装備製作系チートで異世界を自由に生きていきます

tera

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本編

622 アメリカンドッグ・後編

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「古代の賢者や勇者の残した文字を解読する……?」

「そうだよ、これがちっともわからないんだ!」

 おっさんは頭を掻き毟りながら喚く。

「3種類の言語を使ってて、何とか読み解こうとしてみても意味合いがガラッと変わってるっつーめちゃくちゃ高度な暗号過ぎるんだ! ずーっと昔から解読を試みられて来ているけど、ほとんどの国がもう匙を投げてる状況なんだわ!」

 まあ、確かに日本語って難しいっていうよな。
 漢字、ひらがな、カタナカ。
 さらに漢字には音読み訓読みとかあるし、熟語で意味も違ってくる。

 その分、情報量とか多いし早いんだけど。
 日本人でも完璧に使いこなせるやつなんてほぼ居ない。

「俺だって投げたいよ! 上からの命令でもう10年も書物を読み漁ってるよ!」

 おっさんは「もううんざり、うんざりだ……」と凹む。
 自分のやってる仕事とか、職場の人間関係とか。
 何かと悩むことが多く、そんな中であったのが勇者のレシピ。
 そして職を捨てて、料理の道へと進んだそうだ。

「だ、誰かに相談したりとかしました……?」

「職場はなんかギスギスしてて相談に乗ってくれるやついない」

「あっ」

 何もいきなり辞めなくても、と思ったのだけど。
 職場が嫌過ぎて電撃退職したらしい。

「ご、ご家族は……」

「仕事辞めたら手紙残して実家に帰った」

「ああっ」

 何か質問する度に墓穴を掘ってしまうぞ、これ。
 その度におっさんは「ズーン」と地面に沈んでいく。

「おれぁ、この料理でひと旗あげるんだあ……」

 最終的には嫁と子供に戻って来てもらいたいそうだ。
 でもまあ、嫁さんも気持ちもわからんでもない。

 勇者や賢者の残した書物。
 この世界ではかなり貴重な代物だろう。
 それを自由に読める職業の下をまとめる立場。
 わりかし高級取りの部類ではないだろうか?

「何より美味しいもの食って人を笑顔にしたいんだあ……」

「おっさん……」

「ギスギスは嫌なんだあ、みんな笑ってる方がいいんだあ……」

「アォン……」

 うつ伏せで地面に横たわって涙を流す姿は何とも可哀想に思えた。
 しかし、家族がいていきなり相談もなしに脱サラは良くないだろ。
 その辺は自業自得だ。

 色々とついてなかったんだなあ。
 十年かかって解読したものが、過去の勇者の好物だってのも……どうよ。

「うぐう……パンケーキの材料とソーセージを使った料理だってことは確かなんだあ……」

「アォン……」

 ついには咽び泣き始めたおっさん。
 でもまあパンケーキもソーセージもお世辞に美味しいとは言えない。
 そもそもスタートラインに立ってすらいない訳だが、本は気になる。

 今の勇者たちを元の世界に送り返す方法があるのか。
 それを調べる上で、過去の文献は大いに役立つだろう。

 考えてもみろ。
 何故、日本語で、書物を残した?

 再び召喚された人へのメッセージが込められている。
 俺はライデンの先祖の本を見て、そう確信していた。

「おっさん」

「なんだよ……死体蹴りか? ああ、蹴ろよ、蹴っても心が汚れるだけだぞ、兄ちゃんのな」

 すっかり自暴自棄だな……。
 何だかこういう人は自分と重なって見過ごせない。
 だから、俺はこんな提案を持ちかける。

「おっさんが作ろうとしてた料理なら、俺知ってますよ」

「えっ!? 本当か!?」

「ええ、俺も昔の勇者の情報とかちょっと気になってまして、結構各地を旅して情報を集めて回ってたんです。それで、俺の故郷に伝承として伝わるものと、少し似ている部分があるんですよ、その料理」

 過去の勇者と同じような国から来たとは言わずにそう説明しておく。
 無難だしな、この方が。
 そして恐らく、昔の勇者が好きだった食い物って、アメリカンドッグだろ。
 日本人で、パンケーキ的な味付けの奴とソーセージを一緒に食べる料理。

 うん、それしかねーよな?
 そうじゃなくても、適当ブッこいてアメリカンドッグを流行らせとけ。
 それでおっさんの願いは叶うのだから。

「おおっ!」

 表情を明るくするおっさんに、こんな提案もする。

「その代わりですけど、過去の勇者が残した書物を見せていただくことって可能ですかね?」

「うーん……もう退職してる身なんだけど……そうだなあ……良いのができたら差し入れで前の職場の連中に最初に味わってもらいてえし、その方法で中に入れるかもな! まだ顔は覚えられてるはずだ!」

「お願いします」

 ふと、こんなことしなくてもアドラーに言えば見せてくれるのかもしれないと思った。
 だがしかし、これも禊だ。
 おっさん可哀想だし、ポチも何とかしてあげたいみたいだし、協力しよう。

 そんでもって、今まで勇者に翻訳を頼まなかったという理由について考えてみた。
 たぶんだけど、召喚される勇者がみんな日本人だって、異世界の人は気づいていない。
 話す言葉は、すべて異世界の言語に合わせられて聞こえるからだ。
 同じ言葉をしゃべっていた、なんて気付きようもないのである。
 今の眠った勇者の他に、召喚された勇者なんていないから、文字の確認のしようもなかった。

 だから、残された書物に関しての解読は任されなかったのだろう。
 もしくは、勇者があえてデプリに書物を残さなかったとか……な。





=====
3話で終わらせるつもりで前編とかサブタイをつけた自分自身をぶん殴りたい。
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