛用の枕……。
そもそも、いつも奪われてるからそれが無くても寝れるんだけどな。
「キュッ、キュイッ!」
そんなやりとりをしていると、水島がペコペコと俺とジュノーに頭を下げる。
ジュノーだって分からず魔物扱いしたことを反省して謝っているらしい。
「いや良いよ水島。エコーロケーションだと、大きさくらいしか分からないんだし」
妖精くらいの大きさだと思ったのは、ジュノーがわざわざマクラスを持ってきていたからだ。
これはもう事故として処理して、何もなかったから良しとすることしよう……。
「ジュノーお前、マジで何しに来たんだよ……」
「そ、それはトウジが学院七不思議にやられないか心配だったから来たんだし!」
「ええ……」
「夜の学院は七不思議がすごく恐ろしくて、生徒のみんながもうたくさん餌食になってるって小耳に挟んだんだし!」
異世界の摩訶不思議存在であるダンジョンコアにそんなこと言われてもな……。
ダンジョンの餌食になる人間の方が多いぞ。
罠踏んでそのまま後ろ振り返ったら仲間消えてるとか普通にあるらしいしな。
次元が違う。
「つーか、邪竜とかダンジョンコアよりマシだろ?」
「それでも心配だったんだし!!」
言葉の雰囲気から、なんだがガチで心配して駆けつけてきた感が伝わってきた。
マジかよ……。
まあ心配してくれるのはありがたいってことにして、もう何も言わないことにする。
「ジュノー、よくイグニールの目を掻い潜ってここまでこれたな」
「抜かりないし。マイヤーとお風呂に入ってる隙に抜けてきたし! これがその証拠!」
と、俺の前に見せたのはくまさんパンツ。
紛れもなく、イグニールのユニークものだ。
「お前さあ……」
なんで持ってきたし。
怒られるの俺なんだけど……。
「受け取るし」
「断固拒否。後でイグニールのタンスに戻しておけよ。俺知らないからな」
「わかったし。でも水島と一緒に宿直するなら、通訳欲しくないし?」
「そりゃ確かに通訳は便利だけど……」
「だったら迷惑かけないから付いて行きたい! お願いだし!」
「はあ……わかったよ」
ここで家に帰れって言っても絶対に帰らないだろう。
気になってこっそり付いてくるくらいならば、目の届く範囲にいた方がマシだ。
いちいち連れて帰るのも面倒だしな。
「はぐれないでね」
「わかってるし! あたしがトウジを七不思議から守るし!」
「はいはい」
どうにもこうにも、最近なんだかみんな自由奔放にしてる気がする。
まあ、虐げたり強制したりするつもりはないから別に良いのだけど。
自主性は、前々から尊重していたしね。
しかしながら、良い加減そろそろストレスが……禿げそうだぞ。
=====
本日は3回更新のさんでー。
感想 9,840
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
「お前さえいなければ」と言われたので死んだことにしてみたら、なぜか必死で捜索されています(旧:いらないと言ったのはあなたの方なのに)
水谷繭※7/30書籍発売予定です!6/29まで公開します。
完結まで一括投稿済。
なろうの方では削除する予定はありませんので、読み途中たけれど読みきれないという場合はそちらでお願いします☺️
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。
セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。
エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。
ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。
しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。
◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました
◆小説家になろうにも投稿しています
凱旋した英雄は聖女を選びました。~冬の補給路を守っていた私は静かに軍を去ります~
握夢(グーム)「君は後方にいただけだ」――
凱旋した英雄の婚約者からそう切り捨てられた私は、
静かに軍を辞職しました。
――冬の補給路管理。
――兵糧配分。
――医薬品輸送。
――損耗率管理。
全部、私の仕事だったのですが。
三週間後、
王国軍は補給崩壊。
「なぜ食糧が届かない!」
「なぜ兵が飢える!」
……逆にお聞きしますが、
今まで“なぜか全部上手く回っていた”理由を、
一度でも考えたことはありましたか?
これは、
誰にも評価されなかった兵站官(へいたんかん)が、
隣国の辺境伯にだけ価値を見抜かれ、
人生を取り戻す物語。
今更「戻ってきてくれ」と泣きつかれても、
私は隣国の最高機密ですので――!
真の皇帝は俺です ~面倒だから幼なじみに帝位を任せていたら、婚約者に捨てられました。正体を明かしたら全員後悔してももう遅い~
由香皇帝の仕事が面倒だったレインは、信頼する幼なじみアレクシスに表向きの皇帝を任せ、自身は陰から帝国を支えていた。
だがある日、婚約者エミリアは「権力も将来性もない」と彼を見限り婚約破棄を宣言する。
しかし彼女は知らなかった。
帝国を動かしていた真の支配者が誰なのかを。
これは全てを持ちながら隠していた男と、見るべきものを見失った者たちの後悔の物語。
悪役令嬢ですが、兄たちが過保護すぎて恋ができません
由香乙女ゲームの悪役令嬢・セレフィーナに転生した私。
破滅回避のため、目立たず静かに生きる――はずだった。
しかし現実は、三人の兄による全力溺愛&完全監視生活。
外出には護衛、交友関係は管理制、笑顔すら規制対象!?
さらに兄の親友である最強騎士・カインが護衛として加わり、
静かで誠実な優しさに、次第に心が揺れていく。
「恋をすると破滅する」
そう信じて避けてきた想いの先で待っていたのは、
断罪も修羅場もない、安心で騒がしい未来だった――。
処刑されるはずだった没落令嬢ですが、姫様の初夜を身代わりしたら子を授かりました
新 星緒没落伯爵令嬢のエルゼは大恩がある姫様を救うために、初夜の身代わりを引き受ける。
そして姫様や国を守るために誰にも行く先を告げずに国を去った。
三年後。初夜の晩に息子ヴァルターを授かっていたエルゼは、ひっそりと暮らしていた。ところが元婚約者に拉致られて、あわやというところに初夜の相手であるハインツ王子が現れる。
「ようやく見つけた。エルゼ、愛している」
「初夜の相手が君だと最初からわかっていたが?」
――身代わり初夜から始まる、純愛溺愛執着愛のお話!