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本編
621 アメリカンドッグ・中編
しおりを挟む並んでいる最中に声かけて客引っ張って行く奴なんていない。
なんだか意表を突かれた様な気持ちになった。
客引きアグレッシブ過ぎるだろ、新宿だったら捕まってるぞ。
「……はあ」
ため息をついていると、おっさんが言う。
「まあ、そうため息つかないでくれよ、食ってってくれ」
「ええ……」
新感覚パンケーキソーセージって言ってたよな?
それは果たして美味しいのだろうか。
甘いとしょっぱいが融合した感じなのだろうか。
ま、まあ気にならんこともない。
ポチに目を向けると。
「ふんすふんす」
なんだか気になる様で尻尾を振っていた。
よし買おう。
その姿を見て思った。
「とりあえず一つください」
「あいよー!」
焼き台の上に大きめのソーセージが並べられる。
そして、焼き台から熱が出てジュウジュウとソーセージの焼ける匂いが漂ってきた。
焼き台は格子状になっていて、その上に鉄板をおいてそこでパンケーキが焼かれる。
「あれ、ボロい割にはこの屋台魔導機器なんですね」
「まっ、中古で買った型落ち品だけどな!」
「へー、良いっすね、便利そうで」
「おう、わざわざ炭起こしたりする手間が省けて良いぜ」
でもな、とおっさんはソーセージを転がしながら続ける。
「借金こさえて買ったんだが、客がまだゼロだったからヤバかったんだ」
「えっ」
今、さらっと何を呟いたんだ、このおっさん。
「客ゼロって……マジすか……?」
「ん? おう、お前さんが俺の初めての客だぜ!」
「……ちなみに、営業はいつから……?」
「一週間前だ」
全然穴場じゃねぇ!
地元民もよく知る穴場的な店かと思ったが、ちげえ。
しかも客ゼロって、一週間経っても何も売れてねえ。
マジかよ……。
いやしかし、待てよ。
実は物珍しさとか、毎日同じ店を使うクロイツの国民性。
それが合わさって、このおっさんの料理も売れなかった。
的な?
どこかで見たパターンなのかもしれない。
実はすごく美味いけど運がなかったとか、そういう展開。
パインのおっさんルートを辿る存在。
実食してみると、価値観が変わってくるかもしれんのだ。
「よっしゃ、できたぜ」
そんな訳で、出来上がったものを素直に食べてみることにした。
渡されたのは、パンケーキで挟まれたソーセージ。
朝食としては、あながち悪くはない組み合わせである。
グリルとパンケーキを掛け合わせた食べ物なんて、珍しくもない。
あくまで、俺の元いた世界ではな?
ファーストフード店の朝メニューでは、だいたい定番でもあった。
「なにかソースとかないんですか?」
「ん? ケチャップとマスタードならあるぜ?」
「……いや、大丈夫です」
それは普通のホットドッグの組み合わせなんじゃないだろうか。
このまま食べるもんだぜ、と言うので、実際に一口齧ってみる。
「とりあえずポチ、食べようか」
「アォン!」
がぶっ、もっちゃもっちゃもっちゃ。
…………。
もっちゃもっちゃもっちゃもっちゃ。
…………おえっ。
何だろう、柔らかいパンケーキはすごく甘めに作られている。
それにひきかえソーセージはぶにゅっとしていてしょっぱい。
甘さとしょっぱさの新感覚は紛うことなく感じるのだが……。
「うーん……」
「アォン……」
食ってる感覚が、なんかどことなく気持ち悪かった。
うん、これは普通に美味しくないぞ、正直に不味い。
別に悪くない組み合わせなんじゃないかと思う。
しかし、味覚を貫く怒涛の感覚はない。
単純に、このおっさんの料理が下手くそだった。
パインさんルートを期待したのだが、なんとも……。
なんとも、お粗末な屋台だろうか。
借金こさえて屋台を買ったという割には、人がいないのも納得である。
「……どうだ? 他所から来たお前さん的には?」
おっさんは俺の顔を覗き込んで不安そうな顔をしていた。
微妙な表情をしていると思うんだけど……わからんか。
「えっと、普通に別々で食べたいです」
ここで美味しいと言っても失礼なので、素直に感想を述べる。
「……やっぱそうなのか~!」
すると、おっさんは頭を抱えて膝をついていた。
強引な客引きをするくせに、メンタルは脆い様だ。
ちなみに無精髭が生えてるところもパインのおっさんに似ている。
唯一違うところは、ガタイがそこまで良くないことと髪が長いところ。
その辺を見ると、元冒険者とかではなさそうな感じだった。
「くぅー、たまたま発見した料理文献を解読して、これはいけると思ったのに……」
「料理文献?」
「おう、もともと王立図書館の司書を束ねる立場だったんだ、そこで見っけたんだよ」
「そうなんすか」
つーことは、何か?
脱サラみたいなことをして、屋台を営業することにしたのか?
バカか、こいつ。
真っ当な仕事についてるなら、それをずっとやっとけよ……。
「……正直、屋台やるよりそっちの仕事をしていた方が良いと思いますけど」
「もうあそこに戻る気はねえ! 俺は料理を作って生きていきたいんだ!」
「そうなんですか……」
並々足らぬ想いは良いと思うけど。
センスよ、センス。
それならどこかで料理の勉強した方がいいと思った。
ポチにだって、師匠がいる。
師匠がいない状況だったら、インサスみたいに手探りでやるしかないんだから。
教えと経験がないと、料理なんてパッとできるものではないのだよ。
しかも、人様に出すようなもんなんて、なおさらだ。
「薄暗い部屋の中で、四六時中ずーっと古代の賢者や勇者の残した文字を解読するなんてやってらんないの! それに、人間関係だって、なんか根暗なやつばっかりだし、俺は笑顔で居たいんだ! 人間笑顔じゃなきゃダメだろどちくしょー!」
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