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本編

680 やれやれ、また新手のトラブ──痛

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「うーむ……」

「トウジ、何を悩んでるの?」

 俺の唸り声を聞いて、イグニールが声をかける。

「いや、色々とやるべきことが多いな、と思って」

「やるべきこと、ねえ……」

 冒険者のトップを決める催し事への参戦もあるのだが、他にも色々だ。
 ピーちゃんを送り返し、トガルにいるウィンストにも会わないと。

 ルートとしては、冒険者イベント。
 その合間にピーちゃんを送り届ける。
 で、帰りのルートでウィンスト。

 こんなところだろうか?
 そのまま昔の賢者の情報が聞ければ、そっちに向かうのもアリだ。

 冒険者イベントって、結構長い間行われる予定である。
 果たして、ギリスに戻ってくるのはいつになることやら、だ。

 ある程度の生活は飛空船内で可能。
 長期的な休みがあれば、都度ギリスに戻ると言う選択肢もある。

 マイヤーに負担を強いるわけにもいかんし。
 一つ用事が済めば、戻ることもありかもしれんね。

「臨機応変にで良いんじゃない?」

「そうかな?」

「今まで、一度も予定通りに行動したことないでしょ?」

「……そうだっけなあ……」

 そもそも予定というものを立てて行動することがあまりなかった。
 冒険者の依頼は突発的なものでもある。
 一応集団で受ける依頼は予定を立てるが、全ての行程に予習は必要ない。
 だいたい誰もがその時々によって考えて動く。

 すげーびっちり予定を決めていたのはガレーくらいだな、今のところ。
 あいつはやばいぞ。
 10通り以上、どう動くか決めてからそれ通りに行動していた。
 性格がもっと柔らかくなれば、傑物と言っても良いほどの存在。

 何にせよ、自然に情報戦なんてものの確定的な情報はない。
 見た聞いた、痕跡を見つけた、って状況での一発勝負。
 どれだけ準備を整えようが、自然の唐突な猛威は予測できない。

「まあ……可能な限り早く帰れる手段を取ろうか」

 イグニールの言葉にも流されて、そういう結論に至る。

「そうしましょ」

 どうせ、ことが上手く運んで終わる、だなんてことはないんだ。
 何か起こって、それに巻き込まれて、てんやわんやするだろう。
 何もないと良いのだが、何かがあると思い行動するぞ、今回は。

「ってことで、目の前にクラウド型の魔物が出現するとかな!」

「きゃっ」

 ふと思い立って、バッと走って窓を開けて外を見てみる。
 窓はガラス製だが、俺のガチガチ盾装備にて堅牢だ。
 ダメージの一部をはじき返す装備効果を持った盾でもある。

「何なのよ、いきなり……」

 唐突な俺の動きに、尻餅をついたイグニール。
 お尻を抑えながら近づいてくるので言う。

「俺たちが旅に出ると、だいたい何か起こるだろ?」

「そうね」

「だから前もっていつでも対処できるように備えておこうかなって」

「それでいきなり動き出したのね。まったく、わけわかんないわよ」

「ごめんごめん」

 でもまあ、時計を気にすると時間の進みが遅くなる。
 その理論でいけば……。
 常に新手のトラブルかと気をつけていれば、トラブルは来ないのでは?

 はいはいまた面倒ごとね、面倒ごと、とかやれやれ感を出していれば。
 面倒ごとは来ないのでは?

 運命を捻じ曲げる、とはそう言う何らかの思いのせめぎ合いなんじゃなかろうか。
 相対性理論に、ヘタレた感情でぶつかっていくぞ、俺は!(???)

「トウジ、そっちの窓じゃなくて、こっちの窓からなんか見えるし」

「……おー?」

 船中央のリビングルームは、フロアをぶち抜いたように広く作られている。
 故に左右の窓が見渡せるのだが、逆の方を見ながらジュノーが言った。

「ドラゴンっぽくないし?」

「……?」

 昨今ドラゴンとか特殊なやつ以外見たことも聞いたこともないぞ。
 冒険者ギルドの情報にもドラゴン退治とかはほとんどない。

 何故かって?
 普通の人じゃ勝てない災害クラスとされているからだ。

 ウィンストの肩にいるチビも、基本ワイバーンの亜種とか思われる。
 竜に似たような形状を持った、竜には大きく劣る生き物だと。
 俺が知るドラゴンは、装備となったイビルテール、チビとなったガイアドラゴン。
 そして骨のままで俺のインベントリにいる個体。

 ともに、とんでもない魔力を秘めていて、邪竜三兄弟なんか最強クラスだ。
 ダンジョンコアや勇者がいなければ、世界を滅ぼせるくらいのやつである。

「はは、そんなドラゴンがこんなところで」

「──ギャオオオオオオオオオオオオオオ!!」

「……やれやれ、まーた新手のトラブルか」

 髪をかき上げながらフッと高貴なため息っぽい様を演出しているとイグニールに叩かれた。

「アホなことやってないで早く戦闘準備! なんかヤバいわよあれ!」







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